■規程・基準を遵守する意味 (No.180)
会社組織には,いろいろな規程(規定),基準などがあり,それらを遵守することで成り立っている。全社規程や行動基準,職務分掌などは,それほど変わることは無いが,新製品開発規程やプロジェクト管理基準など,各々の特徴に合わせ,或いはなかなか遵守するには困難なことが多いなど,機会あるごとに見直しがなされている。規程・基準に関することで,事実あった事例を紹介する。
具体的な事例
デザインレビューに関するもので,一般的にデザインレビューは,設計が上手く進んでいるかどうかを,決められたタイミングでチェックすることによって,大きな遅れが発生しないように決められた設計レベルになっているか,或いは,設計漏れ,抜けなどがないかなど,組織として衆知の目でチェックするものである。したがって,デザインレビューのタイミングまでに,実施されていなければならないことが取り決められていて,審査でその内容が一定レベル以上のものかどうかをチェックする。
リーダはこうした開発プロセスをきっちり遵守することで,プロジェクトのQCDが担保されるようになっている。また,いろいろな失敗事例から,こうしたチェックポイントで確認すべきことが追加されている。通常,きっちりした開発プロセスのある組織では,こうした仕組みができあがっていて,リーダは必ず遵守しながら開発を進める。また,こうしたプロセスがきっちり行われているかどうかを監視する部門もある。
こうしたきっちりした開発プロセスを持っていても,リーダがデザインレビューのチェック内容ばかり気にして,そのチェック内容に満足できるまで日程を延ばそうとする場合がある。それが1−2W程度ならば判るが,2−3カ月も当然のように遅らせることがある。理由を聞くとデザインレビューでチェックされる内容を完全に満たすにはそれだけ遅らさないと満足できないと云う。デザインレビューは確かに,一定基準レベルの設計ができていることを求めている。しかし,目的は適切なタイミングで一定レベルの設計基準を求めているのであって,基準を満たしたときに実施すれば良いと云うものではない。
計画段階の実施状況がどうかをチェックするデザインレビューが,基準を満たさないから設計も終盤になって評価が始まろうとする段階で,計画段階の基準をやっと満たしたからデザインレビューをします,と云う事態が起こる。何のための計画段階のチェックか,全く本来の目的を見失ってしまっている。しかし笑い事ではない。真剣にそうした態度を示すリーダが居るのである。
なぜ,このような考え方になるかと考えると,規程・基準でドキュメント化された文言だけに縛られて,本来のデザインレビューの目的が忘れられてしまっているからである。だから,ドキュメントで示された基準が絶対的になり,本来の目的から逸脱していることに気づかない。また,単純なプロセスを前提に基準が設けられているが,実際にはリソースの関係などで,きっちり単純なプロセスではなく,できた部分から次のプロセスへ入ることは当たり前で,計画段階と設計段階,さらには評価段階が複雑に絡み合う。そうした状況下では,平気でデザインレビューの基準を満たしていないから日程を遅らせます,と云う。決められたことを守らないのは良くないが,守ることが目的化して,本来の目的を見失ってしまうのも良くないことである。
遵守する意味
新製品管理規程やプロジェクト管理基準,デザインレビュー基準など開発者が日頃からよく使っている規程・基準があり,それらには一定の決まりが定められている。これは,新製品開発のプロセスの中で,最低限遵守すべきことが記載されている。もちろん,その目的も記載されている。開発リーダであれば誰もが遵守すべきことである。
もちろん,デザインレビューのタイミングで審査すべき事項が明確に決められている。そのタイミングにおいて,記載された審議事項ができていないと,プロジェクト全体のQCDが守れないリスクがあるからで,リーダは遵守すべく努力が必要である。しかし,プロジェクトは経験者なら判るが,なかなか計画通りに進まず,しばしば遅延する。また,プロセスも単純ではなく,複雑である。
だからこそ,規程・基準のドキュメント化された部分を厳密に守ることを目的化してしまうと,本来デザインレビューとして守るべき目的と乖離した現象が出てしまう。遵守すべきことは,あくまでも規程・基準が狙っている目的である。ドキュメント化された基準が守れない事態が多発するようであれば,本来の目的に照らして変更すれば良いのである。
一般的な規格・基準は5年毎の見直し
一般的な基準,ISO規格などは5年毎に見直しされている。それは,時代の流れや運用する際の不都合,或いは基準の欠陥など規格・基準がそのまま永久に使われることは少なく,その時のベストな状態に見直しされることになっている。また,新たな規格・基準が作られることもある。こうしたことは,時代に沿った形にと云う意味合いが強いが,形骸化することを防止する意味合いもある。
つまり,規程・基準と云ったものは会社のルールであって,それはしかるべき背景があって定められた物である。問題は,この背景や本来の狙いが時代と共に形骸化してしまうことである。特に,世代が代わるとなかなかこの基準が決められた背景など伝承されないことである。
規程・基準はその目的を十分理解した上で遵守することにしよう。
[Reported by H.Nishimura 2010.08.02]
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