■ギリシャ危機  (No.432)

世界中を混乱させているギリシャでは,この日曜日に国民投票が行われ,これをアップした頃には結果が判明している。ギリシャ危機に詳しいわけではないが,これだけ大きな話題になっているので,それについて考えてみる。

  なぜ,ギリシャがこんな危機に陥ったのか?

ギリシャの国の借金が40兆円弱(IMF推計)とか,或いは一部報道では実際にはその倍の80兆円を超すとか云われている。この借金返済の期限が次々迫ってくるのに対して,返済ができず,これまで何度かあった危機を乗り越えるために,IMFなどを始めとして借金を上塗りする形で,繰り延ばしをしてきている。今回,流石のEUもしびれをきらし,ギリシャが緊縮財政をしないかぎり遅延を認めず,この6月末で,デフォルト(債務不履行)に陥ってしまったのである。

ニュースで知る限りでは,もともとギリシャの放漫な財政は指摘されており,公務員が労働人口の1/4にも及ぶもので,2010年に財政赤字をこれまで4%程度と公表されていたのが,実際には13%程度もあったことが発覚し,一気に信用の低下に繋がったとされている。ユーロ導入基準として,物価の安定性や政府の財務状態などがあり,政府の単年度赤字がGDPの3%を超えないことになっていたが,ギリシャはウソの申告で,実際には赤字額が12,3%もあったという。このような国をそもそもユーロ圏に入れたEU諸国も甘かったのかも知れない。

もともとギリシャはユーロ圏に加盟する前から財政は厳しく,借金するにも高利(18%)で容易に借金できない状態だったのが,ユーロ圏加盟と共に,一気に利率が3%に下がり,借金が容易にできる状態に変化し,それが元でEUからの借金が雪だるま式に増えて行ったようである。もともとの国民性が,一気に懐が豊かになった気分になって増長したに外ならない。年金制度にも非常に優遇され,年金が55歳から前倒し支給され,現役時代の約80%程度が支給されるという待遇である。こんな国は世界中を探しても全く無い。

しかし,一方ではこんな見方もあるようだ。我々はEU同盟とユーロ圏とは切り離せないようにも見えるが,EU加盟国でユーロを使っていない国もある。EU加盟28カ国で,そのうち19カ国がユーロ圏で,デンマーク,スウェーデン,イギリスなどはユーロでなく独自通貨を使っている。つまり,ユーロ圏を最適通貨圏以上に拡大し,インフレ率が高いギリシャなどと比較して,ドイツは輸出で競争力が増し,受益国となって,ドイツがギリシャを支援する理由は十分あると云う。なぜ,ここまで何度も支援してきたのか説明が付く。ドイツがギリシャに緊縮財政を強いてギリシャ経済の苦境から脱出するのを妨げてきたのが問題だと云う。つまり悪いのはドイツにあるとの見方である。

  国民投票は正しい選択なのか?

経済の困窮はともかく,緊縮財政を認めるか否かを国民投票に問うと云うチプラス首相の態度は,国民に丸投げで,首相としての役割を放棄しているとしか感じられない。もともと緊縮財政に反対して選挙で選ばれた首相なので,EUからの緊縮財政を認めがたいのは理解はできるが,一国を預かった首相として,出口も見出せずに追い込まれてしまい,国民に丸投げでは余りにも酷いと言わざるを得ない。

民主政治の根幹である国民の意見を尊重することは重要なことではあるが,この前大阪で行われた大阪都構想の住民投票とは意味合いが全く違う。大阪都構想は,住民の生活と密着したもので,住民の意見を尊重し,住民投票で決着を図ることは重要な手段として認められる。しかし,ギリシャの緊縮財政の賛否は,国の存亡が掛かっており,一国民の意見を尊重することではない。

賛否を判断する大多数の国民が,EU諸国との関係や,ギリシャの国としての立場を十分理解できているとは思えない。賛否の判断の根拠が,目先の自分の生活など,自分の生活に有利かどうかに依拠することになってしまう。銀行の預金が引き出せなくなるとか,もちろん,直接影響が出てくる場面も無いわけではないが,国の行く末を国民の判断に委ねるとは,首相失格と言わざるを得ない。もちろん,このような首相を選んだギリシャ国民に責任が無いとも云えない。

首相自身が反対投票を呼びかけている。これもおかしなことで,自分自身,緊縮財政に反対を表明して選ばれた首相であり,自らの手で国民の意思を尊重して,EU側と交渉できる権限を持っているにも拘わらず,その権利を放棄している。これは,自分の役割を投げ出し,国民の支持に従って保身しているだけである。自分の力の無さの証明である。こんな首相に一国の将来を託すことはできないのは必然の結末ではないだろうか?

衆愚政治と云うものがある。これは,判断力の乏しい人間に参政権が与えられ,その愚かさ故に合意形成ができず政策が停滞したりする愚かな政策が実行される状況を指すが,当にギリシャの現状はそのものである。そもそも,衆愚政治の発端は,古代ギリシャのアテナイ(現アテネ)で行われたもので,民主主義の最大の欠点を表しているものである。この血筋を引いているのかも知れない。この衆愚政治を行う限り,明るい将来は描けない。チプラス首相以外の,国を憂う政治家が出てきて,再建を目指す外に打つ手は無いのでは無かろうか。もちろん,一気に解決できるような策は無く,幾多の困難を乗り越えなければならない覚悟は必至である。

ギリシャの危機は,ギリシャ一国だけでなく,世界経済を揺るがしている

世界経済にも関心を持とう!!

 

[Reported by H.Nishimura 2015.07.06]


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