■仕事を変わる 1 (No.290)

会社勤めをしていると,同じ仕事をずっと続けているよりも,違った仕事を経験させられることがある。これは技術者と雖も例外ではない。上司の命令一つで簡単に仕事が変わることがある。もちろん,積極的な変更,本人の成長を期待して行われることが多いが,会社の経営状態で止むなく変わらされることも起こる。或いは,自分自身から進んで,仕事を変わる,会社を変わることさえある。

  定期異動

同じ職場で同じ仕事をしているとマンネリ化してくる。或いは,ベテランになりすぎて組織上でその人しか判らない仕事になってしまうことが起こってくる。こうしたことを回避するため,殆どの会社で定期異動と云って,新年度が始まる時期に掛けて職場を異動することがある。これは組織を活性化するために設けられた制度で,会社全体としてのメリットを重視したシステムである。

技術職もそうであるが,専門職に就いている場合は,異動を繰り返すよりも,同じ仕事に長く専念した方がより専門家して,個人的にも会社的にもメリットがあることが多い。3年よりも5年,5年よりも10年のベテランの方が,その専門に於いては明らかに長があって,知識はもちろん,行動力も備わっていることが多い。それなのに,なぜ,会社は異動させるのか?

会社によっていろいろな方針があり,一概には言えないが,一般職では同じことをさせるよりも,5年程度で新しい仕事をさせた方が,マンネリ化は防止できるし,組織的に数人で同じ仕事をカバーでき,突発的なことに対して,業務に支障を来さないようになる。また,個人的にもいろいろな業務をすることで,視野が広がることになり,個人の成長も促すことができる。さらには,新しい仕事にチャレンジすることにより,新たな意欲も沸き,モチベーションも高まる場合が多い。ただ,異動直後は,慣れるまでの若干の停滞はあっても,その後の飛躍を考えれば適切な処置と云えよう。

専門家は一見,同じ仕事に専念する方がよいようにも見えるが,やはり専門家と雖もマンネリ化は不可避で,むしろ,一時的に違った業務をやってみたり,或いは10年程度で違った仕事(全く違ったものではなく,関連する業務)に転換することはそれほど大きなデメリットにはならない。専門家でも反って違った角度から視野を広げることができ,新たな発見があるメリットの方が大きいように思う。技術者でも同じ職場で同じ仕事をずっと続けてきた人より,違った仕事や職場を経験した人の方がアイディアも豊富だし,頭の切換も早い人が多いように感じる。専門家も5年も同じ仕事に専念すれば,そこそこの専門家のレベルに達するようになる。ノーベル賞を狙うような人ならばいざ知らず,通常一般の仕事では十分な専門家である。

会社では経理のようにお金を扱う部署は,定期異動を必ず実施するようになっている場合が多い。営業や購買などでも,取引先との癒着などを回避させることで,定期異動をさせることがある。会社にとっても,個人にとっても,悪いサイクルに陥らないための仕組みでもある。

こうした定期異動は前向きに捉えよう。必ず長い人生の中でプラスに働くことが多い。

  ステップアップの異動

会社ではずっと社員のままではなく,年功と共に昇格して行く。この昇格の時期を見計らって異動させることがある。会社によって昇格前に異動させることもあれば,昇格後に異動させることもある。もちろん,必ずしも昇格前後とは限らず,同じ仕事のままで昇格することも多い。昇格前後の異動は,本人のステップアップを目論んだもので,個人的な成長を促すきっかけとなるものである。

私の経験では,当時流行っていたのだが,管理職に昇格する条件として,職種を異動することが必須で,これまでずっと続けていた技術職から,製造現場の管理職に変えられた。それまでも技術の範囲であったが,毎月の経費状況を掴んで報告はさせられていたが,製造現場となると,原価から労務費,さらには管理費など製造収支全体に亘るものを管理監督することをさせられた。毎月月末締めた後の決算報告会では,いわゆる収支決算を損益計算書(PL)を基準にして,その詳細を把握して,上司に報告することが義務づけられた。

最初は,現場の原価管理の担当が分析したことを理解することから始まり,収支報告の先月との差が何であったとか,特に,赤字状態では,如何に挽回するか,その計画を立て報告するなど,技術者では味わうことにない,現場のコスト意識の重要さを身を以て知らされたのであった。最初は,上司の追求にまともな回答もできず,シドロモドロ状態であったが,3,4カ月と経験を積むと,そのポイントも判るようになり,質問される内容も予め予測できるようになって行った。

この経験を3年程やらされ,製造現場の工場長に当たる(と云っても,100人程度の現場だったが)責任を積んだことが,製造会社の経営の仕組みを理解することができ,経営そのものにも関心を持つことになった。こうした異動による経験で,視野を広めることができ,その後の会社生活,再び技術開発中心の仕事に復帰してからも大いに役立っている。製造現場に明るい,収支が読める技術者として活躍することができたのである。

このホームページのタイトル「技術経営の交差点」も,単なる技術,専門技術を極めることではなく,経営の視点から技術は如何にあるべきか,若手技術者に是非知っておいて欲しい観点はどんな点か,など,職場異動を通じて経験し,知識として吸収してきた賜物である。

 

同じ仕事,同じ職場でマンネリ化していませんか?

職場異動を積極的に活かそう!

 

[Reported by H.Nishimura 2012.10.08]


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