■プロセスの改革 3 (No.184)
プロセスの改革について,さらに話を続ける。
改革の推進体制は
プロセス改革の準備(目的,シナリオ,コンサルタントの導入など)が揃ったら,具体的な推進体制を構築しなければ前に進まない。改革をやろうと云う思いの精神的な部分だけでは進まない。改革をするためにリソースをきっちり確保しなければならない。このとき必要なのが,トップからの支援である。プロジェクトチームで運営するのか,新しく組織を作って改革推進室のような形で進めるか,会社の規模やおかれた状況によって違うが,明らかに見える形での改革の推進体制が不可欠であることには違いない。
推進体制のバックには,トップ(幹部)の支援が常に十分か,どうかが大きくものを云う。そのためにも,トップ(幹部)には十分な改革推進に対する理解を得ておくことが重要で,トップ(幹部)の理解が不十分だと,景気の変動にすぐ左右されたり,仕事の忙しさに改革の優先度が下がったりと,改革が途中で頓挫してしまうリスクがある。
また,プロセス改革をやろうとするのだから,自社内にこの改革を一番重要な仕事とする実質的な推進リーダが存在しているかどうかも改革の成否に大きく影響する。窓口的な事務をこなす事務局的な存在の人では,到底改革はなかなか進まない。実質的に,改革の先頭に立って旗を振って,実行するリーダが確実に必要である。
できればプロセス改革をやろうと言い出した人なり,プロセス改革に情熱を傾けられる人が,この推進リーダとなることが望ましい。つまり,自分のやりたいことが明確であるリーダであれば,いろいろな難局にぶつかっても,目指す目標があれば,何とか乗り越えてやろうとする熱意が違う。こうしたリーダの言動に周囲も動かされることになるので,改革が前に転ぶ。優秀なリーダでも,改革に情熱が少ないと,自分の立場の有利,不利で簡単に判断してしまう危険性がある。こうした改革に最も必要なのは情熱である。
このような情熱を持ったリーダには,周囲の目も違う。プロセスを改革しようとするのだから,自分たちだけではできない。当然,多くの関連部門を巻き込んで,推進しなければならない。そうした協力体制を上手く作って行くのも,推進リーダの役割である。同じプロセス改革をやるにも,推進リーダの情熱の大きさが,改革の推進速度に比例するように思える。
推進上での問題点と解決策
プロセスを改革することは,今までと違ったやり方をすることになるので,いろいろな問題点が出てくる。
その先ず第一は,プロセスを改革する意識が十分末端まで浸透するには時間が掛かることである。推進をするメンバーは,背景・目的など明確になって推進しているつもりでも,実際にプロセスを廻す設計者などは,今までと違ったやり方をしようとすることに戸惑いを感じるのは当然のことである。改革の目的が,なかなか容易に設計者に腹落ちしないのである。一生懸命,推進の旗振りをしても,肝心の設計者がなかなか動いてくれないことがある。改革の意識の浸透は,辛抱強く繰り返し,繰り返し行うことで,徐々に進んで行くことが多い。軌道に乗るまでが大変なのである。
次の問題は,改革をやろうとすると,それのリソースが新たに必要である。推進するリーダや事務局はそれに専念できても,設計者は今までどおり設計業務が主体で,改革の活動は付け足しになることが殆どである。したがって,改革に向けた新たなリソースの捻出が必要だが,なかなか容易に捻出ができず,結果的に改革に向けたリソースが不足することになってしまう。こうなると,意欲はあっても,実働が伴わなく,前に進まなくなってしまう。この問題は,担当者ベースでは解決できない。新たなリソース確保は,責任者の役割で,責任者がプロセスの改革にどれだけリソースを割こうとするかどうかに掛かってくる。
また,厄介な問題の一つに反対派の存在がある。大小はあっても,必ず改革には反対派が付き物である。つまり,現状維持が最も楽な方法であることは誰しも同じで,新たな改革をやろうとすると,エネルギーが必要で,その改革の目的が十分腹落ちしない人や,真っ向から反対の人が必ず出てくる。こうした人たちを無視して改革は進まないので,協力要請をすることになる。腹落ちしていない人には根気よく改革のメリットを認識してもらうことが必要で,地道な努力しかない。また,真っ向から反対する人は,説明などで納得しない人が多い。こうした人には,周囲から囲んで周りすべての人が改革に参画しようとしているようにして,しぶしぶでもやらざるを得ないようにするなど,その人の特徴を捉えたやり方で対応するしかない。
大きな改革をやろうとすれば,その大きさに比例した困難がつき物である。その困難な壁が大きければ,その壁にぶち当たって立ち止まってしまうことも多い。改革がなかなか思い通りに進まないのは,こうした壁が立ちはだかるからである。壁にぶち当たってから検討を始めるのではなく,改革のシナリオが必要と前述したが,シナリオを考えることは,マイルストーンを設定して,小さな成功を着実に重ねて大きな目標に到達することで,このシナリオが予めあることで,ある程度の壁が予測でき,壁ができても大きな壁でなく,乗り越えられる壁であることも多い。改革は結果として大きな変化になるが,進めているプロセスでは小さな変化を繰り返し,着実に前に進むことで成し遂げられるのである。
また,改革が少し進んでくる状態が見えてくると当然ながら協力者も増えてくる。この少し進むまでの苦労が一番大変なのである。ある意味,この苦労を乗り越えることが改革の醍醐味でもある。つまり,一つのプロセスを改革すると言う大きな意思を持った者が,その実現に向けて,演出者として仲間を鼓舞激励しながら立ち向かうドラマであり,こうした苦労を買って出る前向きな気持ちが必要である。自らが考えた,或いは思いついたプロセスの改革に一度はチャレンジする気概を持って欲しいものである。こうした開拓者精神を持った者が是非出てきて欲しいものである。
(続く)
プロセスの改革は容易ではない
[Reported by H.Nishimura 2010.08.30]
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