■電気部品と自動車部品の物づくりの違い  (No.387)

日本の自動車メーカは元気がよく,家電製品メーカはテレビを代表にして元気がない。ここ数年はその傾向が顕著である。一方で自動車の機械中心から電子化への動きも大きく,多くの中心たる部品が電子化されてきている。しかし,個々の部品まで遡るとスマホなどに使われているものと同じ電子部品で構成されている。違いはどこにあるのか?家電の電子部品メーカで長年,自動車用電装品の開発をやってきた経験から述べてみる。

  最近の流れ

自動車のエンジンルームを眺めてみても,エンジンコントローラを初めとして,電子部品が到るところに使われている。エンジンルーム以外のダッシュボード(計器類のあるところ)などは電気部品のかたまりになってきている。この傾向から電子部品メーカでも従来の家電製品向け中心から,自動車部品,即ち電装品に力を注いでいる企業が多くなってきている。

この流れは今に始まったことではない。一度採用されると,最低2年間,長く続くと車種のモデルチェンジが繰り返されても,継続して採用される安定性から,自動車用の電装品として電子部品メーカは力を注いできた。ただ,自動車は品質がうるさく,価格が厳しいと毛嫌いする幹部も多かったように思う。過去の栄光にすがる幹部が指揮する電子部品メーカは自動車メーカを敬遠していた。しかし,昨今,家電が儲からなくなり,電装品へシフトしてきている実態がある。

ただ,やはり一つの壁があるように感じられているふしもある。物づくりそのものの考え方が家電メーカと自動車メーカでは明らかに違っている。ただ流れとして家電離れが進んでおり,後述する機能安全などのセミナーには,多くの家電メーカの技術者も押し寄せ,如何にすれば自動車用の部品として採用されるかを学ぼうとしている姿がある。

  家電製品の物づくり

家電製品の物づくりは,基本的には大量生産で機械化を図り,品質を確保しながら安価な製品を届けようと云うシステムである。従来は,このやり方で進めてきて結構利益が確保できていた。ところが,デジタル化した多機能,高性能なCPUなどを利用することで,製品がコモディティ化すると,しっかりした電子部品を使えさえすれば,簡単な部品の組み合わせによって品質も確保でき,機能もかなりレベルの高いものになり,日本の物づくりでなくても十分な品質で顧客を満足させることができるようになり,価格破壊と共に,日本の家電メーカはつぶされてきた。

確かに日本の家電メーカも品質にはシビアで,高品質を売り物にしてはいるが,海外の安価な製品とそれほど品質に差がついていない。どちらかと云えば,電子部品は価格競争の領域である。家電と自動車との違いは,家電では使われる環境がやさしく電子部品に負荷が掛かる度合いが小さく,品質によって差が出てこない環境下である。また,最近の製品は壊れにくく,結構長持ちし,寿命が尽きる頃には新しい製品に変化して,安価で買い換え需要に繋がっているので,顧客からのクレームも少ない。

家電製品では,これまでの日本の物づくりの特長が活かせないようになってしまっている。低価格に押され,利益が出ない構造に余儀なく追いやられ,工場をたたんでしまうことにもなってしまっている。

  自動車の物づくり

自動車に組み込まれる部品はすべてでは無いが,人命事故に関わるものが多くある。使われる箇所によって安全度合いを振り分け,重要安全部品に指定されているものもある。家電と比較すると,まだまだ物づくりでの安全確保が,顧客の満足度を左右していることが多い。だからこそ,自動車ではまだまだ日本の物づくりが注目されている。

家電製品と大きく違うのは,単なる部品の組み合わせでは安全や品質確保が難しく,複雑なノウハウが詰まった物づくりが大きな売り物になっている。顧客は多少価格がはっても,安全な高品質な車を選ぶ傾向がある。もちろん,家電製品と違い,市中を走り回るのでステータスシンボルにもなっている。だから,中にはかっこいい高級車を見得で購入している顧客もいる。

しかし,自動車にとっては安全で高品質であることが最も基本中の基本で,安全や品質に多少手抜きをしたような価格優先の車は売れない。この点は,家電製品とは全く違うと云ってもよい。家電製品が品質が悪いと云うことではなく,品質や安全に対する物づくりの姿勢そのものが根本的に違っている。

昔は,電子部品は家電製品向けも,自動車部品向けも同じようなラインで作られていた。大量生産することで安定な品質を保っているため,当然であった。しかし,自動車メーカによっては,同じ電子部品の作り方では満足しないことがあり,家電製品向けのラインとは別の生産ラインで物づくりをする要求をされた。コストは高くついても,品質を最優先に置いた物づくりを要求し,安定需要を与えることで価格は据え置かれることが多かった。

また,家電メーカは,同じ物づくりの電子部品メーカとして,電子部品メーカに品質なのは任せ放しにしたのに対して,自動車メーカの検査部門(品質部門)は必ず,工程に立ち入り,管理工程図を基に,確実に管理ポイントをチェックし,品質確保のための管理ポイントを追加させ,自分たちの目で確かめ,品質を確保すると云うやり方で,物づくりの源流まで遡って,徹底した品質確保をすることが当たり前のように行われていた。だから,自動車メーカへ電子部品を納入する部署は,自ずと品質に厳しさが備わるようになっていた。

家電メーカの品質部門に相当するのが,自動車メーカの検査部門である。受入する部品の品質から,出荷する自動車の安全・品質の責任を一手に背負っているこの検査部門が責任と同時に権限を持っている。この検査部門が厳しく振る舞って安全の担保をしていると云える。家電の品質部門とは雲泥の差があるように見える。

家電と自動車の物づくりにおける安全に対する大きな違いがある

 

 

[Reported by H.Nishimura 2014.08.25]


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