■個を活かす 4  (No.422)

これまで,個を活かすことについて述べてきたが,ここでは個を活かすことが,企業の生成発展に繋がることについて述べてみよう(続き)

   自己変革できる企業とは?

エクセレントカンパニーと称される企業の多くが,過去の成功体験を活かして,企業内でベスト・プラクティスを普及させてきているが,これは同時に,組織の惰性や硬直化を生み出す危険性を伴っている。それと同時に,トップマネジメントが成功体験から,傲慢な態度をとることはよくあることである。つまり,内部に目を向け,外部に対して自己満足に陥ってしまっている状態である。栄枯盛衰,盛者必衰と云われるように,どの企業も,営々と成長することは容易なことではない。

しかし,そうした中にあって,生成発展し続けている企業もある。それは,ダーウィンが「進化論」の中で言った「最も強いものが生き残るのではなく,最も賢いものが生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは,変化に対応できるものである」。これに象徴されるように,企業でも同じことが繰り返されている。つまり,エクセレントだけでは生き残れず,変化に対応できる企業が生き残ってきている。

それでは,変化に対応できている企業とはどんな企業なのか?それは,企業自身が自己変革できるような仕組みを構築し,成功している企業である。そうした企業では,単に改善を積み重ねるのではなく,「生まれ変わる意識」に近い感覚,即ち新たな学習曲線に飛び移る能力に立脚した変革が行われている。そこでは「ストレッチ」と呼ばれる個人の持つ潜在能力を完全に引き出すように刺激し,それぞれの組織が最高水準に達することができるように挑戦させている。

このストレッチとは,組織の中間層や現場が,過去の実績や現在の制約にとらわれて組織や自分自身のことを考えるのではなく,将来の可能性の観点から考えるように促すことである。つまり,プログラム化された変革を押しつけるのではなく,考え方や態度を変化させ,適応させていくやり方である。その必要条件には,共通の志を築くこと,集団としてのアイデンティティを持つこと,そしてこれらを個人の意欲と行動に結びつけること,などであった。それらは,企業の成功と自己の能力開発に対する個人のコミットメントを重要視するものであった。

トップ・マネジメントの中には,変革の必要性をスローガンのように唱えながらも,本心では組織の中で最も保守的な部類の属する人が数多く存在する。頭では変革の必要性を認めていても,感情的に,また多くの場合無意識のうちに,築き上げた過去から得られる安定や保護を求めてしまうのである。成功者としての自負と経験から,そうならざるを得ないのである。しかし,社員はスローガンや演説の中から本心を見抜き,経営者の行動から真実を掴むのは容易なことである。つまり,企業は保守的に陥りやすいことを意味している。

そのことを打破できるのは,強いリーダシップを持ったトップ・マネジメントのみである。自己変革のできている企業には,必ず,カリスマ的なリーダが存在し,社員の意識改革の先頭に立っているケースが殆どである。そして,リーダの主たる役割として,戦略の中身をコントロールすることから,戦略の文脈を整えながら,チャンスが明白になる前に資源を投入する決断をすることである。

事業の継続的な自己変革は,合理化を続けて業績を向上させる必要性と,活性化を続けて成長と拡大を図る必要性との,二つの力の間に生じる緊張関係の上に築かれている。普通一般には,これらは相反するものであるが,自己変革できている企業では,これら二つを相互補完的なものと捉えている。つまり,絶えず改善に取り組むだけてなく,ストレッチした目標を掲げ,その達成も目指そうとしており,むしろ後者の方が目標を達成し易いことを学んでいる。つまり,抜本的な見直しができるからである。

その背景には,個性を活かす環境が整えられていることであり,そうした環境を十分に活かすことが自分たちの役割であると認識した社員がいる。コントロールによる統制は確実に足並みは揃うかも知れないが,それ以上の進展は見られない。一方,個性を活かし,ストレッチした目標を掲げ,自由闊達な振る舞いを勧めチャレンジングな集団は,トップの采配一つで自己増殖しながら生き続けようとするものである。

個を活かす企業のみが生成発展し続ける!!

参考図書:「個を活かす企業」 ダイヤモンド社(2007)

 

[Reported by H.Nishimura 2015.04.27]


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