■プロ野球解説より (No.240)

プロ野球も終盤になり,首位争いが面白くなりつつある。テレビ番組でもドラマを見るより,ついついプロ野球を見てしまうことが多い。熱狂とまでは行かないが,阪神ファンの一人である。今年も,いざと云うときヤクルトに5連敗を喫して,首位攻防からは早々と離れてしまった。いつものことながらここ一番に弱い阪神である。今頃,ヤクルトに3連勝しても時期が遅すぎる)。

これまでプロ野球の実況中継を見ていて,解説者の解説が耳障りなことが多かったが,今年から矢野さんが時々解説者になり,今までとは違った楽しみ方を教えてくれている。

これまでの解説者はベテランの方で,特に上から目線で,結果が出てからああだ,こうだと云う素人でも後からだったら言えることを,何かもったいぶって解説をしていたり,自分たちの時代と比較して解説したり,解説を聞いていて少しも楽しくない,こんな解説だったら無い方がましだと思うこともしばしばあった。ここでは名前は出さないが,特に意地悪な目線で悪かった結果からあれこれ解説する解説者に当たると,ゲームそのものが面白くなくなることもよくあった。

今年から,矢野さんが解説している場面は,臨場感があり,特にキャッチャーだったので,自分だったらこの場面ではこのようなボールを要求するなど,結果からではなく,一緒にゲームの中に溶け込んで解説をしてくれている。テレビ観戦者は,時には自分も入り込んでしまって,次はどのようなボールが来るとか,ピッチャーのクセを読んだり,或いは得点圏にランナーが居ると,何とかしてヒットを打ってくれと祈るような気持ちでその場面に集中する。観戦者ではなく,時にはのめり込む場面があってこそ楽しいのである。

矢野さんは昨年まで現役だったので,未だ自分がプレヤーで実際の場面でやっている感覚での解説なので,非常に聞いていて楽しい。他の解説者と一番異なる点は,キャッチャー出身なので,目線がグランド全体を見渡している感覚がヒシヒシと伝わる。また,なぜ自分だったらこのボールを要求するか,その理由までも説明してくれている。なるほどと思うこともしばしばある。もちろん,阪神ファンで無い人が聞くと,阪神ファンの目線での発言だとクレームが付くかも知れないが,サンテレビ(阪神の中継を専門にしている)など見ている人の殆どが阪神ファンだと考えると,その程度は大目に見ても良いのではと思ってしまう。

解説やコーチングは,どちらかと言えば上から目線で選手を,或いは観戦者を見て解説する場合が多い。つまり,自分ができていたかどうかは棚に上げて,正論で言う。確かに,その役柄としては重要なことではあるが,時には冗談を交え,或いはユーモラスに語ったり,こんな失敗もあったなど人間味溢れる説明があると,聞いている方もその内容に納得してしまう。ところがいつも,正論で,上から目線でしか言わない解説者は,聞く方が嫌気をさしてしまう。本人は立派な解説をしていると思っているが,観戦者はそうではない。そうした顧客満足度的なリサーチをテレビ局はする気はないのだろうか?大ベテランの解説だから必ずしも良いと云う訳ではない。やや一方に偏った解説であっても,顧客の心を掴んだ活き活きとしたものの方が好まれる。

たまたま野球解説を取り上げたが,指導者,コーチングなど若手,或いは人を育成・指導する立場にある人は,私も含めて何かと上から目線で物事を見,判断することが多い。それは熟練者,豊富な経験者と云う意味では必要なことであり,大切なことではある。しかし,その目的は,立派な演説や優れた見識を述べることではなく,受け手の人がどれだけその内容を受けとめてくれるかである。単なる人気取りではいけないが,やはり顧客満足度と云うか,受け手の感じ方によって,本来の目的に対する効果が大きく変わってくる。

キャッチャーと云うベースボールの要を任された矢野さんの解説の魅力は,グランド全体を常に見ながら,一球一球を慎重に選択する緊迫感が観戦者に伝わるからに外ならない。我々も,常に大きく全体把握をしながら,一場面一場面を緊迫感を以て当たることの大切さを教えてくれている。

プロジェクトの要の役割を果たそう!

 

[Reported by H.Nishimura 2010.10.10]


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