■なぜ,考えることができないのか?(思考力不全) 7 (No.195)
最後に,「個人」に於ける思考力不全を考えてみることにする。
【個人】
1.知識・スキルが不足している
仕事に忙しいとついついその状態に流されてしまう。余程意志の強い人でない限り為すがままの状態になってしまう。元々知識が少ない上に,さらに忙しさに負けて勉強しようともしないので,益々知識が乏しい状態になってしまう。そうなると,さらに考えようとする機会が減ってしまう。こうした悪循環を繰り返していることがよくある。
また,普段の仕事でじっくり考えていなければ仕事が進まないと云うケースは希で,殆どの仕事が考えなくてもできる仕事である。そう云う状態であると,考えて何かしようとする向上心そのものが萎えてきてしまう。周りを見渡すとそういった人が多いことに気づく。でも普通は,学ぶ姿勢さえあれば,いろいろな場面で考えさせられ,学ぶチャンスが幾らでもある。それを自らが潰してしまっている人が殆どなのである。
一日のうちで,じっくり考える時間がどれだけ取れているだろうか?たぶん,殆どの人が1時間も取れていないだろう。いや,30分も取っている人さえ少ないのではないかと感じている。もちろん,活字離れしていて,書籍を読もうとする機会さえ少ないように思える。我々の知識・スキルは,じっくり考え,学ぼうとするところからできあがってくる。しかし,そうした機会がそもそも少ない,或いは無い状態にあっては,望む方が無理なのかも知れない。
学生時代は授業を受ける機会があり,それらを通じて知識が得られていた。しかし,社会人になると,きっちりした授業のような座学で学ぶことは殆ど少なくなり,日頃の仕事の中で学ぶことが大半になってくる。そうなると,仕事の中で如何にして学べるかによって,得られる知識が違ってくる。さらに,疑問を投げかけ,考え,解明することで知識が豊富になっていく。そのことが,さらには次のことを考えさせる,と云った循環で廻っている。この良い循環が廻っていればよいが,往々にして,知識・スキルの不足から,こうした良い循環が廻ることなく,思考停止状態に陥っているケースが見受けられる。
また,仕事は通常,少しストレッチした状態の仕事をすることで,その人の成長が見込まれる。つまり,知識・スキルが100%でなくとも,新しい仕事にチャレンジすることは通常一般に行われることである。しかし,このストレッチ状態がなかなかほどよい加減が難しい。ストレッチし過ぎた状態を求められ,それが続くとギブアップしてしまう。つまり,限界を超えた状態になってしまい,ここでも思考停止状態になってしまうことがある。この状態にさせるのは,個人の責任だけではなく,上司の責任も多分にある。しかし,双方がストレッチの状態を話し合うことでその状態が把握できるが,コミュニケーションが不十分だと適切なストレッチ状態で無いことが起こってしまう。
2.情報が不足している
元々考えることは,ある程度情報があって初めてできるものであり,情報が全く無い,或いは,大いに不足している状況下では,考えが及ばない場合が多い。これは,考えようとしても,その基礎となるデータそのものがなく,考えることができない状態である。特に,若い人は社会人になっての知識そのものが少ない。だから自分で考えるよりも教わることが多い。これは当然のことである。しかし,教わったことを着実に自分の知識として蓄え,情報の引き出しを作っておくと,同じようなことはその引き出しの知識を基に考えることができる。
また一方で,考えようとしないから情報がなかなか集まらないと云ったケースもあり,考えようとしない人の周りは情報が不足していることが多い。つまり,考えようとすると何か経験したことを基に思考回路が働く。ところが普段から考えようとしないからそうしたベースになる情報が揃っていない。そのため一から情報を集めようとするとなかなか大変なことになってしまい途中で諦めてしまうことになってしまう。やはり普段から物事に関心を持って当たることによって,情報量は増え,しかも自分にとって必要な情報が整理されることになる。
昨今は情報は求めようとすれば,いろいろなところから収集できる,むしろ,情報過多と云ったことも多い。昔は仕事上でのやり取りは,直接話すか,電話などお互いの時間の制約もあって情報が限られていた。ところが,メールでのやり取りが仕事上で行われ出し,今ではメールを見たり,メールの処理をすることが仕事の何割かを占める状態になってきている。また,インターネットも便利で,何か必要な情報を探そうとすれば,極めて容易に情報を得られるようになっている。このように昨今はむしろ情報が氾濫していて,余りの多さに整理ができない状態で,考えが整理できない状態に陥っていることもある。本来の姿は必要な情報を,必要なときに集められることが重要であり,こうした整理ができていない状態では,本人にとっては情報不足状態と変わらないことになっている。
また違った角度からでは,書籍を読むことをしない人でも,インターネットが利用できるので大丈夫だと思っているようだが,決してそうではない。本を読まないことは情報整理を自分の頭の中ですることが苦手で,他で整理された情報を使っている。ある意味では効率的な有効な手段ではあるが,最終的には自分の頭で考えることが必要で,これができない状態になっているようでは思考停止した状態に近いと言ってもよい。要するに,いろいろな情報から自分の頭で整理して自分の考えをまとめることができることが必要で,それができないと何かにつけて他人に依存しなくてはならなくなる。これでは一人前に人間とは云えない。
情報不足は,考える論点のズレを起こさせる。議論するには論点が必要で,その考えるポイントがずれていると議論が噛みあわない。また,論点があるから情報もそれに関するものが集まってくるのである。したがって,論点が定まっていないと重要な情報が集まらず,頭の中で整理しようとしてもできなくなり,思考停止状態に陥ってしまうことになる。即ち,考える基となる論点が整理できないと,当然考えがまとまらず,考えることができない状態になってしまうことを意味している。
(続く)
知識・スキル不足では考えることができない
情報も重要で,情報不足は思考停止を招く危険性が高い
[Reported by H.Nishimura 2010.11.15]
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