■ソフトウェア技術者の教育 5  (No.375)

  ソフトウェア技術者の教育について考える(続き)。

  OJTの重要性

前回,課題解決策がなかなか見つけ出せない技術者のことを述べたが,実践で学ぶ一番良い方法は,先輩から直接指導を受けることである。身近な問題は,同じような事象が繰り返されることが多い。だから,経験豊かな先輩は解決のコツを心得ていることが多い。最も適した解決策を教えてくれるはずである。そのポイントとなるコツを上手く学び取ることである。これが先ずは基本である。

同じ学ぶことでも学ぶ側の姿勢で知識の吸収の度合いが大きく違ってくる。仕事上で教えて貰えると云っても様々で,懇切丁寧に説明してくれる場合もあれば,叱りとばしてしまう場合もある。こうしたとき感情に任せてしまうと,叱られた場合は萎縮して悪い印象しか残らず知識として学ぶことが無くなってしまう。つまり,上司からの言葉の違いはあっても,自分の成長に欠かせない言葉と思って,そこから何かを吸収する気持が必要である。失敗から学ぶことは多い。しかし,失敗して褒める上司は居ない。つまり,叱られたことは自分の不足している部分を指摘されていることと気づくことが重要である。現場の実践で学ぶことは,一番有効なことである。

更に優れた学ぶ方法の一つはコンサルタントなど専門家から学ぶことである。実際には,コンサルタントを雇うには費用も掛かり,中小の企業ではコンサルタントに指導されることは難しいことであるが,派遣先など大企業での仕事の中でコンサルタントが入っていて,派遣先の技術者と共に指導の機会を得ることはたまにある。こうした機会を捉え,専門家の手法を盗み取ることが,問題の解決をスムーズに行える一番早く,確実な方法である。つまり,コンサルタントは実戦経験が豊かで,あらゆる課題に対して最良の解決策を提示してくれる。コンサルタント自身が経験していなくとも,コンサルタントの企業に蓄えられた情報が豊富で,それらを基に活かすことが容易にできる環境に置かれている。

要は,自分たちの目の前に現れた課題を如何にして解決するかを実践的に,且つ一番良い手法を駆使して解決しようとしてくれるので,それをそのまま手法として学ぶことは,非常に有効な手段なのである。コンサルタントに云われたことをやって解決することで安堵するのではなく,解決できたことを喜ぶと同時に,そのやり方を学び取ることが大切で,この知識が本人を成長させることになる。

経験上から云うと,必ずしもコンサルタントがすべて優秀とは限らない。特に,有名なコンサルタント企業では,若手育成に現場経験を積ませていることもよくあることである。若手コンサルタントに問題解決をさせながら,責任者が背後から見守っているようなケースもある。そうした場合でも,若手コンサルタントから学ぶことは少なくとも,背後の指導者のやり方を良く観察すると,学ぶべき点は結構あるものである。そうした背後の責任者と仲良くなって,いろいろ教えて貰うことは有意義な方法である。

いずれにせよ,現場の実践で問題を解決することは,必要に迫られ,且つスピーディにことを運ばなければならない瞬間である。この切羽詰まった環境下を如何に上図に切り抜けるか,これは座学ではなかなか学ぶことができないことである。こうした機会を与えられていることを苦しくとも,プラス思考で捉え前向きに取り組みことで,自分自身が意識しなくとも成長させられているのである。

  事業者としての教育

もう一つ大切なことは事業者として学ぶことである。これは専門技術を学ぶことが大切なことと同様,事業をしている技術者として,技術的な面でなく,事業として捉え学ぶことである。つまり,専門技術的なことで問題を解決したり,新しい技術を採り入れたりすること以外に,事業経営している立場として学ぶことがいろいろある。一技術者としての段階は,専門技術だけで十分だが,部下を持ち,リーダとして仕事に当たる場合は,経営的観点が必要となってくる。

ところが,ソフトウェア技術そのものが伸び盛りのときにあっては,専門技術にウェートが大きく傾くことが多い。それは,経営的観点で見る立場の人が,上司にも欠落していることが多いからである。部長など管理的な立場の人は,当然経営的観点での指摘も結構されるが,課長やリーダクラスには,まだまだ経営的観点が抜けている人が結構居る。これは本人の責任もさることながら,そうした教育そのものが追いついていないことにも一因がある。

それは組織構成の歪みからでもある。ソフトウェアの若い技術者たちは,結構早い段階から,外部委託技術者などを管理する仕事をさせられることが多い。しかし,その段階で,管理的な教育を十分されているかといえば,そうでないまま任されていることが殆どである。管理の仕事は,見よう見まねでできないことは無い。ソフトウェアの技術さえしっかり身に付いておれば大丈夫だと思っている上司も多い。そうした組織で運営されている技術部門は,実にいい加減なやり方で済ませている場合が多い。

現場が会社内なら,部下同様目の届く範囲なので,何とかやりくりができる。しかし,外部委託の現場が離れた場所の管理をしようとすれば,ある程度の経営的視点を伴った指導ができないと本当に管理できているとは言えない。もちろん,経営学の座学を学ぶかどうかの問題ではなく,事業経営の視点は様々なことがあり,現場で磨いていくしかないのであるが,こうしたときの指導ができていないのである。課長やリーダが十分な指導をできる状態に育っていないからである。内部技術者中心で組織化された部門とは大きな違いである。

若い技術者に事業経営の教育をと云ってもなかなか現実味を帯びない。やはり必要なのは,課長やリーダクラスの事業経営教育である。これが必要で,実践させながら教育する機会を持たなくてはならないと感じている。課長やリーダが事業経営の視点をしっかりもてば,自ずと若い技術者が外部委託を管理する場合も,管理する視点が自然と判ってくるようになる。そうなれば,やっと一人前の組織化された技術部門になってくる。

ソフトウェア技術者の教育はまだまだ不十分である

 

[Reported by H.Nishimura 2014.06.02]


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