■原価意識 1 (No.332)
技術者の原価意識が低いことはよくあることである。しかし,原価に関する知識が少しでもあるのと無いのでは,新製品開発などに取り組む姿勢が違ってくる。技術者として専門技術に拘ることはたいへん重要なことであるが,原価意識を少しは身に付けておいて欲しいものである。
原価構成が判っていない
技術者は新しい技術開発に集中しているだけでは決して良い製品は生まれない。よくある話だが,経営者や会社幹部が技術者に向かって,この製品の原価はどれだけか?と云う質問を投げかけたとき,技術者が答えに窮することがある。技術的な質問ならば,スラスラ応えられる技術者が,こと原価など利益に関するような質問をされると,不意を食らったように押し黙ってしまう。
経営者や会社幹部にとっては,どれだけ技術的に素晴らしい製品が開発されたとしても,儲からないような製品では新製品開発が上手く進んでいるとは言えないからである。ところが肝心要の技術者がそうした原価意識に乏しいようでは元も子もないのである。厳密な答えでは無くとも,売価(或いは工場出荷価格)に対して原価がどれほどであるかは,技術者と雖も常に頭に中に無くてはならない。要は限界利益(売価−原価)がどのくらいあるかで,利益の大凡の検討がつくからである。技術者は常に,この限界利益を上げる努力,即ち,購入部品・材料をより安く,掛かる工数をより少なくする設計をすることで原価を下げることに努めなければいけないのである。
新人の技術者はともかく,製品開発を任されるようになった技術者は原価意識が無いようでは,技術者責任者としては失格である。そのため,技術者は若いときから,製品開発を一手に任される前から,原価構成がどのようになっているか,先輩諸氏からいろいろ尋ねられたりしながら育っていくのである。もちろん,原価意識が高いだけでは技術者が務まる訳ではなく,高い技術力と併せてしっかりとした原価意識が備わっていなければ技術者として一人前とは云えないのである。
原価構成
●部品・材料費(変動費)
これは製品を構成する部品や材料の購入費用で,同じ部品でもメーカーによって値段が違ったり,一見同じように見えても,性能の違いに影響を及ぼしたりする。良いものを選ぶことが必要だが,専用部品でない場合は,二社購買(メーカーを比較して価格を選択)が可能ならば,そうした配慮も設計者自らが指示すると良い。
専用部品などの場合は製品の企画数によっても価格が大きく左右されるので,企画数も意識しておくべきである。また,専用部品は設計者自らが仕様を決めることになるので,コストを意識してメーカーと仕様の交渉するなど,一寸した意識が原価に影響を及ぼすことがある。
●労務費(工数)
製品を作り上げるには,製造工程があり,ここで掛かる工数の費用である。できる限り少ない工数を目指す。
○外部加工費(変動費)
通常は内部の製造工程で作られるが,状況によっては外部で加工依頼(外注生産)されることもよくある。この場合,内部工数とは別に外部加工費として計上される。
○内部加工費(准変動費)
これは内部の製造工程で掛かる工数の費用を示す。工数なので変動費として掛かった工数を計上することが多いが,内部人員で他への融通が利かないこともあり,固定費として見なす場合もある。製造工程も外部の作業者を雇ったり,いろいろな形態があるので,会社組織で違ってくる。
工数低減策として,設備導入などの検討が行われるが,この場合,人員削減(工数削減)することで投資効果を比較される。
●設備・金型費(固定費)
これは,設備償却費で専用設備と汎用設備で計算方法が違う。一般的には,専用設備は設備費用を企画数で割った値が使われる。汎用設備は,設備償却費(5年償却など)を標準使用数で割った値が使われる。両方使われる場合はその合算値である。
金型は一般的には,材料費の中に組み込まれていることが多いが,原価を大きく左右する場合は,設備償却と同じように扱われる場合もある。プロセスの一部として金型製作して使用する場合などもここに入れられる場合がある。
●間接部門費
事業体のスタッフ費用である。工場の間接部門費用と事業体全体のスタッフ部門からの配賦される費用が含まれる場合もある。工場部門のスタッフ費用は明確である場合が多いが,事業体全体のスタッフ部門から配賦される費用は複雑な場合が多い。
技術部門は人件費ウエートは一般的には大きい。プロジェクト毎に専用の枠を設けて管理する方法もある。この場合,製品開発に掛かった費用が明らかになり,負担が明確になるメリットはあるが,管理がたいへんなデメリットもある。
間接部門費は,一般的に販売が増加傾向にあるときは,この比率が低くなり,販売が減少方向にある場合は,この比率が高く負担が大きくなる。(一般的には20〜30%)
●賦課費
大企業になると,本社費などと云って事業体の間接部門費以外に販売高の○%が常に計上される場合がある。組織が大きくなればなるほど,事業体の現場と離れたスタッフが多く,屋上屋と云われる間接者が目立ち,これらを養う経費が嵩むことになります。現場から見ると,苛立たしい思いをする費用です。
また,販売網が複雑な場合,販売するルートによって費用が異なってくることがある。直販<輸出<外販で,10数%と差が出ることがある。
技術者も,先ずは,こうした原価構成があることを知識として知っておくことが必要である。
(続く)
原価構成は基本的な知識として知っておこう
[Reported by H.Nishimura 2013.08.05]
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