■個を活かす 3  (No.420)

個を活かすことについて考える(続き)

  上に立つ人の役割

組織内で個を活かすかどうかは,その上に立つ上司の考え方に大きく左右される面がある。組織の長は,組織力を最大限に発揮させることが大きな役割である。部下を育てることも同様に重要な役割であるには違いないが,組織を乱すようなことまでを許して個性を尊重するようなことまではなかなかできない。つまり,組織あっての個性の発揮である。

ところが,個性の強い人間は,往々にして組織人としては欠けるところがあることが多い。謂わば,自己中心的な部分が結構強く,組織体制で縛られることが不得手な人間が多い。これまでの経験では,上司の懐の深さのようなものがあって,ある程度は組織をはみ出すような行動を取ることもあるが,キラリと光る鋭い感覚,技術を発揮する面もあるような人間を,上司の許せる範囲で自由気ままにさせることで,個性を活かすようにしているケースである。

このように個性を活かす環境が,企業内にあるか無いかで,人の能力を大いに左右するモチベーションが違ってくる。要するに,モチベーションの高い環境下では,人は能力以上の力を発揮することがある。つまり,その人の持つ能力を最大限有効活用することで,本人にとっても企業にとってもプラスになる。上司としては,一つの理想的な仕事の与え方である。でも,現実にはこのような上司に恵まれることはめったに無い。なぜならば,通常の場合,組織に与えられている仕事と,個性を活かす仕事のベクトルが合わないことの方が多い。つまり,優秀な個性を持っていても,組織としての仕事が優先され,むしろ個性は組織の中では埋没させられてしまうことが多いのである。

3Mに於ける「15%ルール」のように会社組織で,個性を発揮できる機会を時間内で自由に与えられているケースは少ない。だから,仕事として指揮命令するのは上司であるから,上司の仕事内で,部下にある意味自由気ままにさせる時間を与えることで,個性を活かすチャンスを作ってやることである。仕事は全員が100%の能力を発揮してもできないものもあれば,全員の能力からは80%程度が確実にできればやり遂げられる仕事もある。こうしたとき,部下が多ければ,一人くらい与えられた仕事以外で自由にやらせることが可能で,それが思わぬ結果をもたらすことも起こり得るのである。

その日その日が勝負のような部署もあれば,研究所のようにそうした部署と比較すれば自由度の大きい部署もある。そうした研究所などでは,上司のテーマとして,ものになるかどうかは定かではないが,きらりと光るもので,個性を十二分に発揮できるようなものがあれば,やらせてみるのは面白い。雁字搦めの環境よりも,車のハンドルの遊びではないが,少しゆとりのある方が,好結果が期待できることはよくあることである。

もちろん,上司の中には,上のことばかりを気にしているような人も居る。こうした人の下では,個性を活かすことなど更々難しい。上司の機嫌を取ることが,処世術のような振る舞いで,部下の育成などは二の次で,指揮命令もしっかりした芯が無く,上の顔色で指示命令もころころ変わることが多い。部下にとってはいい迷惑である。こんな上司に巡り合ったときは,じっと我慢するしかない。現実には,いろいろなケースに遭遇する。

  個を活かす組織とは?

これまでは,組織にあっての個を活かすことを考えてきたが,それは従来組織に於けるもので,前提にこれまでの組織がある。しかし,真に個性を活かす企業には,個性を活かすことを前提とした企業組織があるはずである。これについて考えてみることにする。3M社に見られたように,彼らの基準には,個人の能力に対する深く誠実で揺るぎない信頼がある。

先ずは,個人の自発性を引き出すために,自分が関与していることに対しては「当事者意識を持つ」ようにすることである。これは,これまでの組織運営が上からの指揮命令が統率された管理組織下の基で行われたこととは対照的に,エンパワーメントとも云われる個人に対する信頼が根底にある分権化がなされた運営で,現場に近い柔軟な素早い対応が付加価値を生み出す根源となり,当然,当事者意識はより強いものになっていく。

もちろん,現場の自由采配はネガティブな面が無いわけではなく,その不安を払拭するのが,全社的なレベルでの規律を深く刻み込ませている。人は自由な環境下では,ただ単に方針に従う以上のことをする。即ち,自己規律が徹底できている組織では,自分の行動に対しては自己責任をきっちり背負うことができているのである。もちろん,このようなことができる背景には,明確な業績基準や,情報の公開,常に挑戦できる環境づくりなどがある。

ただ,個人の自発性や学習意欲などを刺激するだけでは,組織の効果を高めることはできず,企業の生成発展には結びつかない。個人が如何に優れた能力や意欲を持っていようと,個人の力のみで成功することは難しい。つまり,個人の自発性と専門性を発揮させるだけではなく,組織内に分散している自発性を結合させ,分散しているノウハウを活用させ,組織学習と行動の継続的なプロセスを構築し,根付かせることが大切なのである。

昨今の情報社会では,ネットワークでの情報を取捨選択して,自分の仕事に活かすことは容易く,当たり前のことになっている。その取捨選択する情報が,企業内の個人の優れたノウハウが凝縮されたデータベースにアクセスできれば鬼に金棒である。つまり,組織内の横のつながりがネットワーク上で構築できるようになってきている。仲間同士のコラボレーションが上手くできるような仕組みである。こうした企業文化を創ることは容易なことではないが,出来上がると素晴らしい威力を発揮する。もちろん,この背景にも,個人への信頼であり,社員が参加意識を持つような,透明,且つ開放的な,公正なマネジメントがあるからであり,企業に根付いている規範や価値観から生まれてくるものである。

現在,多くの企業が「コラボレーションの専門家」を目指しているとも云える。コラボレーションの専門家になることこそが,知識を創造し,社内で広める能力を高め,組織学習を競争優位の源泉とすることができる。このことが,次に述べる,企業の自己改革へと繋がって行くのである。

個を活かすには上司の役割は大きい

個を活かす組織を考えてみよう!

 

[Reported by H.Nishimura 2015.04.13]


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