■Fコストについて 3 (No.383)
Fコストを改善する活動はいろいろな場面で行われている。しかし,なかなか思うように下がらないのが実態である。その下がらない理由を考えてみる。
1.原因までたどりつけない(現象で止まっている)
現象の裏返しでは対策にならない。「そんなことはしていない」とFコスト対策をしている人は云う。しかし,例えばこんな会話はないか?「新製品の歩留が悪いので,新製品の歩留を上げる。これは技術の責任である。」これが対策になっていないか。これは対策でも何でもない。現象を裏返しているだけである。新製品の歩留が悪いのは理由があるはずである。これを技術の責任だと云うのは間違いではない。でも,こうしたことで,新製品の歩留が飛躍的に上がった例はない。技術者が歩留に関心を持つことで少しは上がることがあるが,こんなことが真の原因ではない。
もう少し,掘り下げると,次に出てくるのが,DR(デザインレビュー)が十分できていない,と云う議論である。これも少しは効果がある。きっちりDRをやるかやらないかで効果は違う。しかし,原因はこうした管理力が不足していてFコストがどれだけ改善できるか,と云う点である。新たなカテゴリーの商品では,こうしたことが効果が出ることはあるが,長年やっている商品では,暗黙知であるノウハウがそれなりに入り込んでいることが多い。それを外部から表面的に見て,管理力を云々するのは,本質をついてはいない。ただ,管理力がない組織では,それに反発できることもできず,その言葉に流されてしまっている。
新製品の歩留に関しては,例えば,製品カテゴリー,製品の難易度(仕様の厳しさと現有能力),設計担当者,開発期間,類似の既存品の歩留,量産設備の能力(設備間のバラツキ)などを分析した上で,何に対策を打てば効果があるかまで突き止めなければ,本当の対策にならない。どこまで誰の責任でやるかは議論があるが,本当にFコストを削減する使命を帯びているならば,そこまでやり遂げる人が居てもよいはずである。それは技術の仕事と任せてしまうところに組織の弱さがあるのではないか。但し,新製品の歩留は既に量産されて時間の経っている製品に比べれば,改善の余地が十分あると云える。初期流動管理など量産を安定化させるまでに早めに手を打つことは鉄則である。技術だ,品質保証だと責任をなすりつけるのではなく,短期間に一致して改善することが良い結果を生む。
また,不良の症状(現象)は判っていても,それがどの工程で,なぜ起こっているかまで突き止めないと本当の対策ができない。そのことを十分理解していても,なぜ起こっているのかと原因を突き止めるには,机上ではなく,先ずは現場をよく見ないと始まらない。何とか良くしたいとの問題意識を持って現場を見れば,ある程度の回答は得られる筈である。ただ,漫然と眺めているだけでは,判らないし,製品の特性や,設備の動きを理解していないと現象から原因に辿り着くことはできない。つまり,不良の原因究明は,ある程度のスキルを要求されるから,誰が見ても原因はすぐ判るようなものは極めて少ないと云える。
Fコストの真の原因に辿り着くのは容易なことではない。それは,Fコストが簡単な単一の原因でなく,いろいろな要因が輻輳しているからである。このいろいろな要因を,ひもとくことをどれだけきっちりできるかが,Fコストを削減できる第一歩である。
2.判っているけれど実行力が伴わない
こうした要因分析ができても,実行できないところにFコスト削減のもう一つの問題点が潜んでいる。よく言われることに,「要因をいろいろ分析してもらったが,そんなことはきっちりまとまっていなかったが,既に判っていたことである」と云うのがある。原因は判っていても,できない。これを解かないとFコストの削減にはならないのである。
例えば,現状設備能力での限界になっているケースである。(これは,Fコストの定義の問題でもある。Fコストとロスコストを分けて対策をする必要がある)つまり,設備改良,プロセス改良などに手を打たないと改善ができないケースがある。現有設備能力をみて,最も経済性の成り立つ点で生産しているのであって,ここでの不良はロスコストである。このロスコストとして本来は,原価に入れるべきであるが,そうなっておらず,Fコストとして見なされているケースが,材料プロセス系には多い。つまり,ロスコストの対策,設備能力改善や,ロス分を減少させる設計改良に着手しない限り,Fコスト削減は実行されない部分が存在する。
これを実証する事例がある。積層チップコンデンサでFコスト削減で大がかりな,品質本部も数名入り込んで活動展開していたが,なかなか成果が上がらなかった。この活動は,品質管理の基本である管理力のなさに焦点が置かれていた。しかし,原因分析はできても,実行することができないために効果が上がらなかった(1年以上掛けても)。ところが,技術者が(品質改善メンバーではない),材料の基本的な組成,シートになったときの状態をミクロに分析することで,ショート不良になっている原因を突き止めた。これは,もちろんその技術者が品質に関心が高かったからではあるが,材料を扱うプロフェッショナルだからどこに手を打てば効果があるかを見抜けたのである。この対策によって,Fコストが確実に削減されたことがある。
この例は,ショート不良の現象も判っており,シートが薄くなることで(1um程度)電極間がショートしやすいことも判っている。つまり,原因は判っていたが,対策方法が見つからなかったのである。それをまず,分析力を高められる設備投資をし,ミクロ的に分析して薄くても均一化を図る方法をあみ出して,材料作成工程から見直すことをやって,ショート不良を劇的に少なくできたのである。簡単に書いたが,ここまで辿り着くのに並々ならぬ努力が積み重ねられている。原因が判っても,こうしたミクロ的な解析ができる設備がなかってもできなかったし,あるいは分析能力ある材料技術者がこれらの点に着目できなかったならば,相変わらず管理力がないとか,季節変動があるからとか,できない言い訳けをならべながら,多くの人が熱心に,真面目に取り組んでいる従来の姿しかなかったのではないか。
Fコストとは技術面でも,設備面でも現有能力を反映していることが多い。つまり,何らかのブレークスルーがない限り,飛躍的な改善は望めないのである。逆に,云えば大きな改善には,技術リソース(質も含めた),設備投資が確実に必要なのである。有効なインプットがあってこそ,実行できるのである。
Fコスト削減は容易ことではない。地道な活動が不可欠である
[Reported by H.Nishimura 2014.07.28]
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