■個を活かす 1 (No.418)
個人経営をしている人ならいざ知らず,企業に勤めている技術者は,自由気ままに思う存分仕事ができる環境に居る人は少ないだろう。個性を伸ばすとか,個を活かすとか,個人の能力を大切にしようと云う掛け声は聞かれるが,掛け声だけで,実際には個性よりも,組織としての役割を求められることが多い。企業では,個人としてする仕事よりも,組織としてする仕事の方が強力で,事が上手く運ぶことが多いのが実態である。なのに,個を活かすことを重要と見なす訳はなぜだろう。
会社生活を振り返ってみて
技術者として会社生活を振り返って,「個を活かす」ことができただろうか?素直な疑問である。組織として,チームとして何かをやり遂げたと云うことはあっても,それが「個を活かす」ことができたとは云えない。個性を伸ばすと云う面で,自分の得意とするところ,関心のあるところに力を注ぎ,大きく成長させることは,ある程度させてもらったような感覚はあるが,自分ではそれが企業で「個を活かす」ことに繋がっているかどうかは定かでない。
しかし,よくよく考えてみると,組織やチームで仕事をしているとき,メンバーの各々の個性的な特長を活かして活動しようとしていたことは確かである。不得手な面を補うことも必要なことであったが,競争下にあって一歩先を行くには,各々の個性の特長を活かし,全体でのバランスを上手く取ることが最優先される。或いは,何かに光ったものを持っている技術者には,その光った部分,尖った部分を大いに活かせる仕事の与え方をしてきた。
必ずしもメンバー全員が特長となるような光ったものを持っている訳けではない。むしろ,特長が目立たない技術者の方が普通一般的である。そんな中でも,少しでも本人のやる気の出そうなことを見出し,それに集中させることで,少しでも個性を伸ばし,活かして貰おうと考えたものである。口で云うには簡単なことであるが,実際に現実の仕事を進める中で,常にそういった状況が作れる訳ではなかったのも事実である。
朧気ながら,年間のスローガンに「個を活かす」と云うことがあったように記憶している。要は,個人が伸び伸びと仕事をする環境で,会社全体を活き活き,溌剌として状態を作りだし,その活力で,会社を成長させようとする試みだったような気がしている。それほど成果があった記憶はないが,会社が大企業病化しつつある症状に対するアンチテーゼだったような気もする。
チームプレーか,個人技か?
チームプレイを大切に,或いは個人技が重要,などとスポーツの世界では,チームプレイに徹する方が良いか,それとも個人技を伸ばすことの方が重要なのか論じられることがある。サッカーなど,特に仲間との連携が重要視されるスポーツでは,個人技の優れた者が居たとしても,独りではなかなか勝ち目は無い。それよりも,仲間との連携した動きで,相手のディフェンス陣を崩してゴールを奪うことが見た目にも素晴らしい。日本サッカーのお家芸でもある。しかし,このチームプレイでも,個人技を磨かなければ思い通りの展開は作れず,下手な者の集まりではチームプレイもあったものではないことも事実である。
各自の得意とする特長を活かしてチームを作り,個人技に優れ,且つチームプレイができることが勝因に繋がる。つまり,メンバーの各々が個人技を磨き,秀でたものを創り,その上でチームとして素早い連携などの訓練を重ね,相手を上回る攻撃,或いは守備ができ,勝利を手にできるのであって,どちらか一方で良いと云うことではない。両者の上手く取れたバランスが重要なのである。
ここでのチームプレイは,チームとしてメンバーの連携が重要視されるが,その基には「個を活かす」ことがあり,最後のシュートでも,或いは最終の守備でも,ここでは個人技の発揮であり,個人技が優った方が優勢となり勝利が傾くことになる。日本のサッカーにおいても,まだまだ欧州のサッカーと比較すると,チームプレイはそこそこできていても,個人技で劣っているように見えるのは私一人ではあるまい。
プロのスポーツを見れば明らかであるが,各個人はその業界では個人技として優れたものを持っている。秀でた特長を持っていなければ,プロのスポーツ選手にはなれない。つまり,相手に勝つ,頂点を極めようとすれば,個人技を磨くことが先ずあって,そこでチームとして競争するスポーツでは,チームプレイが必要となってくる。優秀な個人技を有していても,チームプレイには歯が立たないことはよくあることである。このことは即ち,チームプレイか,個人技かを論じる段階で,ある一定レベルの個人技を有していることが前提となっているのではないか。
チームプレイと個人技のどちらを優先するか?
その前提に,個人技がある一定レベルに到達していることがあるのでは?
[Reported by H.Nishimura 2015.03.30]
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