■数字のトリック (No.231)
NHKの毎週放送の番組に「ためしてガッテン!」と云う番組がある。大抵は,食べ物や健康に関する内容が多く,女房がずっと見続けているので一緒に見ることが多い。今月初めの放送で「数字のトリック見破り術」と云う放送があり,技術者にも興味ある内容だったので紹介しておこう。
現金値引きとポイント還元
これは,4割引で購入する場合と,5割のポイント還元がある場合では,どちらの方が得なのか,と云うもので,感覚的には5割のポイント還元の方が多くて得な気がするが,数学的な計算では,逆であると云う例題である。つまり,10000円で購入し,5000円分のポイントを貰う場合と,10000円の品を4割引で購入する場合の得する割合である。
これは,5000円分のポイントを貰う場合,10000円で15000円分の品物が購入できることになる。一方,4割引では,15000円の品物は,9000円(=15000*0.6)で購入できることとなり,明らかに後者の方が1000円分得をする勘定である。
要するに,4割引き(4000円得)と50%の還元(5000円得)を比較して50%の方が大きく得だと早合点するところに落とし穴がある。これはポイント還元セールとして,よく商戦合戦が行われているが,当にこれは消費者心理を上手く掴んだやり方である。但し,50%還元などそれほど大きなものはなく,多くても20%還元なので,12000円の品物を10000円で購入することなので,17%引き(=1-(10000/12000))に相当すると云うものである。
モンティ・ホール問題
アメリカのクイズショー番組で,モンティ・ホールが司会者をしていて,確率論の数学者を巻き込んだ問題として話題になったものだそうである。私自身も,最初聞いたときはアレッと感じたものである。
「テレビのクイズ番組で,番組の中で3つのドアがあって,そのうち1つのドアの後ろには新車が,2つのドアの後ろにはヤギがいます。あなたからは,ドア向こうが何かわかりませんが,新車の隠れているドアを開けると新車がもらえます。ヤギの隠れているドアを開けても何ももらえません(外れとなる)。まず,あなたが3つのドアの中で新車があると思う1つのドアを選んだ後,ドアの後ろに何があるかを知っている司会者が残りの2つのドアのうちヤギがいる方のドアを開けます。そして,今あなたは自分が選んだドアと,残っている開けられていないドアを交換しても良いと言われます。あなたは交換すべきでしょうか?」
テレビでも一旦自分がこれはと思って選んだドアなので,残り2つドアで新車が当たる確率は1/2なので,折角自分で選んだのに,もし当たっていて変えたことにより外れたとすれば,悔いが残るので心理的にはそのまま変えない気持ちになる。多くの人がそうした心理になるであろう。
ところが,ここでパレードマガジン誌のコラムニストのマリリン・ヴォン・サヴァント(自称IQ228)と云う女性が,「変える方が,確率は1/3から2/3に上がる」と答え,それが1990年のアメリカで話題を呼び,数学者を含め異論を唱える人が多くいたそうである。確率は1/2であると云う意見である。私自身も,1/2の確率に近く,2/3に上がるとは考えが及ばなかった。しかし,答えは,次の通りである。
A B C 変えない場合 変えた場合 1 ヤギ ヤギ 新車 Aで外れ A→Cで当たり 2 ヤギ 新車 ヤギ Aで外れ A→Bで当たり 3 新車 ヤギ ヤギ Aで当たり A→B,orCで外れ
A,B,Cの三つのドアがあり,組み合わせは以上,1,2,3のいずれかのケースである。ここで,あなたがAを指したとする。
1の場合:開けるドアは,ヤギのBになる。
2の場合:開けるドアは,ヤギのCになる。
3の場合:開けるドアは,ヤギのB,又はCとなる。
各ケースで変えない場合と変えた場合を比較してみると明らかに変えた方が確率が上がる,つまり2/3の確率に上がることが判る。要するに,司会者があなたが選んだドア以外で,新車ではなくヤギを選ぶために,3のケースの当たっている場合を除き,選ぶドアが新車ではないヤギのドアを選ばなければならないので,そうしたケースが2/3となり,司会者が選んだもう一方を選ぶ,つまり変えた方が当たる確率が上がると云うことである。お判りかな?
こうした問題は,最後の条件だけで見ると間違いを犯すことになり,最初の条件を元にケース分けをして,それが次の展開によってどのように条件が変わったのかを把握しないと正解に結びつかないことになります。同じような問題は,いろいろなケースでありますので,みなさんも考えてみてください。
ガン検診のワナ
女性の乳ガンの発見に有効なマンモグラフィー検査と云うものがあり,その検診結果,再検査が必要と判定された女性の話題である。データによれば,乳ガンでない女性が間違って乳ガンと云われる確率は約9%程度だそうである。これを聞くと,乳ガンである確率が91%もあるとビックリしてしまうのが当たり前である。
一方,再検査される対象者で実際乳ガンである確率は3%程度である,と云うのも事実らしい。それでは,間違う確率の9%と乳ガンである確率3%とどんな関係になっているのか,疑問が沸く。
ここでもう一度整理をしてみると,間違って乳ガンと云われる確率が9%と云うことは,91%が間違わないのだが,それは乳ガンで無い判定をされた人々である。つまり,乳ガンの発生確率そのものが低く,対象者が1000人でその中に3人確定した乳ガンの女性が居たとすると,乳ガンでないのに間違って再検査の対象となる女性が約90人(=(1000−3)*0.09)見つかることになる。そうすると93人中3人だけが本当に乳ガンなので,約3%(=3/93)となる。
つまり,乳ガンを早期発見することが目的で,精度が悪い訳ではなく(乳ガンの女性は確実に見つかることから),ただ,実際に乳ガンの確率が3%を強調されると,本当に乳ガンの女性まで,確率が低いから大丈夫と再検査しない可能性が出てくるので,敢えてその数値を示していないようである。要するに,何かおかしい状態があれば,正しく再検査をしてもらって安心することが大切なのである。
数値のトリックに嵌らないようにしよう!!
[Reported by H.Nishimura 2011.08.22]
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