■原価意識 2 (No.333)

技術者の原価意識の続き

  目標価格の設定

商品を開発するとき,先ずもって必要なものは,価格目標をいくらに設定するかである。それは,あるときは市場が求める価格(顧客の指し値)であったり,汎用品のように競合との価格競争下ではそのトレンドを読んだ価格が目標価格であったりする。開発期間を見越して,目標価格をきっちり定めることが先ずは第一歩である。

一般的には,新製品企画会議など(呼称は企業によって変わるが),新製品を企画しようとする段階では,目標価格をいくらに設定して開発を進めるか否かが決められる。但し,企画時点での価格設定はその値によって開発が大きく左右されるので,なかなか難しい。かと云って,ズルズル企画会議を延ばして,実質的には開発だけが先行している事態はよく見掛けられる光景である。(随分,開発が進んでしまってから,形式上の企画会議が開かれたり・・・)つまり,新製品開発のGO,NOT-GOの判定がされないまま開発着手していることがある。これでは,折角の新製品開発ステップなどルール化された規定が無視されてしまっていることになる。

もちろん,開発途上であっても,目標価格が変更されることだった起こり得る。競合との関係で,当初設定した目標価格では,高くて市場に受け容れられないことだって起こることがある。そうした場合,一旦設定したからと開発完了まで,当初の目標価格で進めるより,変更して原価など見直しをする方が実質的であることは言うまでもない。

  原価見積のやり方

商品コンセプトを構想する段階で,プロジェクトリーダは,目標価格に対する目標原価を大凡見積もっておくことが必要である。つまり,開発プロジェクトをスタートさせることは,技術リソースを当てることであり,そもそも儲かる見込みの無い商品は,その時点でスタートしてはならない。ここで云う原価見積もりとは,従来からあるシリーズ品で技術でなくとも経理部門で計算するだけの商品ではなく,未知の,不確定要素がある商品であるからこそ,開発をスタートするのならば,大凡の原価(材料費,労務費程度)は目論むことができなくてはならない。

実際,技術者が原価を計算することは難しい場合が多い。技術者自らがバイヤーと価格交渉するわけではなく,部品・材料の価格も判らないことがよくある。だから,通常は構成する部品・材料の一覧表を作成して,購買機能などへ見積依頼をする。もちろん,カスタム仕様で仕様の詳細によって価格が変動するものは,仕様を明確に示すことが必要であり,場合によっては技術者自らがメーカーを呼んで,仕様と価格の詰めを行うことは重要な役割である。

また,ときには,目標とする原価(部品・材料費及び労務費など)との差が大きく,目標値に近づけることが困難な場合も起こり得る。こうしたときには,新製品開発ルールによる検討会を開き,このまま進めるか,開発を断念するかのジャッジを仰ぐことも必要である。一旦開発プロジェクトが進むと途中で止める人が居ない,決断する関所が設けられていないなどが見掛けられるが,開発の初期の段階での開発ロスは,量産まで進んで止めるロスに比べたら,比較にならないほど軽傷である。原価見積は,こうした開発の進捗管理には重要な役割を果たすのである。

  限界利益の考え方

限界利益とは,価格−変動費で示される。前回の原価構成から見れば

限界利益=価格−変動費(部品・材料費+労務費(外注加工費+内部加工費)+賦課費)
      =固定費+利益

ここで,内部加工費は内部人件費であり,固定費と見なされる場合もある。

限界利益がどの程度あるかを示す限界利益率(=限界利益/価格)と云う指標がある。

技術者はこの限界利益率を一つの目標指標にするとよい。つまり,限界利益率がプラスであることは,上の式からも固定費の一部を賄うことに貢献していることになる。ただし,プラスだけでは利益の貢献にならず,その状態では固定費をカバーできず,事業としては疲弊,衰退することになる。一定以上の限界利益率が出ないと利益が出ないことであり,事業体としての固定費比率などを予め知っておいて,限界利益率○○%以上とする原価の目標設定をすることである。

もちろん,新製品の目論見によっても限界利益率は変わる。つまり,競合他社と価格競争している製品は限界利益率は抑えられることが多く,特長ある新製品など他社を凌駕している新製品は限界利益率が高くて当然である。また,新製品で最初は量産効果が出ず部品・材料費が高くつく場合もあり,限界利益率が悪いこともある。しかし,量産効果が出れば限界利益率が改善できる見通しをしっかりつけておくことが大切である。要は新製品を企画する段階で,目標価格,及び目標原価をきっちり定めること,即ち限界利益率の目標値を設定して開発を進めることが重要なのである。

(続く)

限界利益率を開発目標指標の一つにしよう

 

[Reported by H.Nishimura 2013.08.12]


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