■展示会における新しいやり方 3 (No.168)

それでは,皆さんが考えておられる生産性向上とはどんなものか,どんな狙いなのかを考えてみる。

  開発プロジェクトを成功させたい

昨今では,開発プロジェクトの成否が会社存続に大きく影響すると言っても過言でない。つまり,開発プロジェクトには多額のコストが掛かる。以前は,多少競合に負けても方向が同じなので,多少先を越された分利益が少なくなる程度の差だった。ところが,方向性が一定でない,つまり向かっている方向が各社によって違う開発プロジェクトでは,成功するか否かで,一かゼロと云う差が出ることさえある。だから,開発プロジェクトの成否は非常に重要なので,成功させたい思いは以前より強く,大きくなっている。

また,こうした背景から全社的にも開発プロジェクトに注目が集まり,特にプロセスに焦点が当たってきている。つまり,開発プロジェクトは決められたプロセスに則って実行される。プロセスの善し悪しで品質が決まり,それで顧客満足度も違ってくる。ソフトウェアの開発プロセスは,ハードウェアのそれと比較すると,まだまだ遅れている。したがって,何とか開発プロセスを確実に実行できるようにと各社必死である。CMMIなどソフトウェアのプロセスの基準が作られ,その基準を満足できるプロセスを目指している。

組織で仕事をすることは当然だが,開発プロジェクトとして仕事をする機会が多くなってきている。ところが,なかなか開発プロジェクトが当初計画通りの終わらないジレンマがある。つまり,計画通りにプロジェクトを成功させることが如何に難しいことか,こうした悩みがアンケートに現れている。

また,昨今のソフトウェアでは派遣や請負で委託した仕事の進め方は日常茶飯事である。したがって,従来の社員でのプロジェクトの進め方と,委託先に依頼した仕事のやり方では自ずと違ってくる。その差を少なくするため,社員と変わらないように構内に請負を入れて,直接指示はしないものの,開発の状況が手に取るように判った状態での開発が行われている。開発プロジェクトを成功させたいとの思いには,こうした委託先を上手く活用することも含まれている。

  若い世代が主体で,技術が第一で,生産性は二の次に

ソフトウェアの開発は,主体が若い世代である。30代後半にもなれば,リーダになって活躍されている場合が多い。こうした若い世代の開発にみられる特徴であるが,どうしても新しい技術に目が向けられる。自分の技術力を上げたい,スキルを他人よりも上げたい,など技術レベルの向上に関心が行く。ところが,こうした若いリーダは経営的な面には弱い。と云うより関心が薄い。

しかし,デザインレビューなど,開発プロセスでのチェックで上司から要求されるのは,QCDである。品質をやかましく言われるのは,顧客にとって一番重要なのが品質レベルだからである。品質がそこそこ確保されるプロジェクトになると,次は生産性向上など,如何に効率よく開発が行われているかどうか,である。トップ(経営層)からの要求は経営面で,技術面の内容は任せたと云った場合が多い。

ところが,経営面の知識が乏しいことと,関心が薄いので,どうしても弱味が出て,追求されやすくなってしまっている。このトップ(経営層)との考え方のギャップがなかなか埋まらない。いつも上から言われていると云う印象があり,なかなか実行できていないので悩みのタネになってしまっている。何とか脱却したい願望が強く,これがアンケートに現れている。

  仕事の効率を上げたい

生産性向上と云う前に,単に仕事の効率を上げたいと思っている人も多い。言葉として,仕事の効率を上げるよりも,生産性向上と云う言葉の響きの方がスマートである。生産性を如何に上げるかを考えることは,基本は個々の仕事の効率を上げることである。これは間違いではない。また,誰しも,仕事をしている人が願う最初の要求である。

ただ,自分の効率を上げることだけに集中し過ぎると,部分最適だけで,全体最適にならないことがある。仕事の効率を単に上げたいと考えている人はそこまで考えていない。しかし,リーダやサブリーダになる人は,全体最適かどうかについて,よく考えて指示することが必要で,個々の効率より,ボトルネックがどこにあって,その部分の効率を上げることを,他の工程よりも優先させることの方が重要なのである。

(続く)

 

生産性向上はいろいろな思いが凝集されています

 

[Reported by H.Nishimura 2010.05.10]


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