■機能安全について (No.388)
電気部品と自動車部品の物づくりの違いに続いて,機能安全について述べる。
機能安全の意味
機能安全とは,本質安全とは違っていて,事例で説明されているのでは,踏切の事故に対して,信号機を付けて安全を確保しようとするのが「機能安全」であって,立体交差にして安全を確保しようとするのが「本質安全」とあり,分かり易い説明である。
つまり,事故を防止する方法にもいろいろあって,信号機を付けて注意喚起を促し安全な踏切にするのに対して,自動車や歩行者などが線路内に入ることの無いようにして安全を確保する方法もあり,明らかに後者の方が安全が確保されることは容易に判断が付く。ただ,すべての踏切でそのような対策が採られていないのは,費用が大きく違い,信号機だけでも十分安全が担保されているからである。
本来は本質安全を考え実施するべきであるが,実施の可能性,費用などから,機能安全を検討し実施することで,ある程度確実に事故を防止することができることから,自動車についても「機能安全」が検討されていると考えられる。
機能安全の取り組み
自動車へ部品を納入するメーカは挙って機能安全に対する取り組みを始めている。これは,トヨタの事故で起こった米国の公聴会での対応の拙さの教訓から学び取った安全に対する考え方である。トヨタは安全に関してこれまでからいろいろな対策を検討し,安全に対して手抜かりは無かった。しかし,自動車の事故は完全に回避することは困難で,安全対策についての考え方を訴えたが,その証拠となるもの(ドキュメント類)が不十分だったことから,敗訴となったことに端を発している。
数年前になるが,自動車の機能安全についての講習会を受講した経験がある。そこでは,機能安全の全般の取り組みの紹介がなされ,主にソフトウェアの安全性についての話が中心だった。ドイツの話だったと思うが,ソフトウェアが機器に組み込まれるようになって以来,安全に関する事故が増加傾向にあり,その対応策にIECなどいろいろな規格が検討されているとのことだった。
受講者は自動車部品を納入するメーカの技術者や品質関連の関係者が多かったように感じられた。講義の内容は,自動車事故は恐ろしいことを知らせ,その事故に対する防御策,如何に事故を起こさないようにするかを検討する取り組みである。それ自体はすばらしいことではあるが,講演やセミナーなどの話は一般的なことで,事故が起こったとき訴追されるのを防御する,即ち被害を最少に防御する仕組みが中心で,本来の安全の考え方を実践するには繋がらない話が多い。確かに,ハウツーの安全設計の解説はあるが,それも事故に対する本来なされるべき安全に対する考え方や技術者としての取り組み姿勢には触れられていない内容だった。
やはり,トヨタの事故を教訓に説明責任を果たすことができるようにとの思いが強い。もちろん,日本のメーカにとっては重要なことであるが,本当の安全設計はそんなところには無い。もちろん,解説者も知った上での説明である。実際,物づくりの現場で,安全な物づくりをした経験者が自らの体験を基に語っているケースは少ない。1,2時間の講演で説明できないほど奥深いものがあるし,なかなか言葉だけでは説明できないノウハウが含まれている。だからどうしても説明責任で被害を最少に食い止める方法のやり方の話になってしまう。
講義が終わって,講演者に直に質問をしてみた。日本の自動車メーカの安全は世界に誇れるものであり,機能安全の説明会をするのならば,本来安全確保に対する考え方や,具体的な取り組み,部品メーカに対する要望を中心に,自動車メーカ,部品メーカが一体となって,本質安全に近づく機能安全を確立しようとする話にすべきではないか。講演の内容は,ドキュメントなど事故後の防御の話ばかりではないか?と,問い質した。ITメーカが主催の講演会ではやむを得ないことを承知の上での質問である。1対1で,個別に質問すると,私の考えに違いは無いのだがと口ごもった応えだった。
説明会や講演会の案内だけしか,その後は見ていないが,いずれも事故後の防御策が殆どである。日本の自動車メーカの安全については,私が言うのもおかしな話かも知れないが,世界一素晴らしいものだと思っている。その考え方や取り組み姿勢を十分語らずして機能安全の講習会とは?と今も感じている。技術者として,自動車メーカに鍛えられ,安全について家電メーカでは教わり得なかった経験をしたことから,講演会といえども,実際に設計の現場で安全を取り仕切っている技術者が生の声で,安全を語り,部品メーカの技術者に共感を与えることこそ,本来の安全教育ではないかと痛切に感じている。
機能安全の講習会の取り組みに疑問を呈しながら・・・
[Reported by H.Nishimura 2014.09.01]
Copyright (C)2014 Hitoshi Nishimura