■事業計画について 1 (No.158)

3月に入り年度末を迎えているところが多い。4月から新事業年度に入るので,大企業では殆どが新年度の事業計画が出来上がった時期だろう。或いは中小企業では,まだ途中段階,或いはこれからというところもあるだろう。この事業計画について考えてみる。

  事業計画の意義

入社以来,大企業に勤めている方は,極めて自然の流れの中で,毎年事業計画を策定して,それに則って仕事を進めることに何の違和感もなく,またことの重大性もそれほど気にせずにおられる方が多いと思う。或いは,事業計画と云えば予算の分捕り合戦ではないけれど,何かをしようとするとき予算があるか無いかは大きな違いなので,この事業計画段階で予算を取っておくことが後の行動を如何にスムーズに行えるか否かの分かれ目と感じている人もいるだろう。

身近な問題はそんなところかも知れないが,そもそも事業計画とは,会社組織としてビジョンや会社方針に謳われているような「目指す姿」を目指した企業活動の具体的な活動計画を示すもので,組織活動としての根幹をなすものである。つまり,会社組織活動が事業計画に則って行われることなのである。つまり,この事業計画の内容そのものが非常に重要であり,且つこれらの計画の実行度合いがどの程度できたのかが重要なのである。

こうした意識は若い内は,上から言われた計画をやらなければならないと云う義務感が殆どを占めており,中間責任者から幹部になるにつれて会社組織活動として如何に「目指す姿」に近づけるか,しかも社会・顧客と云う市場において競合他社との競争の中で,如何に戦うべきかを考えることになる。つまり,会社存続の大きな柱なのである。

このように言っても,中小の企業で事業計画なんて見たことも聞いたこともない。或いは,幹部が立てている計画で我々とは縁遠いものであると感じておられる方も多いのが事実である。計画などと悠長な考えは大企業では必要かもしれないが,中小ではそんなことよりも如何に日銭を稼ぎ,会社として利益を上げるかなのである,と言われる経営者もおられる。

また中小の企業では,目指す姿とは名ばかりで,誰もその目指す姿やビジョンを重要視して実行しようとはしていない,飾り程度のものでしかない場合もよくあることである。昨今ではホームページなど作成しているところが多いので,それを見る限りどんな立派な企業なのかと見間違えるが,中身が全く空っぽで人材教育など如何にも充実しているような人集めの見せ掛けだけの企業も多い。そんな企業では,事業計画と云う言葉さえ聞かれないこともある。

経験からすると,事業計画を重要視するか否かは企業の大小ではなく,会社組織活動をどのように考えておられるか,経営幹部の考え方次第ではないかとも感じている。小さな会社でも,起業したときの「目指す姿」が明確で,それに向けたシナリオ・戦略が定まっているところは,企業の大小に関わりなく事業計画に基づいた活動を展開されており,そうした企業の多くは着実に成果も上げられている。

また起業しようとしている人や,起業したばかりの人にとっての事業計画は,会社目的ややろうとしていることを知って貰う,或いは資金集めや協力者を募る上で非常に重要な位置付けになってくる。こうした場合の事業計画は具体的な計画と云うより,このような会社を目指したいと云うシナリオであることが多い。

  組織活動の基本

事業計画は組織活動の基本と述べたが,何が基本なのか,それについて考えてみる。

会社組織活動は人の集合体で行われる。したがって,一人ひとりが勝手に思い思いの行動を力一杯発揮したとしても,ベクトルがなかなか一致せず,組織活動としての総合力は発揮されない。つまり,複数の人間が関わる組織活動では,目指す姿や或いは方向付けが必ず必要になってくる。ワンマンの社長がおられ,すべてその人の采配で全員が活動している場合などは,社長の考えそのものが事業計画なのでそれで良いと云えばそれまでだが,それでも事業計画としてドキュメントめいたものがあるのと無いのでは成果は違ってくる。

通常,事業計画では,一般には事業年度に対して,こんなことを実現する,こんな成果を上げる,ついてはこんな予算でやりたい,と云ったINPUTとOUTPUTの関係を明確にさせることである。この計画を,社長又は経営幹部が,会社としての目指す姿と照らし合わせて合致しているか,そのタイミング・スピードは十分か,などを競合と比較しながら承認して事業活動をさせている。

大企業では,事業計画は通常,事業年度1年間の計画である。その事業計画の基になる,中長期計画(これも事業計画で,中期3〜5年,長期10年)と云うものがあって,目指す姿から中長期の戦略計画を予め検討しておき,それの具体的な実行計画を毎年立てると云ったやり方をされているところが多い。つまり,企業として目指す姿に達するには1年の短期的な事業計画では無理で,数年掛けて実行することが多くある。それらが,中長期計画として戦略的に描かれるからである。

もちろん,中長期計画になると社会・環境変化が伴うので,一度立てたらそのままではなく,当然,社会・環境変化に応じた計画に見直されることは云うまでもない。こうした中長期計画は,事業として連続性はもちろん,環境変化を先読みして事業構造を改革することもときには検討されることがある。製品にはライフサイクルがあり,こうしたライフサイクルを考慮して,次なる製品への投資をどのように進めるかも中長期の展望の中で検討される。こうした中長期の検討は,一事業部でなく全社もしくは大きな事業本部的な戦略的なシナリオを検討することが必要であり,大きな組織単位で以て進められるものである。

この中長期計画を具体的にこの1年何をどこまで進めるか,その投資は今年度としてどこまでやるかなど実行部隊が具体的に実行する目標を定め活動を展開することになるので,活動の展開の基本であるPDCAサイクルを廻すことになり,このP(プラン)の部分の大元を事業計画が受け持つことになる。これは組織単位で計画され,上は部門全体の計画,下は一個人の計画にまで落とし込まれ実行されることになる。つまり,この計画に盛り込まれないと,資金・リソースがつかないことになり,やろうと思ってもそのバックアップがないと云うことになるのである。

もちろん,環境変化など社会現象には変化が付きものなので,計画に無いから絶対にできないと云うものではないが,計画に無いことをやらなければならない事態になることは,そもそもそうした先読みができていない計画の拙さにもつながる。計画したことを着実に実行し成果を上げ,次のステップに進むことが組織活動の基本ステップである。PDCAのサイクルはこうした活動を繰り返しスパイラルにアップして企業として成長していくことを求めている。

(続く)

事業計画は立てられましたか?

やりたいことが計画に盛り込めましたか?

 

[Reported by H.Nishimura 2010.03.01]


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