■Fコストについて 2  (No.382)

前回はFコストの定義やFコストに対する見方について述べたが,今回はFコストを削減する活動について述べてみる。

  Fコストに対する見方

前回,Fコストの定義やFコストの削減に関する見解を述べたが,如何だっただろう。多分,材料を扱っておられる企業では,似通ったことが行われているのではないだろうか?特に,原材料から商品化しておられる企業では,歩留と云う考え方があるはずである。歩留の考え方が一般的に用いられる代表例が半導体産業であり,如何にして歩留を上げるかが,より良い商品を安く提供できるかの重要ポイントであり,歩留改善が技術活動の大きなウエートを占めている。

歩留とは,原材料の投入量に対して100%製品化できた場合の生産量に対して,実際に出来上がった生産量の比率

この歩留改善活動とFコストの削減活動は,原材料から出来上がる生産量を100%に近づける活動に相当するので,同じものであると扱っても良いが,Fコストとは日本語では失敗コストとの意味からも,管理上からも区別した方が良いと思う。特に,前回述べたように,Fコスト削減でFコストの大小を並べて比較する場合など,原材料から仕上がる製品と組み立て中心の製品では,そもそも歩留が大きく違う。アセンブリ系の製品では歩留と云う感覚は無い。(良品の組み合わせで100%良品が基本)

したがって,以降に述べることは,原則として歩留改善ではなく,Fコスト削減を基本にする。また,生産現場に於ける生の実態の一部であり,どこの職場でも見受けられる光景である。

  全体を俯瞰できるリーダ

安定している製品のFコストは,製造のポカミスや設計ミスと云った単純なものは少なく,パレート図を書いて上位からつぶして行けば容易に改善できるものは少ない。パレート図,特性要因図,FMEAなど品質的な手法はある程度までは効果を発揮するが,なかなかこれらを駆使しただけではFコストが改善できないことが起こりつつある。

損失額が大きいので会社を挙げて,品質本部など品質の要となった部署が現場へ乗り込んで改善を図ろうとしているが本当に改善が可能だろうか?

先日も,ある製品でFコスト削減のキックオフのミーティングがあった。全体のFコストの分析データなどの紹介があり,事業部を挙げて取り組む決意がなされ,品質本部からも協力する内容の説明があった。Fコストを具体的に下げる活動をするのではなく,Fコスト削減の進め方,やり方に対する指導,助言の協力をするようにも受けとめられた。今,生産現場の事業部で求めているのは,単なる進め方,やり方ではなく,具体的に効果を出すやり方である。

確かに,オーソドックスな品質手法から見れば,データが採れていないとか,管理のポイントが不十分とかいろいろな指摘ができる。一方,現場で指揮したり,具体的に改善を進めている人は,経験的に有している知見がある。これにより,データが必要か否かの判断をしている部分も多い。過去,何も手を付けていないことならば,基本から進めるべきであるが,かなりの部分は既にやってきていることである。それを技術的内容については素人に相当する品質本部のスタッフに一から説明して進めるやり方は決して効率的ではない。

Fコストの削減には,全体を俯瞰できるリーダが必要で,その人が品質本部などの上手な手法を取り入れるなどすることが重要で,あくまでも主体が事業部側にあることが必要で,逆に品質本部にかき回されるようなことになっては,船頭多くして船山に登ることになる。また,起こった事象のもぐらたたきは,全体を俯瞰できない人でもできる。そう考えたとき,ある製品は専任のリーダが存在するが,もう一方の製品には専任のリーダが見当たらない。全体を俯瞰できるリーダの差が,Fコスト削減活動の成果になるような気がしてならない。

  定量的なデータ

実際の現場でよく見られるケースに,「この材料(部品,工法)を使った結果,歩留が55%から70%まで向上したので,効果があったので採用する。」と云うのがある。確かに,15%も向上しておりデータ的にもしっかり(?)しているように感じられる。特に,効果が大きいときなど,その数値にごまかされて鵜呑みにしてしまうことが起こる。

しかし,よく考えて欲しい。確かに必要な結果は,歩留の55%や70%であるが,必要なデータはその数値では無いはずである。この材料を使ったため,平均値がどれだけシフトしたから,そのような結果になったかであり,或いはバラツキがどれだけ小さくなったので,そのような結果になった,といったバラツキを含めた定量的な値が重要である。且つ,その再現性である。もちろんその技術的な裏付けも必要であるが。

冷静に考えれば単純明快なことである。ところが往々にして,Fコスト削減活動などと云った大々的な活動をしていると,不良金額の大きさに気を取られていると,意外にこのようなミスをしていることがある。日頃から,品質管理の基本とされる,平均値やバラツキの大きさ,傾向など定量的なデータをしっかり把握することを身に付けておこう。

  バラツキの把握

もう一つ気になることがある。それは設計者が量産設備でのバラツキを十分知った上で設計できているか?と云う点である。特に材料開発においては,バラツキが重要なポイントである。しかし,量産設備での検討は容易ではないため,簡易的な方法で実験室でデータを採ることになる。このデータが量産設備のバラツキの範囲を十分カバーできているか否かの検証ができていない。

と云うよりも量産設備のバラツキそのものの把握が十分できていないケースがある。それもバラツキを測定するパラメータがいくつもあり,実態が把握できていないケースである。どこまでパラメータを絞り込んでデータを把握するかが難しいが,昨今の製品においては,原子が何個とか云った,厚みや線幅が極限に近づいている中で,量産装置のバラツキについても,もっと極限に近づく努力が求められてきているのではないだろうか?そうしたバラツキに関して,議論がなされているならまだしも,酷いケースでは,開発者が現場の設備など見たことがない,或いは現場の実態に関心が薄いなどと云ったことがある。

会社として,開発者は新しい原理や工法の開発をやるのが役割で,量産現場のバラツキは現場の技術者が検討する役割を担っている部門もあるので,開発者を一方的に責めることはしないが,研究所など開発中心部門ならば致し方ないが,事業部の技術部門の技術者は少なくとも製品開発したものが生産現場で量産されることを前提としていれば,少なくとも量産でのバラツキは検討すべきものであり,品質を考慮した設計を先ずは心掛けるべきである。

 

上述した,定量的なデータ,バラツキと云えば品質管理の基本中の基本であり,品質本部が中心となってやれば改善が可能なようにも見えるが,必ずしもそうではないように感じる。それは,最初に述べたFコストの中身である。統計的手法を駆使することで出る効果は少ないような気がしてならない。それよりも全体を俯瞰できる技術のリーダが,品質本部などの助言や提言を上手く取り入れて,ポイントを押さえた改善を図ることが最も有効な気がしてならない。こうした結果は,品質本部が去った6カ月ほど先になれば結果が明らかになる。

今一度,自分の開発,設計している製品において,量産装置のバラツキと設計値との妥当性が十分吟味されているか?について,熟慮してみて欲しい。

Fコスト削減も平均値やバラツキなど定量データの把握から

(続く)

[Reported by H.Nishimura 2014.07.21]


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