■複眼視から複眼思考へ 3 (No.200)
複眼思考について考えてみる(続き)
考えるための文章作成
複眼思考の第二段階として,「批判的に書く」と云うことが述べられている。
「考える」と云うことは,その考えが何らかの形で表現されて初めて意味を持つ。つまり,その表現方法として大きく二つ,「話す」か,「書く」か,である。「話す」場合は,通常,必ず聞く相手が近くにいて,話ながら相手の反応や表情を見ながら,考えを上手く調整したり,或いは,さらに考えを発展させて行くなど,話ながら「考える」こともできる。
それに比較して,「書く」ことは,もやもやしている考えを明確な言葉として表現していくことであり,「書く」ことで考えが整理され,考える力が付いていくとされている。考える力を養う書き方をするには,先ず文と文とのつながりに気を付けながら書くことである。そうしないと,論理的につながらないなど,読み手に正確に言わんとすることが伝わらないからである。
論理を明確にするポイントとしては次のような点が挙げられている。
- 先ず,結論を先に述べ,それからその理由を説明すると云うスタイルをとる。
- 理由が複数ある場合には,あらかじめそのようなことを述べておく。また,説明をいくつかの側面から行う場合にも,あらかじめそのことを述べておく。
- 判断の根拠がどこにあるのかを明確に示す。その場合,その根拠に基づいて,推論をしているのか,断定的に言っているのか,判るようにしておく。
- 別の論点に移るときには,それを示す言葉を入れておく。
- 文と文がどのような関係にあるのかを明確に示す。
しかし,実際に文章を書いてみると,なかなかこの通りに上手くは書けないものである。私もできるだけ論理的に,順序立てて判りやすくとは考えているが,いつも一定した環境にあるわけではなく,時間にゆとりがある場合は比較的に考えを整理してから書き始めるが,忙しいときや時間のないときはついつい考えを十分に整理せずに,思いついたことを順番にならべてしまうと云ったやり方で終えてしまっていることがある。
また,複眼的思考法を実践する方法として,反論を書くことがある。ディベート(自分自身の考えとは別に,ある立場に立ってその立場に賛成する側から意見を述べたり,あるいは反対する側からの論述をすること)は,日本ではそれほどポピュラーではないので機会は少ないが,このディベートの方法は,考える力を養う上で,とても有効なヒントを与えてくれる。例えば,つぎのようなポイントがある。
- 自分で仮想の立場を複数設定して,それぞれの立場からの批判や反論を試みる。
- さまざまな立場に立った反論を書くことで,書き手がよって立つ複数の前提も見えてくる。
- 反論や批判は,頭で考えるだけではなく,必ず文章にしてみる。文章にすることで,論理の甘さも見えてくる。自分の立場を第三者的に捉えることも可能である。
このように,文章作成によって「考える」ことをより深いものにして行く方法が示されている。
考える筋道としての問い
何の疑問も感じないところでは,私たちは深く考えることはない。疑問と問いとの決定的な違いは,疑問が感じるだけで終わる場合が多いのに対して,問いの場合には,自分でその答えを探し出そうと云う行動に繋がっていく。この問いの表現の仕方次第で,考える筋道が出てきたり,出てこなかったりする。我々の実生活で疑問を感じることは多い。しかし,それを問いにまでもって行くことをしない人が圧倒的に多い。否,忙しくて疑問さえ抱かず,あくせく働いている人だって多い。問いに発展させるには,当然,答えを期待し,そうすれば考えざるを得ない状態が作られる。だから,一歩前に進んで問いにできる人は考えている人である。
この問いを幾つかの問いに分解したり,関連する問いを探していく,問いの分解と展開によって,考えを誘発する問いを得ることができる。このような問いの立て方と展開の仕方を学ぶことは,複眼思考を身に付ける上で重要なプロセスである。複眼思考とは,ものごとを単純に一つの側面から見るのではなく,その複雑さを考慮に入れて,複数の側面から見ることで,当たり前の「常識」に飲み込まれない思考の仕方である。したがって,一つの問いを複数の問いに分解し,それぞれのつながりを考えていく方法を身に付けることによって,私たちは複数の視点を得るようになるのである。
「なぜ」と云う問いを基点にして,新しい問いを発見していく。これらの新しい問いの中には,最初の問いとは別の側面から問題を見る視点が含まれていることが少なくない。つまり,ちょっと問いをずらしてみることで,最初の問題を真正面から見ているだけでは見えてこない側面を捉える,もう一つの視点,即ち,複眼が見つかるのである。「なぜ」と云う問いが重要なのは,原因と結果の関係,即ち,因果関係を問うのが,「なぜ」と云う問いであると云う点が,複眼思考にとって重要だからである。
ビジネスの世界での「どうしたらよいか」と云う問いに対しても,一つの原因=手段だけで,期待している結果=目的が達成できるとは限らない。複数の原因が絡まり合って,一つの結果を生み出していたり,或いは逆に,一つの原因から様々な結果が生まれると云うことが少なくないのである。「疑似相関」と呼ばれる,一見,相互に関係(=相関)があるように見えていて,実際にはその関係が偽物(=疑似)である場合がある。少なくともこの疑似相関を見破ることは必要である。そのためには,他に重要と思われ,同時に変化している要因の影響を取り除いてみると明らかになる。
(続く)
複眼思考ができるには,常日頃からの地道な努力必要である。
参考文献:知的複眼思考法 苅谷 剛彦著(講談社+α文庫)
[Reported by H.Nishimura 2010.12.13]
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