■複眼視から複眼思考へ 2 (No.199)
複眼思考について考えてみる
常識・経験に囚われている
我々はいろいろ考えることがある。自分の頭の中で考えを巡らせている。そうした考えを巡らす中で,やはり自分の経験や常識と思われることがその根底にある。そうしたことは無意識のうちに行われている。また,人はいろいろ考えを巡らして意見を言うが,それも自分で経験したことに大きな影響を受けている。自分で経験したことは,実際に起こったことであり,単に空想していることと違って,力強く,自信を持った言い方になるので,自ずと説得力を発揮する。
このように我々の生活の中で,無意識に行っている思考法には,「常識」や「経験」に左右されていることが多い。しかも,その「常識」はある意味では正しい考え方であるが,固定した考え方で時代の流れや,新しい考え方には追いついていないことがある。だからといってそれが悪いことではないが,いろいろ発想を巡らしたり,深く思考に耽ったりと云うときには邪魔になることがある。つまり,自由にいろいろ考えようとするときに,無意識の中に潜んでいて,それらから大きく脱却して考えることができないことがある。自然なことであるが,我々が単純に思考を巡らすときには,常識や経験に囚われた考え方になっていることを知っておこう。
自分で考えるよりも他人に同調する方が楽である
自分自身でいろいろ考えることはなかなかたいへんなことなのである。自分の違った意見を言うより,他人の意見に同調する方が楽な場合が多い。多くの場合,そうした同調意見で済まされることが多い。世の中,多数決で決めるのが民主主義のやり方だとみんなが思っている。だから声が大きい人が発言したり,上司が意見を言うと,それに従ってしまう光景がよく見られる。
ところが,大多数であることと,正しい本質的なこととは必ずしも一致はしないことがある。つまり,正しい本質的なものは何かを考えるときには,他人の意見を参考にすることはよいが,やはり自分自身でじっくり考えることである。他人の意見に,ああその通り,と云うのは簡単である。しかし,その前に自分はどのように考えるのか,その本質的な意味合いはどこにあるのか,を考える訓練をしておきたい。そうすれば,いろいろな出来事に対して,自分としての意見を持ち,それを判断基準としてどうなのかを考えることになる。自分の考えが正しいとは限らないが,そうした判断基準を持って対応することが,判断基準そのものを磨くことにもなる。
知っていることと考えることは違う
いろいろ知識があるから考えも深いと思われがちだが,必ずしもそうではない。考えを深くするには,知識が豊富な方がよいことは確かである。受験勉強の弊害の一つであるが,正解が必ずあると思っている人が意外と多い,特に,若い社会人としての新人には多い。しかし,社会生活を経験すると,正解は一つではないことはざらで,正解が無い場合だってあり得る。しかし,知識が乏しいとすぐ知らないから考えが及ばないと云う判断になることが多いが,決してそうではなく,正解を探そうとするから,考えられないのであって,知っていることを考えることに結びつけるやり方を理解することが重要なのである。
こうした知っていることを考えることに如何にして結びつけるか,と云うのが複眼思考的な考え方と云われている。我々の社会人生活では,非常に大切な考え方で,こうした考え方ができるかできないかで,その人の成長にも大きく影響を及ぼす。以下,参考にした書籍を紹介しながら,複眼思考を考えてみる。
創造的読書法のすすめ
先ず,取り上げられているのが,創造的読書法が進められている。この読書法で,思考力を鍛えようとするものである。読書,小説以外の,特に,エッセイや教養書は,著者が言いたいことのエッセンスが詰まっている。だから,この本で著者が言わんとすることは何なのかをじっくり考えながら読み取ることは,自分の思考法を鍛える上では非常に役立つ方法である。
簡単な言い方で云えば,著者の言い分を鵜呑みにしない読書のすすめを推奨されている。つまり,批判的に読書をすることで,物事に疑問を感じること,物事を簡単に納得しないこと,「常識」に呑み込まれないこと,即ち,自分で考えると云う姿勢を保つことを推奨されている。そのための,ポイントとして挙げられているのが次の内容で,参考に掲載しておく。
批判的読書のコツ (知的複眼思考法 より)
- 読んだことのすべてをそのまま信じたりはしない
- 意味不明のところには疑問を感じる。意味が通じた場合でも疑問を感じるところをみつける。
- 何か抜けているとか,欠けているなと思ったところに出会ったら,繰り返し読み直す。
- 文章を解釈する場合には,文脈によく照らす。
- 本についての評価を下す前に,それがどんな種類の本なのかをよく考える。
- 著者が誰に向かって書いているのかを考える
- 著者がどうしてそんなことを書こうと思ったのか,その目的を考える。
- 著者がその目的を十分果たすことができたのかどうかを知ろうとする。
- 書かれている内容自体に自分がどう影響されたのか,それとも著者の書くスタイルに強く影響を受けているのかを見分ける。
- 議論,論争の部分を分析する。
- 論争が含まれる場合,反対意見が著者によって完全に否定されているのかどうかを知る。
- 根拠が薄く支持されない意見や主張がないかを見極める。
- ありそうなこと(可能性)に基づいて論を進めているのか,必ず起きると云う保証付き論拠(必然)に基づいて論を進めているのかを区別する。
- 矛盾した情報や一貫していないところがないかを見分ける。
- 当てになりそうもない理屈に基づく議論は割り引いて受け取る。
- 意見や主張と事実との区別,主観的な記述との区別をする。
- 使われているデータをそのまま簡単に信じないようにする。
- メタファー(たとえ)や,熟語や術語,口語表現,流行語・俗語などの利用の仕方に目を向け,理解に努める。
- 使われている言葉の言外の意味について目を配り,著者が本当に言っていること,言ってはいないが,ある印象を与えていることを区別する。
- 書いていることがらのうちに暗黙のうちに入り込んでいる前提が何かを知ろうとする。
このように書き上げられると,いろいろ考えさせられる点は幾つかある。こうしたことは,単に知っているだけでなく,自分のやり方として身に付けることが重要で,その通りだと知っただけでは何の役にも立たない。明日からでも,数個でもよいので心掛けてみれば,次第に考え方が豊かになっていくように感じられる。
複眼思考は重要な思考法である。是非,マスターしておきたい!!
参考文献:知的複眼思考法 苅谷 剛彦著(講談社+α文庫)
[Reported by H.Nishimura 2010.12.13]
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