■事業計画について 4 (No.161)
事業戦略について述べたが,そもそも戦略とはどのように考えるかについて述べておく。
「戦略」と云う言葉自体よく使われるが,その考え方,使い方,その種類などはいろいろな書籍が出ているので,それに譲るとして,ごく基本的な考え方だけを以下に述べて,事業計画を検討するときに参考にしていただきたい。
戦略を重要とする背景
事業計画は,会社の「目指す姿」を求めて行く活動である。だから,まず「目指す姿」をしっかり見据えて,そこへどのようにして辿り着くかを検討しなければならない。そのためには,個々のことより,全体把握をして作戦を練ることになる。なぜならば,個々の細々したことを考えると,そこにいろいろな問題点や課題があって,それらは結構やらねばならないことが多く,それに時間を費やすことになってしまう。それでは「目指す姿」にいつまで経っても到達しない。決してムダなことでは無いのだけれども,限られた時間の中で,如何に効率よく「目指す姿」に到達するかと云う視点では十分とは云えない。
それよりも,先ず全体の状況を把握して,自分たちの今居る現状をしっかり認識して,それと「目指す姿」のギャップがどの位あるかを確かめる。そうすると,かなり大きなギャップがあることが判る。それは,自分たちが日頃考えていたことよりも改めて考えると,より大きなギャップであったり,より小さなギャップであるかも知れないが,そのギャップをきっちり認識することが重要であり,そのギャップを克服していくために,どんなシナリオ,どんなストーリーで,その「目指す姿」へ到達しようとするのかを導き出すことが求められることになる。このシナリオ,ストーリーに沿った活動が事業計画である。
こうしたシナリオ,ストーリーを考え出すことは戦略を考えることに外ならない。
戦略の基本的な考え方
「経営戦略の論理」(伊丹敬之 著 日本経済新聞社)の中で,戦略の定義を以下のように示されている。
基礎的な戦略の定義:「市場の中の組織としての活動の長期的な基本設計図」
「市場の中」 :経営戦略は,市場の中での企業の行動や意志決定の基本的指針になるべき。
「組織としての」:企業の行動は,組織という人間集団によって実行される。
「活動」 :戦略は市場の中での現実の活動の指針となるべきもの。
「長期的」 :戦略は長期的な展望を与えようとするもので,短期の目先の現象にとらわれてはならない。
「基本設計図」:戦略は,企業の具体的な活動を作り上げていくための設計図。「こうなりたい」と云う意志や構想,そしてそうなるためのシナリオ,その両方が不可欠。
戦術や具体的施策との違い
「戦略」と云う言葉と同様に「戦術」と云う言葉も用いられる。「戦略」が大局的見地に立った作戦,シナリオに対して,局地的な,部分での作戦を「戦術」,或いは戦略をより具体化したものを「戦術」とも云われている。事業計画で云えば,全社的な「目指す姿」に向けたシナリオが「戦略」に相当し,各部門の戦略は即ち,全社的にみれば「戦術」になると見ればよい。
つまり,トップダウンで下りてくる全社的な「戦略」と,各部門で練られるボトムアップ的な戦略,即ち「戦術」との両者が一致した形で作られるのが事業戦略となって全体の活動の方針に作り上げられることになる。組織の規模やこれまでの会社のやり方など各社様々な形態はあるが,事業戦略としてまとまったもので進められることが最も重要なことで,これが社員全体のバックボーンになることである。これを具体的な目標値や活動内容に落とし込まれて,事業計画として出来上がる。
戦略の作り方
戦略は,通常次のような形で立案される。
- いまどこにいるのか?(現状分析:SWOTなど)
- どこへ向かうべきか?(ポジショニングなど)
- どうやってそこへ辿り着くか?
「戦略」と云う言葉は,「戦略思考」などと云った流行の言葉ではあるが,実際に考えることは容易なことではない。特に,日頃,目の前の問題や課題に忙殺されている人にとって,「戦略思考」は言葉では理解できても,容易に事業戦略が作れるかと云うとそう簡単なものではない。常日頃から全体把握を訓練され,現状分析をきっちりできていて初めて可能なことである。しかし,一番大切なことである。したがって,せめて事業計画作成の時期には,全体把握の視点で一年を反省し,振り返り,現状を正しく見つめ直す絶好の機会として捉えるべきである。
こうした事業計画のサイクルがきっちり廻っているかいないかでは,会社の成長並びに個人の成長にとっても大きな違いとなって現れることは間違いない。是非,戦略を学び,事業戦略を検討して事業計画を立て,それを基に活動展開してみようではないか。
参考文献
「経営戦略の論理」 伊丹敬之 著 日本経済新聞社
「戦略とは何か」 コーネリス・A・デ・クルイヴァー,ジョン・A・ピアースU世 著 東洋経済新報社
あなたの会社の事業戦略は立っていますか?
それが事業計画に落とし込まれ,さらにはあなた個人の事業計画になっていますか?
[Reported by H.Nishimura 2010.03.22]
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