■複眼視から複眼思考へ 1(No.198)
人は右目と左目で見ることによって,物体を立体的に捉えることができ,最近,映画やテレビで3Dと云われているのは,この右目と左目の差を利用して,画像を立体的に見せようとするものである。複眼視に関する出来事が,私自身に起こったことから,複眼視,及び複眼思考について考えて見ることにする。
複眼視が起こった
つい1カ月前のことである。朝テニスをしようとしたところ,どうも見づらい。何が起こったのかよく判らなかったが,どうもテニスのボールが二つに見える。複眼視の症状が起こってしまったのである。片目をつぶって右目や左目だけで見るとよく見えるのだが,両目で見ようとすると,各々の眼で見ている像の焦点が合わないのである。メガネを掛けずに3Dの映像を見ると,像がぼやけて見えるが,それと似た症状で,或いはもっとひどい状態である。テニスは長年の勘でラリーは少しはできたが,速いボールに眼が追いつかず全くダメな状態であった。
直ぐに脳梗塞ではないかとの疑いで,脳神経外科でMRIを撮ってもらったが,脳梗塞の症状はどこにも見当たらず,脳には何の異常もなくホットした。次に,眼科へ行き診断してもらったところ,滑車神経麻痺と云われた。モノが二重に見え,それも上下にズレて見えるのである。目の前に棒のようなものでそれを上下左右動かされるのに,その先端を眼で追っかけるのだが,十分追随できないことが判る。
また,碁盤のようなマス目の画面で,中心から上下,左右に均等なマス目の交差ポイントにドットが打たれている。それを,右上,左上,右下,左下とドットの点を追いかけるのだが,マス目やドットは赤色,追いかける矢印は緑色で,左右が赤色,緑色に分かれたメガネで云われたドットを指し示す。通常であれば,ドットを正確に追っかけられるのだが,視神経が麻痺した状態なので追いかけると,かなり違ったポイントを指しているようである。どの位違っているか,データは教えて貰わなかったが,最後に指しているポイントがメガネを外してみるとかなり違ったところを指していたことからも,ひどい状態になっていることが伺えた。
特別な外傷を受けて起こるとか,糖尿病から来る場合があるとのことだったが,そうしたことは無縁だったので原因がよく判らなかった。しかし,特に眼そのものが悪いのではないので,眼を使うことなど,何か制限することはなかった。神経麻痺のような状態なので直ぐには治らないが,徐々に良くなるので焦らないで治るまで1カ月程度は掛かると思ってください,見難いときは,片目で見るなどして,楽な方法で見るようにしてください,との説明を受けた。どうなるか心配だったので質問すると,治り方はいろいろで,突然治る人や最期まで残ってしまう人も居るが,多くは徐々に治っていくとの医者の言葉を信頼して過ごすことにした。もちろん,自転車や車の運転はとてもできる状態ではなかった。
起こった最初は,天地がひっくり返っているようで,真っ直ぐ歩くこともゆっくりでないと無理な状態で,病院へ行くのがやっとの状態だったが,少し慣れてくると電車やバスに乗っての移動は可能だった。また,最初直ぐにはパソコンの捜査も不都合だったが,慣れてくると同じ状態では焦点が合ってくるので,パソコンの画面で見たり,書き込んだりすることはそれほど苦にはならない状態だった。テレビなど少し離れたものを見るのは,多少辛く,家の鴨居など明らかに左目と右目で違った角度で見える状態だった。もちろん,外の風景など片目で見ないと絵にならない状態で,両目では見慣れた風景が全く違った世界に見え,病状の説明は理解できても,現実に見ているのは自分自身で,不思議な世界がそこにあった。
家族は心配し,どうなることかやきもきし,年老いた不自由な世界に入り込んでしまったような悲観さえも呟かれていた。私自身は,科学的に見る方で,脳梗塞ではなかったが視神経の一部が麻痺状態に陥ってしまったのであり,身体そのものが大きなダメージを受けて仕事もできない状況ではないので,そう心配することはないと,楽観的と云うか,前向きな姿勢で居られた。「病は気から」と云われるように(語源は違うようだが,諺として一般的に使われている),前向きに考える方が病気の方から逃げていくのでは,と云った感覚でいた。ただ,バスや電車に乗れるといっても,一番困るのは階段の上がり下りで,特に下りる方は,階段が幾つにも見え,足を踏み外しそうになるので,手すりを持って,片目にしてゆっくり下りていた。
医者の診断通り,複眼視の状況は徐々に回復に向かっており,居住空間での不都合さは,全く無くなってきている。自転車に初めて乗ってみたが,殆ど問題はないが,まだ焦点が合うまでに少し時間を要している状態にまで回復してきた今日である。
見る世界が違った経験を止む無くさされた機会に,我々の考え方もこれまで経験上当たり前,常識と思っていることが,実はそうではない見方もあり,特に,自分でじっくり考えることが非常に大切で,「複眼思考」で見ることが必要だと,そのことについて考えてみたい。
(続く)
ある日突然,見る世界が違ってしまった。そんな経験から・・・
[Reported by H.Nishimura 2010.12.06]
Copyright (C)2010 Hitoshi Nishimura