■なぜ,考えることができないのか?(思考力不全) 8 (No.196)

最後に,「個人」に於ける思考力不全を考えてみることにする。

  【個人】

  3.良き指導者が居ない

通常,会社組織で仕事をしている人が多いが,そうした場合には必ず上司が居る。しかし,上司がよく指導してくれない,或いは指導できない上司が増えてきている。これは,昨今ヒエラルキー型(階層型)の構造になった組織が少なくなる傾向にあり,フラットな組織が流行っている。これは重層な構造でなく,意志決定が速いと云ったメリットなどがあるが,その一方で上司がそのときによって変わることで十分な部下指導ができていないことが良くある。つまり,きっちり指導してくれる上司が少なくなって,自分でじっくり考える機会を与えてくれる人が居ない状態で,思考停止状態になってしまっている若い人が多いのである。

上司なので仕事の指示はするが,部下指導と云った面は殆どできていない。いや関心そのものがない上司が増えてしまっているのかも知れない。上司の仕事の重要な役割の一つが部下指導である。自分の代わりをする人物を育てることが大きな役割である。したがって,直面するいろいろな問題や課題に対して,ものの見方や考え方を教えたものである。インターネットなど情報が飛び交い,自ら求めれば機会は幾らでもあるが,直接指導を受けるのとは全然違う。質の面でも直接やりとりするので,非常に質の高い教育である。

考える前提として,先ずは教えることである。学生時代,小学生に始まって中学校,高等学校とやはり始めは教わることからスタートしている。社会人生活でも,最初は先輩・上司から教わることから始まる。もちろん,学生時代とは違った社会人としての考え方を学ぶ。その仕事の基本はPDCAであり,プランすること,即ち,どうしようか計画を練ることから始まる。ここでも,じっくり考えることが求められる。計画したことがその通りできたかどうか,きっちりフォローして,その結果を元に次のアクションを考えることになる。こうした基本のサイクルがなかなか回せない人が居る。こうした人は仕事のやり方も拙いことが多く,上手く行かないことが多い。これも良き指導者が居るか居ないかの違いである。

最近,派遣で仕事をしている連中と一緒に仕事をすることが多い。そうして若い人を見ていると,じっくり考えようとする人が少ない。それには,殆どと云って良き指導者が見当たらない。殆どがこれまでに身に付けてきたスキルの切り売りで,じっくり考えながら自己成長を図ろうとしている人を殆ど見かけない。特に,派遣会社などインターネットでは,教育・研修が充実して自己成長が図れるイメージを出しているが,その通りきっちり教育がなされているケースは殆ど少ない。日々の仕事に追われて,良き指導者にも恵まれず,あくせく仕事をさせられているのが実態である。

そうした実情は,リーダ自身が考える余裕が無くなっており,本来「考える」見本となるべきリーダがこのようなやっつけ仕事を中心にやっている始末だからしようがないとも言える。リーダの行動は,部下へ伝達されることが多い。つまり,考えないリーダの下では,考えない部下が育ってしまうことになる

  4.狭い見識でしか考えない

若い人が考える範囲は,通常は極めて狭い見識である。経験が無く,十分な指導もされていないとあれば仕方ないことである。一般社員はどうしても目先のことが一番気になり,それ以上の考えに及ばないことが多い。つまり,近視眼的な状態でしかない。むしろ,今日,明日のことだけでも精一杯と云うところである。つまり,先々のことを考える余裕もなく,目の前に見えたことをやるだけで十分な仕事量である。近視眼的にならざるを得ない環境におかれている。

若い人に良く言い聞かせることであるが,一段上の上司の立場で物事を考えてみなさい,そうすれば見えていないものが見えてくるようになる,と。しかし,実際には,なかなかこれができないのである。この視座を高めることは,簡単に一朝一夕にはできないもので,やはり日頃からの訓練が必要である。一番てっとり速いのは,上司の代行をさせることである。そうすると,強制的に上司の役割を果たさなければならなくなる。そこで,気づくことが一杯出てくる。これが狭い見識から少しは抜け出す方法である。

最近に傾向に自己中心的な人が増えている。自分さえよければ,他人のことは一向に気にしないタイプの人である。こうした人も考えることに於いては偏っていることが多い。お互いに仲間を支え合うことが苦手なので,どうしても自分勝手で仲間のことを思いやる気持ちが少ない。そこでは,やはり考えが自分中心になり,非常に狭い見識での判断が行われる。思考停止状態と大きく変わらない状態がそこにある。

 (続く)

あなたの良き指導者は居ますか?

視座を高める努力をしていますか?

 

[Reported by H.Nishimura 2010.11.22]


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