■なぜ,行動(実行)できないのか 6(No.157)
これまでは主に,リーダや組織責任者の行動について述べたが,最後に,実務部隊である一般社員の行動について考えてみる。
【一般社員編】
●上司の判断がはっきりしない(やっても覆される可能性がある)
仕事は基本的には上司から指示されたことを遂行することである。しかし,全て一から十まで細かく指示されるのではなく,大きな目標,出来映え目標と期日,掛ける費用などの枠を決められ,それに基づいて自主的に実行し,定期的に進捗を報告する,と云うことが多い。ところが,実行して報告しても,反応がないこともある。それなら,そのまま続ければ済むが,分岐点にきていて,どちらに進むべきか悩むこともある。こうしたときに,全体を見て上司が判断するのが普通だが,どちらかへ進めと指示しない上司も居る。
もちろん,やっている本人がどちらにすべきと思うか意見を述べることは大切だが,判断は上司がすべきである。これがはっきりしないと,部下はどうやって良いか判らず仕事に停滞が生じる。もっと悪いのは,判断せず放っておいて,しばらくしてから判断したり,或いは一旦決めたことを,理由も明確にしないまま覆したりすると信用もなくなり,結果的に上手く進まないことが起こる。
はっきりした指針が無いままの行動はスピード感はない。行動を起こす方も,はっきりとした指針,判断が出るような判断材料の提供を怠ることなく,自分の意見もはっきり持って上司に当たり,的確な判断を引き出すようにすることが大切である。
●行動を起こしてやってみても上が評価してくれない(モチベーションの低下)
人は行動に対する評価には敏感である。自分自身でも成果の評価はできないことはないが,上司や仲間から評価されることは,やりがいにつながり,さらに意欲が沸くものである。ところが,行動したことに対する評価に無関心ややって当たり前,できない方がおかしい,と一切誉めない上司もいる。誉めてもらうために行動するのではないが,成果と共に誉める言葉は,重要な役割を持つ。
特に,自ら行動を起こしてやろうとする人は,常に前向きに会社のために,或いは全体最適に有効なことをと考えて行動していることが多い。ところが,こうした真面目で熱心な人を正しく評価しないとどんなことが起こるか。それは,その件一件では取るに足らないことであっても,正しい評価をしないことは,長い年月で,風土・文化として,取り返しの付かないことが起こってしまう。
会社の中でこうした前向きのオピニオンリーダ的な存在を殺してしまうようなことは,大きなマイナスである。どんなに良いビジョンを掲げ,立派な戦略を立てて進めようとしても,形はできても,行動が伴わないのである。実行部隊を引っ張るリーダが不在になってしまう。これでは成果を求めるのは難しい。それどころか,逆に批判者へ鞍替えって,進むことも阻まれることになりかねない。
本質的に正しいことは,誰か認めてくれる人が居るものである。直接の上司に理解は得られないからと云って,あきらめるのではなく,認められる方法を検討するのも一策だし,もう一段上の上司に進言するのも策である。全体最適に適った本質的に正しい行動が認められないようでは,その組織(事業)の将来はないと云っても良いのではないか。
●行動を起こすやり方を知らない(指導・教育されていない,見習う先輩がいない)
なかなか行動につながらない要因の一つに,実際のやり方を知らないケースがある。人はある年代になったら,或いはある職責を担うようになったら,当然やり方を知っているものである,と云うのは必ずしも正しくない。その人の組織の中での育った環境によって大きく変わる。それは,十分な指導を受けたことがない場合や,見習う先輩のような存在がいないのでやり方が判っていない場合がある。
先ずは新入社員の教育である。若い人でやり方を知らない人にいくら強制しても,できないものはできないのである。どんなに励ましても,精神論で聞かせようと不可能である。これは運転させるには,動く原理を教えて頭で理解させても,実際に運転させて指導しないと運転できるようにはならない。仕事においても同様で,実際に手取り足取りと云ったことまでは必要ないが,先ずは少なくとも仕事のやり方はきっちり基本から教えるべきである。こうした具体的なやり方の指導を受けて育った人とそうでない人とは,入社年度が浅い内は(せいぜい数年)明らかに行動に差が出るのである。
年配になった人でも,なかなか要領を得ない人が居る。通常,情報など外部からの刺激がある職場では,いろいろな場面で教育の機会がある。しかし,同じ職場で異動した経験の無い人や,外部との接触が少ない職場では,いつまでも同じやり方で不都合が生じない。そうすると,新しいやり方を学ぶ機会も少なくなってしまう。したがって,狭い範囲のやり方しか判らず,意外とその範囲を超えると,やり方を知らずに立ち止まっているケースを見かける。所謂,「井の中の蛙」現象である。
また,業務遂行と云ったルーチンワークには到って長けている人でも,新しい創造的な仕事になると,パタッと行動が止まってしまう場合がある。仕事を効率よくするやり方と,新たな創造的な仕事とは質的な面で大きな違いがある。仕事には,始めはルーチンワークの仕事が多いが,だんだん上になるとルーチンワークの比率は少なくなる。質的な変化が現れてくる。こうした異質な仕事にも,チャレンジできる能力をつけておくことが必要なのである。
●自らが考え行動しなくても済む(言われたことをやっていれば給料が貰える)
新入社員で入ったときならば仕方ないが,経験を積んできた人でも,上司からの指示がないと自ら進んで行動しない人が居る。意識的にそうして割り切っている人も居るが,自分では気づかないが周りから見ると,言われたことしかやっていないタイプの人が居る。強いリーダシップを持った上司が居るところでは,こうした行動が取られやすい。自分で考えて行動に移すよりもずっと楽である。
強いリーダシップを持った上司が居る間は,それで事が済み,計画通りに仕事が順調に進んでいることが多い。ところが,上司はいつまでも同じではない。こうした考えで行動する習慣を持たない人が,任せるタイプの上司に付いた途端,行動が停止してしまう。言われたことさえやっていれば,給料が貰える,と云ったことは長続きはしない。例え,支持された仕事であっても,自分が上司の立場だったらどのようにするかなどと,自らが考える習慣をつけておかないと,指示されないと何もできないことになってしまう。
また,何かをみんなでやろうとしたとき,「何をすればよいのだ?」とか「やることを言ってくれ」などと,他人に頼るタイプの人がいる。こういった人が何人集まっても,自らの力で目指す方向へ漕ぎ出す力は出てこない。リーダとなった人がテキパキ指示することも大切だが,それ以上に,「最終目標に向かって,自分は何で協力できるか」「こんな計画で進めようとしているが異論はないか」と云った自主的な行動が取れる人がいないと,経営に貢献できるような組織的な活動の実行などできない。
●行動しない言い訳けばかりを主張する(やる気が元々無い)
言い訳ばかりする人が居る職場では成果がでないのは当然である。しかし,大勢の組織の中にはこうした行動をとる人も居ないわけではない。こうしたことに近い行動をとる人が居ると,組織全体がおかしくなる。当然,上司がこうした人が居れば,注意喚起を促し指導教育しなければならない。しかし,見て見ぬ振りをしていると,組織はだんだん蝕まれていくのである。上司の,毅然とした態度が重要である。
こうした人は,最初からそうではなく,何かのことをきっかけにそうした態度をとるように変わっていったケースがある。上司が変わったり,自分の良い面を評価してくれる人が近くに居たりすると,変わるものである。頭ごなしに叱りつけることも時には必要であるが,じっくり話を聞き,コミュニケーションを良くすることが,良い結果を生むこともある。
以上,数回にわたって,「なぜ,行動に結びつかないのか」を考えてきた。その多くが,行動を困難にしているのは外部要因ではなく,個人(組織)の内部の要因にある場合が多いのである。この中のいくつかは,自分自身や自分の職場に当てはまる内容であったのではないだろうか。今後,スキル評価など実際の行動が重視される傾向になってきている。そんな中で,こうした行動に結びつかない要因を排除していくことが重要であり,個人及び組織の成果にも大きく影響することになる。また,組織責任者の人は,組織運営をする中で,こうした事態を避けるやり方を自分のやり方として身に付けて欲しいものである。
「有言実行」していますか?
あなたは自主的な行動が取れていますか?
参考図書:実行力不全 (ジェフリー・フェファー,ロバート・サットン 著 ランダムハウス講談社)
意思力革命 (ハイケ・ブルック,スマントラ・ゴシャール 著 ランダムハウス講談社)
「経営は実行」 (ラリー・ポシディ,ラム・チャラン著 日本経済新聞社)
リーダのためのとっておきのスキル (石田 淳 著 フォレスト出版)
組織戦略の考え方 (沼上 幹 著 ちくま新書)
経営の教科書 (新 将命 著 ダイヤモンド社)
「決める」マネジメント (リクルートHCソリューションユニット 英治出版)
[Reported by H.Nishimura 2010.02.22]
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