■開発現場より 3 (業務報告会のリーダの役割)  (No.260)

製品開発の現場でのいろいろな問題点について考えてみることにする。(続き)

業務報告会でのリーダの役割は大きい。リーダがしっかりとしたリーダシップを発揮する場である。具体的な役割について述べてみる。 

  全体像をできるだけ的確に示すこと

業務報告会はメンバーがリーダに対して,進捗を報告するのが中心であるが,定例の報告会では,仕事全体(プロジェクトとして)の大きな流れをメンバー全員に徹底する場でもある。最終目標に対して,現在の立場,状況などがリーダだけが把握しているのではなく,グループに居る主要なメンバーには,リーダと同等の立場での全体把握ができているようにしなければならない。

つまり,主要なメンバーがリーダと同等の立場で仕事全体を見極めることで,リーダ一人でなく,衆知の知恵が集まり,きめ細かな運営ができることになるからである。人は命令されて行動するよりも,任されて行動する方が,能動的,且つ効率的である。全体像が的確に示されれば,“船頭多くて船が山に上る”などと云った事態は回避できるはずである。全体像が見えないと,行き先に乱れが生じる。

部分最適は必ずしも全体最適にならない。つまり,一部のためになるとしてどれだけ頑張っても,全体からみて最適でなければその努力が報いられない。むしろ,自分たちは犠牲になっても,全体が上手く行くならばそちらを選択した方が良い。即ち,各々の部分が自分たちのことだけでなく,全体を見ながら進める方が効率的なのである。そうしたことから,報告会などでは全体像が見えるようにすべきなのである。

  重要なことは繰り返し徹底すること

前回,情報の伝達ロスの説明をしたが,リーダが理解できているほどメンバー一人ひとりの仕事全体(プロジェクトの全貌)の理解度は低いのが普通である。特に,重要と思われることは,定例会でリーダは繰り返し徹底することが必要である。

要はリーダが仕事全体から見て重要と思っていることは,メンバーにはそれほど重要と感じていないことが多いのである。全体像を判るように説明したつもりでも,その理解度はリーダが思っているほどではないのである。だから,その重要性の感じ方が異なってくるのである。理解してくれている筈と思わず,繰り返し言うことに意味があると思ってやる方がよい。

仕事に於いて(プロジェクトを進めるに当たって),何が重要なことかをメンバー全員に周知徹底しているのと,そうでないのでは各々のパートでの判断基準が違ってくる。メンバーが同じ判断基準で仕事を進めていることが必要で,そのためにもリーダは判断基準の基となる重要なことが何かを徹底してメンバーに納得させるべきである。

  質問でより詳細な部分まで詰めること

業務報告の内容は,メンバーによって様々であり,説明が不十分なことがよくある。それをそのまま聞くだけでなく,疑問を感じたり,説明不足な点があれば,とことん理解できるまで質問をしよう。そうした質問することによって,メンバーが十分説明できていない部分が浮きぼりになったり,曖昧な部分が明瞭になり,問題点として現れることも多い。

質問することは,判らないから尋ねることではあるが,いろいろな角度から物事を確かめるためには必要なことである。ぼんやり判ったことでも確認する意味で質問を投げかける方がよい。真の意味合いを深めるために必要なことである。リーダが手始めにいろいろな質問を投げかけ,やがてはメンバー同士が質問をし合い報告会が活発な議論の場になれば,チームとしてのまとまりも出てくるようになる。

  丸投げは厳禁,言葉だけを信じてはダメ

リーダはメンバーの活動がすべて理解できているとは限らない。特に,新製品の開発などの場合,初めてやっていること,不確定要素が多いこと,或いはリーダが専門とする領域から外れた部分など,メンバーの方が詳しくよく判っているケースも出てくる。こうしたケースでも,メンバーに任せっきりで丸投げ状態にするのは回避すべきである。時間的な制約などあって,メンバー同等の知識に追いつかない部分があっても,そのポイントとなる部分はしっかり押さえるべきである。

特に,目の届かぬところにメンバーが居る場合(極端な場合,オフショア開発など),報告している内容をそのまま鵜呑みにしていると,とんでもないしっぺ返しに合うことが起こる場合がある。要するに,言葉だけを信じてしまうことである。言葉での報告のウラ(根拠となるもの)を必ず押さえるようにしよう。そうすれば,言っていることと実態の乖離が少なくなる。ウラ(根拠)が取れない場合は,何らかの問題が生じていることが多い。

  コミュニケーションが取りやすい雰囲気を作ること

業務報告の場は,追求の場ではない。リーダがメンバーを追求する場と化してしまうと,メンバーはそうした追求を逃れることに力を注いでしまう。つまり,事実を明らかにして問題解決を図る場が,上手く騙して過ぎることが行われる場となってしまう。そんな極端なことは無いにしても,事実を素直に明らかにできない雰囲気ができるようでは,折角の報告会が意味を為さなくなってしまう。

もちろん,リーダが悪いことに対しては厳しく叱責することはあってもよい。馴れ合いでまあまあとその場を済まして後から問題になるよりはよい。リーダとメンバーの双方が信頼できる関係にあることが重要である。そのために,リーダは全員を最終目標に向かって推進していることをメンバーに明らかにしなければいけない。双方のコミュニケーションが取れているかどうかは,成功には必須要件である。

  決断すること

プロジェクトなど仕事をする中で,決めないと前に進まないことがある。こうしたときに,腹を決めて決断することが重要である。決断せずに先延ばしして,タイミングが遅れて悔やむケースは多い。確かに,不確かな情報での判断は難しい。逆に云えば,確かなことになってしまえば判断は不要になってしまう。不確かな中だから,その時点で決断することによって,先が見え,方向性がいち早く定まるので上手く行くのである。リーダにとって,決断することは難しいことであるが,非常に重要な分かれ目になることがある。

決めたことが間違っていれば修正すれば良い。リーダが的確に判断することは,その中に居るメンバーのモチベーション,やる気が随分違ってくる。決断できるリーダは,メンバーからの信頼も厚い。もちろん,正しい決断が重要ではあるが,くよくよして先延ばしして正解を模索するよりも,サッと早く決めてくれるリーダの方がやりやすい。もちろん,メンバーとしてリーダに決断して貰う判断材料は十分提供しなければいけない。

 

リーダの最大の役割は決断することである

 

[Reported by H.Nishimura 2012.03.05]


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