■ソフトウェア技術者の教育 7  (No.376)

  ソフトウェア技術者の教育について考える(続き)。

  教育について感じること

これまでソフトウェア技術者の教育についていろいろな角度から見てきたが,まだまだ教育については不十分な面が多い。それはソフトウェア技術者が技術者として大きく育つことを願うと云うより,目先の仕事をこなしていくこと,如何に上手く顧客の要求に合致したソフトを作り上げるかにウェートが置かれているからである。ソフトウェア技術者の所属する多くの企業が,特に組込型のソフトウェア開発では,会社規模も小さく,大企業の下請的な存在である。そうした中では,時間労働者に近い扱いになってしまっている実態が多い。廻りの仲間もそれが常態化していて,技術者として企業の中で成長していくシステムが無い状態である。

そうした実態を見るにつけ,私自身,企業教育を入社以来ずっと受け続けてきた(自分の)経歴を振り返ると随分幸せなことだったと思う。ただ,我々の時代とスピード感は全く異なっており,現在では大企業でも我々が受けてきた教育がなされているかと云えば,必ずしもそうではないだろう。企業がどんどん大きくなり組織が拡大して行く中で,組織責任者となるべき人の養成が必須だった高度成長の時代と,低成長の現代とでは,かなり違ったものになっている。

教育は如何なる時代でも,開発スピードが違っても,ハードウェア,ソフトウェアの技術の違いはあっても,人の成長にとって非常に重要なことである。だから,企業の成長を重視する企業では,人材育成・教育に熱心である。それは大企業に限ったものではない。中小企業でも,経営理念をしっかり持ったところでは,人の育成には熱心なところがある。ただ,一般的には中小企業では金銭的にも,時間的にも余裕が無く,目先の利益が優先されてしまっているのが実態である。

ただ,外部技術者が大半を占める組織構成など,教育の前提となる組織構成の問題が大きくのしかかっていることも考えておく必要がある。組織構成はそう簡単に変えられるものではない。外部委託からの正社員化も検討はされているようだが,それに期待することはムリがある。やはり今現在の組織構造で,社員教育として何が必要かをよく考え,外部委託の技術者も巻き込んだ教育システムが必要であるように感じる。安い賃金には必ずその反動が陰に潜んでいることを肝に銘じ,組織構造の歪みを認めた上での最適な教育システムを見出して欲しいものである。

  技術者自身の努力は不可欠

これまでソフトウェア技術者の教育を全般に亘って述べてきたが,技術者自身が学ぼうと努力しない限り,どのような教育システムがあっても役立たない。教育など会社の仕組みにいろいろ注文を付ける人は居ても,それだけでは決して良くならない。教育を受ける側が知識を吸収する意欲を示すことが大前提で,それなくしては成果に結びつかない。

しかし,学び方を知らない人も多いし,また,教育の重要性を認識している若い技術者は少ない。だがあるとき,系統だった技術者としての教育が何一つできていないことに気づくはずである。気づく人はまだ良い方で,それにも気づかず,ただ給料だけを貰って生活している人は,10年も経てば大きな差がついてしまっていることにやっと気づく。それでは遅いのである。

企業が教育を施してくれないと嘆く前に,今一度自分の成長過程を見直して見て欲しい。5年後,いや10年後の自分の成長した姿を描いて見て欲しい。そうなるために,今自分は何をしなければならないか。今年1年の目標は何か。こうした地道な努力の積み重ねがあって成長が促されるのである。ただ漫然と受け身で待っていても,手を差し延べてくれる人は少ない。何もしないでも1年はあっと言う間に過ぎ去る。何でも吸収が早い若いときこそ,学ぶ意欲を積極的に活かして欲しい。

自分自身が積極的になれば,助ける人は自ずと現れてくる。また,あらゆることから学ぶことができるようになってくる。その良きサイクルが回り出せば成長が見えてくる。これまで数多く述べてきたエッセイの中からも学べることは多い筈である。こうした先輩は,自分が学ぶ姿勢さえ持てば,幾つでも見つかることができる。そんな中で何かヒントを捕まえて欲しい。それがトリガーとして良き方向に働く筈である。嘆きや苦情からは良きことは始まらない。自分の置かれている立場を冷静に見定め,将来の夢を描くことから始めようではないか。

10年後の成長した姿を描こう!!

教育とは与えられるだけでなく,自ら求めていくものでもある

 

[Reported by H.Nishimura 2014.06.23]


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