■消費税増税論に対して (No.256)
消費税増税の論議が国会で為されている。国債発行がどんどん膨らみ,国家予算が収入を遙かに上回った事態で,社会保障制度の高齢化に伴う制度維持が困難となった今,増税しなければ国家運営が成り立たないことは,一般人でもよく判ることである。
だから,消費税増税に賛成(致し方なく)の声が多いのは事実である。しかし,一般国民の多くが,増税する前にやるべきことがまだまだ残っており,それらをせずして,最も弱い国民に一番にしわ寄せをすることに怒りを駆っているのである。議員の定数削減や国家公務員の給与引き下げなど,代議士や政府官僚が自らの痛みを率先して示してこそ,国民に納得を得られることは自明の理である。
これだけ景気が低迷している中で,消費税増税はますます国民の財布の紐を締めることになり,景気浮揚が望めない。先ずは景気対策をした上での増税ならば致し方ないとする意見は尤もであり,その通りだと感じている。なのに,景気対策を優先できないのはなぜなのか?
ここ2,3日,製造業各社の3月期決算予測が発表,これまでにない赤字決算が発表されている。東日本大震災による影響,タイでの水害の影響などその原因はいろいろあるが,何と言っても70円台/ドルで推移している円高の影響が最も大きなものであることは違いない。製造各社の産業構造の転換が遅れていることもあるが,ここまで製造業を疲弊させている政府の経済政策に一言言いたい。
80円以下/ドルの円高が妥当なのか
経済を十分勉強した訳ではないので,不十分とは思うが,考えていることを述べてみたい。
景気低迷の元凶は,円高対策ができていないことが一番大きいと感じている。100円/ドル程度になっておれば,企業の経営収支は明らかに良くなり,雇用促進効果は上がり,従業員の給与も上がり,個人消費に廻るお金も出てくる。そうすると,物が売れ,さらに企業が活気づくことになり好循環を生み出すことになる。なぜ,こうしたことができないのだろうか?
円相場は日本独自ではできなく,ヨーロッパの影響が全世界に及んでおり,日本だけが為替介入しても効果が出ない。また,円安に移行させようとすると,極端に円安に振られ,日本経済が成り立たなくなるとの論調もある。そうかも知れないが,日銀や政府が手をこまねいて何もしない状態が今日あるのではないか。とにかく,国家としての戦略が無いと断言しても良いのではないかと感じる。円相場は日本だけではどうしようもないとは,私達一般人でも判る。そんな言い訳を日銀や政府関係者がして欲しくない。日本独自では何ともしようのない相場を,国家の命運を掛けて世界を相手にコントロールさせ,円相場の健全な状態に導くことが,日銀の最大の役割ではないか,そのために存在する役所ではないかと思う。関係者に国家戦略があるとは微塵にも感じられない。
昨今の円相場の70円台/ドルが健全な状態と日銀や政府関係者が本当に考えているのだろうか。日本だけでは無理なのでと諦めてしまっているのではないだろうか。できないと否定的な考え方になってしまえば,それ以上前に進むことはできない。そんな状態に陥っているとしか思えない。世界の相場で左右されるなど一般と同じような口調で(実際はそうでなくとも)日銀や政府関係者が発言されるのを聞くと他人任せの無責任な発言にしか聞こえてこず,そんな人は止めてしまえ,と言いたくもなる。彼らは,急なインフレが怖くて雁字搦めに会っていて,何も出来なくなってしまっているのだろうか。国家戦略なので手の内を国民の前にあらわに出来ないのは当然としても,余りにも無策に腹立たしい。日銀総裁の給与カットなど当然ではないか。日本の命運が掛かっており,そんな甘っちょろいものでは済まされない気持で一杯である。
著名な人の書かれた書籍では,現状の円高が日本の経済状況と一致せず,円高バブルの異常な状態であって,今にはじけて一気に円安に振られるとも云われている。確かにその通り,円高バブルのような気もする。しかし,円高バブルになるまでそのまま放っておいた責任は誰なのか?財務省は国益を大いに左右する円相場を国策としてコントロールできない素人集団なのか?確かに,財務大臣は,米国などの財務長官などドル相場に長けた人物を起用されていることとは比較にもならない。ずぶの素人が日本では大臣になっていて,その差は歴然である。でも日銀はそうではないはずである。とすれば,日銀の責任が大きいと云えよう。
今年には,国債バブルがはじけ,財政破綻して急激な円安になるとか,或いは財政破綻をくい止めるため,お札を大量に発行してハイパーインフレ状態となり,これも円安になると。だから資産を円からドルに置換しておくことが賢明だと主張する人も居る。確かに90年代のアジアの通貨危機の再来が日本で起こる危険性は大いにあり得る。そうした極論状態に陥る前に,政府関係者,特に財務省は増税で安定化を目指すことよりも優先して国家の危機に立ち向かい,国民の生活安定を図ることを最優先して欲しいものである。その第一歩は,健全な円相場確保であり,コントロールは困難だと逃げず真剣に当たって欲しい。何とか100円/ドルそこそこまで円安にコントロールして欲しいものである。
これが実現できれば,景気浮揚はもちろんのこと,雇用確保,国民生活の向上が可能となり,消費税の増税についても国民の十分な納得が得られることにつながる。つまり,何よりも優先される国家戦略である。政治家の目がどうも内向き過ぎて話にならない。そんな政治家を選んだ国民の責任ではあるが・・。
円高対策ができない日本の復興は難しいのでは?
[Reported by H.Nishimura 2012.02.06]
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