■ソフトウェア技術者の教育 3 (No.372)
ソフトウェア技術者の教育について考える。
なぜ,十分な教育がなされていないのか?
ソフトウェア技術者に必要な教育は,専門教育は別として,プロジェクトマネジメントなど知識として必要なものは幾つかある。それなのに,系統だって教育が十分でないとされる背景は何なのだろうか?
時代的な背景もあるように感じる。つまり,昔のアナログ時代には,基礎から順番に積み上げて教育が行われるスタイルで,時間的にも余裕があった。もちろん,高度成長期には忙しさで教育が十分なされないまま企業が大きくなって行った時代もあるが,忙しさの中でも教育をきちんと積み上げないと将来に成長が無いとの思いは常にあり,教育に対するフィードバックが掛かっていたような気がする。必要になる前に,準備ができていた。
ところが昨今の,0か1かのデジタル時代では,基礎から積み上げる意識が乏しくなってきている。つまり,必要なときに必要な教育を受ければ,0がすぐ1に変わる感覚がある。要は階段を一段上がることさえできれば良い,必要なときに必要な人がやればよいと云った感覚があるように感じる。確かに,それで十分なことは多くある。必要で無いとき,ムダな教育をしても,身に付かないとの感覚である。しかし,ムダに見える教育でも,組織で仕事をしていると,多くの人が基礎知識を持った集団は組織力が違ってくる。0か1かの感覚からはなかなか理解し難いことではあるが,0.2,0.7など1に満たない力が結集されると,0の集団とは明らかに組織力が違ってくる。
昔のことなので失笑されるかもしれないが,我々の時代では技術者は全員,主任になる前に,品質管理の基本を必須とされ,確率・統計を含めた品質管理を時間にすると,延べ約1カ月(4,5カ月掛けて1週間ずつ)学ばされた。実験などを行うために必要な教育として行われていた。だから,現場での実験など評価方法に適切な判断ができ,且つ管理者になってもこうした基礎知識があるから,部下の実験のやり方など指導するにも適切なアドバイスができたのである。これは一つの代表例であるが,教育システムが組織力のバックにあった。
必要な教育がミスマッチしていないか?
ソフトウェアに必要な専門技術がある。基礎はもちろん応用的な専門技術は現場の第一線では欠かせないもので,技術者は最低限学ばなければならないものがある。こうした教育プログラムは殆どの大企業では設けられている。そして新人教育など時間を掛けて実施されている。
しかしどの企業でも,特に大企業では,現場の第一線の技術者は外部委託であることが多い。場所は構内であっても技術者の大半が外部技術者であることは珍しくない。その外部技術者は社員ではないので,企業内にある教育制度を活用することはない。それではこうした外部技術者はどのような教育を受けているかと云えば,統計的なデータでも100人未満の企業では社員教育は殆どなされていないようで,本当に必要な現場技術者は基礎的な教育は自らの努力や経験値に頼っているのが現状である。
企業内での専門的な教育プログラムは,実際には現場の第一線の外部委託技術者にこそ必要なものであるにも拘わらず,その第一線の技術者には教育が行き届かず,第一線から少し距離をおいた社員に専門教育をしているのが実態である。もちろん,社員への教育がムダではない。しかし,肝心の第一線の外部社員の教育ができていないことは大問題である。これは教育の問題というより,組織構成の問題であると云えるかもしれない。
実際には社員は基礎教育などは受けるが現場での活用は,ほんの新人の僅かな期間に留まり,大半は外部技術者のコントロールなど,管理的な役割をしている。ソフトウェア技術に長けた技術者なので現場の管理はできない訳ではないが,専門外とは云わないが管理者的な仕事は質が違う。主任など役職が付くと少しずつ管理者的な教育も課せられるがそれまでは専門教育が中心である。すべてが社員で開発を進めている場合はこれで良いのだが,役職に就く前から管理者的な仕事が任されているのが実態である。
そうした実戦経験が先になってしまっている。結果的に課長など組織責任者になっても,最近はマネジャーと云われるケースが多くなっているが,その世代も経験で育ってきているので,経験したことは部下に対して指導できるが,管理者としてどこか欠けている部分がありながら任されてしまっているケースをよく見掛ける。昔の課長だったら,マネジメントの基本的なことはきっちりできていたのに,と思わざるを得ない場面に出くわす。
若いときから任されて育っていくことは大切なことである。背伸びをしたような状態で育てられるのが,一番成長が早い。ただし,その役職に必要な教育は後からでもみっちり学ばされていた。ところが,その必要な教育を省略してしまっているケースが多い。高度成長期もそうだったように,伸び盛りのときは教育が後からになってしまうことがある。ただ,その付けは必ず後から効いてくるので,必要なことは省かないことである。
必要な教育が行きわたっているか?
[Reported by H.Nishimura 2014.05.12]
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