■事業計画について 3 (No.160)

  D事業戦略:「目指す姿」をどのように実現させるのか,その戦略とシナリオ

これまで事業計画の形式部分を中心に述べたが,事業計画で最も重要な部分は,この事業戦略の部分である。これがしっかりできていないと,いくら目標値を明確にして進めても,組織の総力が上手く結集することが難しく,目標達成も困難な結果となる。全員が力を合わせ頑張れば成果が出た高度成長期と違って,昨今はどちらに向かって進むか,その戦略次第で結果が大きく違ってくる時代である。したがって,この事業戦略を立てる部分に時間を割き,組織の中で最も優秀とされる頭脳を活用するべきである。

実際には,組織の中の社長や幹部を補佐する組織,名称は企画部門だったり,社長室だったり,いろいろな名称が存在するが,社長や幹部に代わって,会社の「目指す姿」に向けて事業をどのように展開するかを調査・分析し,企画する部署で,年齢はともかく少数精鋭が集っていることが必須要件である。こうした部署が,真剣に戦略的に頭を使わないと,事業計画が年中行事の一環の一連の作業で片付けられてしまうことになり,折角事業計画を立てながら,中身の薄い内容になってしまい兼ねない。事実,社長や幹部が意識して,きっちりとした指示を出さないと事業計画がイベントで終わってしまうことが多い。

しかし,一言で事業戦略と云うが,なかなかこれを作り上げることは簡単なことではない。だから,こうした頭脳集団が欠落している企業では,コンサルタントなど経験豊かな頭脳を活用することが行われている。確かに,コンサルタントはいろいろな企業の経験知としてのデータベースがあり,いろいろな面でサポートはしてくれるもののやはり最終的な判断は自分たちでやらなければならない。コンサルタントがサポートしてくれる戦略シナリオの中から,自分たちに最適なシナリオを選び出さなければならない。その結果に対するサポートまでしてくれるコンサルタントは少ない。

企画などの部門に居る方は「戦略」と云う言葉にそれほど違和感を感じないが,普通一般の人,即ち,事業計画を立てる多くの人は「戦略」と云う言葉は知っていても,いざ自分で考えるとなると戸惑うことが多い。つまり,日頃からこうした考え方をしていないので,事業計画だから戦略を考えて立案をと云われても,取っ付き難いのが正直なところだろう。何か「戦略」と云う言葉だけで仰々しさを感じるのではないだろうか。「戦略」については,詳しくは後述することにして,簡単な考え方として,現状ある姿から目指す姿に向かって,どのようなやり方(シナリオ)で到達しようとするか,を考えることである。これらを,部門毎の個別で検討してみる。

   ○営業・販売戦略

先ず,営業にとって重要なのは,「どんな顧客に,何を,どれだけ,どのように売る(サービスする)か」である。これを明確に描くことが,営業戦略であるが,可能性が無限大ある中で,如何に効率よく目指す姿を実現させるかを考えることは容易なことではない。従って,現状どうなっているかをきっちり把握することになる。そうすると,顧客には「既存顧客」と「新規顧客」に分かれ,市場でも「既存市場」と「新規市場」に分かれ,同じように商品分野でも,既存と新規がある。明らかに,既存に対する攻め方と新規に対する攻め方は違う。

販売目標が全社的な目標から下りてくるか,販売戦略の中で検討したまとめとして目標数値となるか,違いはあるが,如何にして販売目標の数値を達成させようとするかを検討するのが販売戦略である。

営業・販売戦略には,次のフレームワークがよく使われる。

3C 市場・顧客(customer) 顕在・潜在顧客の購買意思や能力を把握。
分析の視点:市場の規模・成長性,各セグメントのニーズ,購買過程 など
競合  (competitor) 潜在・顕在している競争状況や競争他社について把握。
分析の視点:競合相手の数(寡占度合い),製品・サービスの特性,
    競合他社の強み弱み(生産・販売・財務・技術開発などに関する能力等)・経営資源 など
自社   (company) 自社の経営資源や企業活動についての現状を把握。
分析の視点:自社の商品特性,技術力,販売力,組織・人材といった社内資源と,
      売上,シェア,利益率,市場での地位 など
4P 製品(Product) 品質,デザイン,基本性能,パッケージング,ブランド,サービス など
価格(Price) 標準価格,小売価格,卸価格,アローワンス,取引条件など全ての取引価格 など
流通(Place) 店舗の立地,在庫,配送,チャネル など流通ネットワークに関する要素
プロモーション(Promotion) 広告,様々な販売促進活動,パブリシティ など

○商品戦略

商品戦略は,どのような商品をどのような方法で販売に結びつけようとするかである。

つまり,商品としてランチェスター戦略で云う強者の戦略(同質化戦略)か,弱者の戦略(差別化戦略)を取るかで大きく分かれる。商品そのものはライフサイクルがあり,その商品がどの時期(導入・成長・成熟・衰退)にあるかを見極めることが必要である。

多くの商品を扱う場合,各々の商品群がプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)のどのフェーズなのかを見極め,如何に資源を効率よく廻すかを考えることが重要になってくる。

  低い  ←   市場占有率   →  高い
 高い

 ↑

成長率

 ↓

 低い

問題児

導入期・成長期にある製品。成長を促し花形にするために大きな投資が必要な製品              

花形商品

成長率・占有率共に高いため,多くの収入が見込める製品。しかし,市場が成長している場合,シェアの拡大・確保のため,それなりの投資を行う必要がある。

負け犬

成長率・占有率共に低いため,撤退などの検討が必要になってくる製品。                    

金のなる木

成長率が低いため,大きな投資は必要のない製品。しかし,ある程度の市場シェアを確保しているため,安定的利益が見込める製品。

○技術戦略

技術戦略は一番範囲が広く,且つ時間を要する内容であり,中長期戦略で考えられ,どのような商品展開及び要素技術展開をしていくか,これらを一纏めにした商品・技術ロードマップなるものを検討される場合が多い。つまり,商品展開がある程度見えている場合などは,その商品の技術のコアとなる要素技術をどのように先行して開発して行くかであり,また逆のケースで,コアとなる要素技術から,どのような商品展開に持ち込むかと云ったプロダクトアウト的な場合もある。

この技術戦略こそ1年の事業計画だけで完了するものは少なく,2,3年,長くは5年以上かけて開発されるものもあり,そのための商品・技術ロードマップづくりが重要で,技術戦略の基となるものである。技術戦略だから技術者が作るのには違いないが,技術者だけで戦略を考えると,どうしても市場から離れ,プロダクトアウト的なものに終始する傾きになりやすい。技術といえども,顧客があり市場があるのだから,顧客・市場の情報,業界の動向など,商品企画部門や,営業企画部門など名称はともかく,こうした情報を持っている人の参画は必須である。

商品戦略と技術戦略はお互いに連携することが多くあり,その方向性が一致していることは不可欠である。技術戦略では,商品戦略に基づいて,技術のリソース配分を考え,期待される技術開発を行うことになる。つまり,商品ニーズに対して技術シーズを上手くミックスさせるところに新製品が創出されることになる。もちろん,技術シーズから新たな商品ニーズを生み出す場合もある。

○海外戦略

輸出が多い企業や,海外会社がある企業にとっては,海外戦略が重要な戦略になる。これは日本市場とは異なった市場・環境があり,日本での商品戦略や技術戦略だけでは十分とは言えないものがあり,海外戦略として別途検討されることが多い。特に,市場・顧客情報は重要であり,そこから新たな商品市場が拓ける場合も多い。

また,海外会社がある場合,海外会社自身でもちろん事業計画が作られるのが殆どであるが,日本の本社として,グローバル事業としてどのように展開するかは,海外会社ではなく,日本本社の海外戦略として検討される。安い労働力と云うのはだんだん地域が移っており,単に安い賃金を求めるだけでは限界がある。海外会社をどのようなポジションにするかなど,本社の戦略として検討されることが多い。

海外戦略は大企業だけではない。これだけグローバル化した社会では,どの企業,例え小さな企業であっても,海外戦略を考えなければならない機会はどんどん増えている。

○その他:品質保証戦略,知財戦略,共栄会社戦略,購買戦略,人材育成・教育戦略

その他,戦略は各部門が検討する。会社としての戦略があるので,これら各部門の戦略は,会社としては戦術として扱われることが多い。しかし,戦略を考えることは,各部門にとっても重要なことである。なぜならば,「目指す姿」など将来を論じるのは,この機会しか無いからである。我々は,会社の中の一員であり,将来がどのようになるかは非常に高い関心事である。それを論じあう機会が事業計画でできるからである。

(続く)

事業戦略をあまり難しく考えないでおこう

自分たちの将来が,「戦略」の中に組み込まれていることを知ろう

 

 

[Reported by H.Nishimura 2010.03.15]


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