■複眼視から複眼思考へ 4 (No.201)

複眼思考について考えてみる(続き)

複眼思考を身に付ける方法として,以下の3つの方法が紹介されている。

  物事の多面性を捉えるための「関係論的なものの見方」

先ずは,どのようなことがらも,複数の要素間の関係によって,目の前の現象として現れていると云う見方である。それには,次のようなポイントがある。

  1. 目の前の問題(事象)は,どのような要因(要素)の複合かを考える(=分解)
  2. それぞれの要因の間にはどのような関係があるのかを考える(=相互作用の抽出)
  3. そうした要因の複合の中で,問題としていることがらがどのような位置を占めているのかを考える(=全体の文脈への位置付け)

こうしたことは,我々の生活の中で,ある表現を「実体」と捉えるのではなく,「関係性」の中に現れた現象と見ることを意味している。しかし,それは実際にはなかなか難しいことで,ついつい「実体」があるかのように捉えてしまっていることがよくある。言葉だけがひとり歩きしないようにするには,関係論的な立場で,複眼思考を心掛け,シンボルや概念,或いはルールなどのひとり歩きを止めて,考えてみることである。そうする方法としては,次のようにすればよいそうである。

  1. 「○○化」として問題を捉える。→○○を主語として語らない。
  2. プロセスを見るために,関係を見る。→○○を述語として語る。
  3. その場合,関係の変化にも目を向ける。→そもそも出発点に戻ってから現状を見直す。

果たしてこのように上手くできるかどうかは定かではないが,複眼的に見るために試してみる価値はあるように思う。特に,「常識」として使っている言葉で,あたかも「実体」があるかのように扱ってしまっている例は多い。(書籍では,例として,「偏差値」,「やる気」などを扱って説明している)

  意外性を身に付けるための「逆説(パラドックス)の発見」

第二の方法として,逆説(パラドックス)的に見る方法を挙げている。この方法は,逆説に注目することで,「意外な結果」や「皮肉な結果」に到るプロセスを明らかにしてくれるからである。文章的に云えば,「にも拘わらず」と云う接続詞に注目するように説いている。

  1. これから行おうとしていることが,どんな副産物を生み出す可能性があるのか。その波及効果をなるべく広い範囲で考えておく。ひょっとしたら副産物によって当初の意図がくじかれてしまう可能性がないかどうかを考えた上で実行に移す。
  2. やろうとしていることに抜け道はないかを考えておく。抜け道があった場合,そういう手立てを使う人がどういう人か,それによって,当初の計画がどのようなダメージを受けるかについて考えておく。
  3. 自分たちのやろうとしていることは,それぞれが集まった場合どのような意味を持つのか。他の人や組織も同じようなことをした場合,全体の影響はどのようなものになり,それは当初の意図とどのようにずれてしまう可能性があるのかを考えておく。
  4. 計画や予測を立ててそれを表明すること自体が,その計画や予測にどのように跳ね返ってくる可能性があるのかを考える。

これらは,「にも拘わらず」の接続詞から,これから何をしようとしているのかを考えることに役立つ思考として列挙されている。私たちが目にする文章で,「にも拘わらず」と云う接続詞にお目に掛かることは少ない。しかし,自分自身で考えようとするとき,こうしたことを考えておくことは,考えに幅を持たせることになるには違いないと思われる。

  ものごとの前提を疑うための「メタを問うものの見方」

一つ違うレベルに立ってものごとをずらして見る視点を「メタの視点」と云っている。我々が問題を捉えようとするとき,どのような視点に立っているかによって,問題の捉え方も違ってくる。したがって,いろいろな視点に立つことで,複眼的な見方ができると説いている。

 

以上,述べてきたように,一寸した事故から私の眼に障害が起きたことをきっかけとして,複眼的な思考法を考えてみた。我々の社会生活は「常識」がまかり通っている。その常識は,これまでの生活の知恵として培われてきたもので,非常に大切なものである。これをすべて見直せと言っている訳ではない。時代の変遷とともに,生活自体が変化し,それと共に考え方も変化してきている。だから,「常識」に囚われてしまって,頑なに変えようとしない,或いは,「常識」だから当然,とするのではなく,今回述べてきたように,複眼的な思考法を採り入れることが,いろいろな課題解決をしようとするときなど非常に役立つ方法であることを紹介してみたのである。

複眼的思考法をじっくり考えてみませんか!!

 

参考文献:知的複眼思考法 苅谷 剛彦著(講談社+α文庫)

[Reported by H.Nishimura 2010.12.27]


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