■製品品質と技術者 2  (No.365)

引き続き,技術者にとって製品品質とは何かを考えてみる。

  製品開発事例から

次に実際に製品開発に携わって,如何に製品品質を考えたかについて述べてみよう。

  @チップ部品を搭載した電装品開発

当時の主流はディスクリート部品(部品本体にリード線が付いたもの)がプリント基板上に搭載されていた。チップ部品(部品本体の両端に電極があるもの)が薄型の携帯ラジオに搭載され,小型化が進み出した頃だった。安全性を最優先する電装品には,信頼性面からチップ部品の採用は見送られていた時代だった。

ようやく世の中にチップ部品の搭載が家電製品を中心に進み出し,数年した頃だったと記憶している。取引している電装品メーカから,インスツルメントパネル(メータ類のパネル)にチップ部品を搭載し,薄型化を図りたい企画が持ち上がった。その時点では電装品にチップ部品を搭載した事例はなかったが,家電製品でそこそこ実績を積んできていたので,そろそろ電装品にも採用したいのでメータ類を表示するパネルから始めたいとの意向だった。

ただ,自動車の計器パネルはご存じのように60cm以上の長さのあるもので,これだけの長さのものにチップ部品を搭載したことは無かった。今では,チップ部品がリールに巻かれて自動機で搭載するのが普通だが,当時はまだリールは無く,ペンシル筒状のケースに200個のチップ部品が入っており,5mmの格子間隔に配置された位置に下から突き上げてチップを搭載すると云う工法だった。

もちろん,自動車に搭載されるので家電製品の環境とは違い,厳しい環境下で信頼性を求められた。これまでの電装品の経験から,いろいろな信頼性の試験を繰り返し,いずれの試験にもパスする品質確保に努めた。エンジン制御など生命の危険を脅かすものでは無いが,エンジン回転,速度などを示すことで安全性には十分配慮していた。

実績がないと云うだけで拒否されていたら,いつまで経ってもチップ部品の搭載は見送られたであろうが,次のステップを見通した電装品メーカの採用の決断があったから進められたもので,こちらも確実な信頼性確保できたものを作り上げるつもりでいた。こうしたとき,品質保証部門は設計者に責任を預けた形になり,信頼性試験などの結果より,設計者自身がこれは大丈夫と思わない限り品質は確保されない。データは正直なので,それをどう読み解くかが一番重要になる。

ここで感心したのは,電装品メーカの検査部門(家電の品質保証部門に相当)の態度である。一旦,市場に出した製品の責任は検査部門がすべて担う。だから,設計者が大丈夫,工場長が出荷OKと云っても,市場品質に責任が持てないと判断したら出荷停止を命じる責任と権限を持っているのである。この検査部門の承認も得て,市場に出荷され,初のチップ部品が搭載されたパネルが市場を走り回るのを感慨深い思いで見ていたことを想い出す。

  Aマイコンを搭載した電装品開発

ディスクリート部品のトランジスタを使った電装品,さらにはそのトランジスタを集積(100個以上)したICを搭載したもの,そしてマイコン(マイクロコンピュータ)でソフトウェアを使っての制御とその時代の変遷を直に感じながら,実際の設計に活かし製品開発を行ってきた。特に,マイコンを搭載したものは当時の主流は4ビットであったが,ソフトウェアを駆使してハードウェアの制御を行っていた。

その品質確保はたいへんだった。ハードウェアの場合,環境変化など想定できることは,実際に過酷な条件を作りだして実験で確認すれば殆どの場合,品質確保は十分だった。ところが,ソフトウェアでは,フローチャートで正しく制御するようにプログラムされるのだが,正規から外れた流れに入ってしまうと,そこから抜け出せなく無限ルーチンになってしまって制御不能に陥ることがあり,これを回避することが結構厄介なものであった。つまり,正規から外れる条件がいろいろあって,それらを全て網羅することが困難なのである。

プログラムが単純な場合はまだしも,制御が複雑になり,フローも複雑化すると人が想定する範囲を超えてしまい,すべてにチェックがなかなか入らないことが起こってしまう。そうしたもののソフトを搭載したマイコンでは,自動車のような過酷な環境下では,無限ルーチンに嵌り込んでしまうケースがある。だからソフトウェアの設計段階では,できるだけフローを判りやすくし,数人でいろいろな角度からチェックするなどしたものである。

十分チェックをし,環境試験もして,自動車メーカのテストも合格した電装品が,ある条件で無限ルーチンに入り込んでしまうことが発覚し,発売前に手直しして製品の取り替えを実施したこともある。リワーク(手直し)の経験は本当に辛いものがある。こうした経験から,品質が如何に大切であることを学んだのである。不良品を作るなどとは誰も思っていない。しかし,ソフトウェアのバグ(無限ルーチンに入り込むなどの不具合)は付きもので,未だに製品のリコールなどが行われている。

  B姿勢制御に新部品開発

電子部品も抵抗やコンデンサなどの受動部品だけでなく,自動車の動きを感知するセンサを新しく開発した経験もある。もちろん,世の中に無い世界初のセンサであった。ご存じの方は十分ご承知だが,自動車の環境は電気製品と比較すると数段過酷である。家電製品で十分実績を積んだものが,高い信頼性を要求される電装品にも採用されて行く。

しかし,そのセンサの開発は最初から自動車用のセンサである。もちろん,環境条件は他の製品を設計した経験から熟知はしているものの,微妙な自動車の動きを感知するセンサを要求されていた。一番困難を極めたのは,厳しい振動条件を満足できるものに仕上げることで,自動車環境で起こる周波数内で共振点などが存在すれば,ものの見事に粉々に吹っ飛んでしまう。だから共振点は使用環境下の周波数を外したところにしなければならない。

また,常に掛かる振動条件に耐えることはもちろん,動きを感知するので自動車で発生する振動を吸収して且つ動きを検知しなければならない微妙なセンサである。そのセンサから得られる信号は極めて小さなもので,それを振動雑音を排除して必要な信号を的確に捉える必要があった。もちろん,こちらで模擬的に自動車に搭載していろいろ検討したものを自動車メーカに提供するのだが,自動車メーカはそれを独自の評価をされる。新車に搭載となると極秘で進められるので,車は実際には見せて貰えないし,搭載箇所も大まかには教えて貰えるが秘密である。

特に,姿勢制御に使われようとしていたので,実際の走行感覚が重要で,我々には判らず,センシングの大きさなど代替した仕様の改善要求に従うしかないのである。実車走行での改善も何度か繰り返し,予定の新車に搭載されたときは感激だった。センサとして電装品品質満足できる自信を,先ず我々部品設計者が持ち,そのセンサを使いこなす自動車メーカの設計者が車としての品質を確保する。こうしたコラボがあって為し得たものである。

  製品品質は設計者が作り込む

上述した製品開発の事例は,技術者として新しい技術を導入するケースで,開発時点では確実な品質確保が出来上がっている訳ではない。多かれ少なかれ,技術者はこうした未知の世界を切り拓いて行く場面に遭遇する。品質が十分確保できていないからと尻込みするようでは新しいものは何一つ生まれない。

もちろん,いきなり人命に関わるような危険な製品に新しい技術を導入するようなことはせず,周りの比較的安全な製品から導入していくのは当然のことである。こうしたとき,開発製品の品質を一番判っているのは設計者自身であって,未だ不十分と思えば製品化を急がず,確実な品質が確保できる方法を確立させることを優先させる。つまり,新製品の品質は誰よりも設計者自身の判断が求められる。

幾度か経験したことであるが,製造でのミスは一台もしくは数台で済まされるが,設計ミスは数台では済まされない。最初から全数手直しと云うこともしばしばある。被害額が大きく膨らむのである。だから,設計者は新しいことに挑戦すると同時に,設計品質にも十分な配慮ができていなくてはならないのである。品質にも設計者の個性が反映される。

製品品質の確保は設計のように作り込みの品質確保と,不良品になったとき市場に出さない水際の品質確保がある。水際は品質部門に任せれば良いが,作り込み品質は設計者自らが責任を負うべきものなのである。

(続く)

設計品質を大切にする技術者になろう!!

 

[Reported by H.Nishimura 2014.03.24]


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