■ソフトウェア技術者の教育 6 (No.376)
ソフトウェア技術者の教育について考える(続き)。
事業者としての教育 2
事業者としての教育をもう少し具体的な例を示してみよう。外部委託など外部の技術者を使って仕事を進める場合のコツのようなものである。つまり,社内の技術者ならば好みなどは別として,阿吽の呼吸で指揮命令が通じることが多いが,外部委託の技術者となるとなかなかそうは簡単ではない。特に,職場の違った環境下で委託している場合は,直接観察することが儘ならず,出来てきた成果物などを基に,指揮命令することになる。
上手く進んでいる場合は,誰がやっても問題はないが,予定より遅れたり,トラブルが発生したときなど,素早い判断が求められる。進捗の遅れは内部の職場でもよく起こることで,パワー不足(人員不足)や能力不足など,予定した仕事量が予測通りに進まないことがある。そんなとき,能力不足なのに人員補強をしても効果上がらないし,パワー不足を見過ごして叱咤激励しても効果が少ない。要は遅れの要因を具体的に突き止め,それに対する対応策を採らなければいけない。しかし,口で云うのは簡単だが,実際には外部委託だと,意外と原因を突き止めることさえままならないことが多い。
こうした原因を突き止めるために,普段からきっちりとデータで把握しておくことが大切である。メンバーの人員数,各自の能力の概略,進捗の傾向,成果物の評価など具体的に判る方が良い。もちろん,外部委託なのでデータが貰えない場合もあるが,成果物の信頼度が高ければそれでも良いが,過去トラブルが発生しているような委託先とは,やはり日頃のデータを貰い,分析しておくことが重要である。また,委託先の管理がきっちりできているところはそうしたデータ要求に対しても,対応拒否されることは少ない。むしろ管理が不十分なといころに限って対応拒否されることが傾向としてある。
データの活用方法としては,独自で一定の基準を設定し,その基準に対しての変化を読み取るのが良い。要は基準から外れる変化が起こっていることをデータで素早く感知するのである。これは工程管理では通常一般に行われる方法で,工程のどこかに異常があることを示すことに用いられ,素早く対処することで工程の安定化を図る方法であるが,外部委託は工程の管理そのものである。結果オーライのやり方からいち早く抜け出し,プロセスをきっちり把握出来る方法を見出そう。
これらは品質管理の一つの手法である。品質管理は専門に任せて専ら自分たち技術者は開発や設計に勤しむべきだと云う見方もあるが,技術者として基本的な品質管理の手法は知識として会得し,活用できるようにしておくことは必要なことである。実際,忙しい中で品質管理を学ぶなどの余裕がないのが普通だが,こうした基本的な知識を知らないで見よう見まねでやっていると確実な成長は見込めない。忙しい中で,基本をしっかり教えることが企業にとっても重要なことなのである。
事業者としての教育 3
オフショア開発のケースでは外部委託の感覚では済まないことが多い。経験上の話だが,海外メーカ(特に,東南アジアなど)が,ソフト開発には熱心で日本への売り込みも多い。言葉の問題もあり,日本語を多少出来る技術者が居る場合が多い。最初の売り込み段階では,日本側が能力を把握するためにいろいろやりとりをし,試しに小さなボリュームのソフト開発をやらせる。この場合,売り込みなので,優秀な技術者が対応して,十分な成果を見せる。
もちろん,この段階で不十分だと判ればそれ以上は進まないが,売り込み段階では優秀な成果を出しながら,いざ本番となり,契約が進んで開発委託が始まると,当初の成果がなかなか得られないことが起こる。もちろん,すべての海外メーカがそうだとは言わないが,往々にして起こるトラブルである。初期段階では優秀な技術者が対応できても,ボリュームが増えると優秀な技術者は全体をまとめる役割に廻り,新人など経験の浅い技術者が担当することになる。その度合いと技術レベルで成果が大きく違ってくる。
この点をよく見極めることが必要で,契約している人数が確保できているからと安心していてはいけない。特に,ボリュームが増大するときは気を付ける必要がある。一人当たりのパフォーマンスが落ちてくる傾向を見逃してはならない。こうしたデータは基準をもって見ていればすぐに気がつく。当然のやり方であるが,なかなかこうしたデータを把握しているリーダは少ない。とにかく目先の成果が気になり,それだけに集中しているからである。成果が出なく,大きなトラブルに発展してしまっては遅いのである。技術者のリーダは特に,こうした基本中の基本であるプロセス管理を疎かにしている場合が多い。誰も教えてくれないからである。
20世紀末の東南アジアでの経験だが,日系メーカに働く現地技術者は,日系一流企業での経験を武器に自分を売り込み,高い給料を得ようとジョブホッピングが盛んだった。当時のことで詳細な事実は未確認だが,日系企業間での技術者の引き抜きはお互いに抑制しようと云うものだった。現地技術者のジョブホッピングを手助けして,給料をつり上げるだけでデメリットが明白だったからである。この当時から,現地技術者は少しでも高い給料を得ようとすることがステータスにもなっていたようである。だから,ソフトウェア技術者がジョブホッピングすることは珍しいことではない。
どうも成果が上がらず低下傾向が見られる。原因は何か?と調べてみると,これまでリーダとして役割を果たしていた技術者が居なくなっていると云うケースがある。ジョブホッピングしていたのである。こんなことを極力早く見つけ出すためには,少なくとも,オフショア先のリーダやサブリーダの名前は把握しているのがベターである。ジョブホッピングを回避することは,現地の状況から困難なことが多い。だからせめて抜けたことを素早く察知して対応策をとることである。メンバーが入れ替わることまで管理することは難しいし,それほど重要ではない。
また,一人当たりのパフォーマンスが低下する要因に,新人に対する社内教育の時間がある。本来は,契約作業以外の時間なので費用請求はされないはずだが,日本の管理が杜撰なところを知って,社内教育の時間の費用も請求してくる場合が多い。当然,一人当たりのパフォーマンスは低下する。本来は成果に見合う費用を払うべきだが,通常一般には人数×時間での費用請求が多い。こうしたデータも管理できておれば直ぐに見抜けるが,殆どの技術リーダは見過ごしている。費用対効果の感覚が殆どないからである。また,費用管理は技術リーダでなく,課長などもう一段上の管理者がやっていることが多い。この管理者が技術上がりで経営的感覚が鈍い。委託席からの費用請求に十分な内容把握もせず,数字上のデータだけで支払っている。これに付け込んでいるのが多くの海外委託先である。オフショア開発は,時間当たりの費用は安いが,意外と高くついているのはこうした実態からであることが良く見受けられる。
技術リーダは即経営者的感覚で対処せよ,とまでは云わないが,地道にプロセスを管理することが如何に大切かをできるだけ早く学んで,真の技術リーダとしての活躍を願うばかりである。
技術者にとって経営的感覚を養うことは重要なことである
[Reported by H.Nishimura 2014.06.09]
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