■なぜ,行動(実行)できないのか 1(No.152)
何が課題なのか十分判っていながら,なかなか解決するまでに到らない,と云う話をいろいろなところで良く聞く。また,そうしたことに遭遇することも良くある。特に,自分一人ではなく,会社組織としてなかなか思うように成果が上がらない,或いは,計画したことがその通りにできない。こうしたジレンマに陥ったことは,誰しも経験していることである。しかし,これらの要因をきっちり分析して,それらを自ら反省し,以降の対応を変えている人は少ない。組織としては,日常茶飯事の出来事ではないだろうか。いつの間にか,時間の経過が解決したとか,計画をリセットしてやり直したとか,云ったことで終わってしまっていることが多い。今回は,こうした“なぜ,行動(実行)できないのか”と云ったことを分析した本が何冊か出ており,それらを参考にしながら,考えてみることにする。
【プラン】
最初は,計画段階の課題について考える。
●やるべきことが整理できていない(優先順位がついていない)
危機感一杯で何とかしなければいけないと云う気持ちはある。しかし,結果的には,そうした思いと裏腹になかなか成果に結びつかない状態に陥っていることはないだろうか? こうした場合の典型的な例は,やるべきことが一杯ありすぎて,何から手をつけて良いか判らない状態になっていることである。リーダをしてこの状態だと,その部下の行動は推して知るべしである。こんな状態では,何をやっても中途半端であり,最後のトドメを刺すようなところまではできない。したがって,時間が経てばまたスタート地点に戻っていて一からやり直しである。これではどれだけ頑張っても,いつまで経っても成果には結びつかない。
こうした状態はよくあることである。まず,リーダがやるべきことは,「やらねばならないこと」を整理して優先順位をつけることである。人はそれぞれ自分の持っている情報,状況で判断しながら,行動に移している。しかし,その情報や判断は,狭い領域での判断である。したがって,全体最適を目指すのであれば,上からきっちり優先順位をつけて,やるべきことを明確にして指示を出すことが重要である。正常な状態で何の問題もない場合は,部下の自主性に任せることも重要であるが,混乱している状態では,指揮命令がしっかりできているか否かが成否を決めることになりかねないことを十分肝に銘じておいて欲しい。
スピードがない,ともよく言われる言葉である。トップからスピードを指摘されて,“一生懸命やっているのに”と感じたことはないか? こうした場合,全力投球していることに対して,それでもスピードが遅いと指摘されるケースは少ないのではないか。自分が一生懸命やっていること以外で指摘されてはいないか。このことは,優先順位が違っていたり,いろいろ他のことをやりながら進めていたりしていることで,全力投球ができていないからスピードがない,と云われていないか。つまり,優先順位の問題を指摘されていることも多いのである。
やるべきことがいっぱいある場合,どんな順番でやろうとしているか?多くの人が,やれることからやり出す。つまり,簡単な自分でできることからやり出すことが多い。優先順位をつけた「やるべきこと」と,「やれること」とは必ずしも一致しない。自分一人であればどんな順序であっても構わないが,組織での仕事はそうは行かない。常に優先順位をつけながら行動しなければ全体での成果には結びつかないのである。
●シナリオがない(プランが不十分)
ビジョンや戦略はしっかり立てられているが,なかなかその実現ができない,と云った経験はないだろうか。この場合も,ビジョンや戦略をしっかり立てたことで,実行ができると勘違いしてはいないか。どんな立派なビジョンや戦略でも,実行されなければ何の役にも立たないのである。往々にして戦略が上手く行かなかった場合は,ビジョンや戦略を立てた本人はやれない(実行できない)方がが問題だ,と他人の責任にしがちであるが,必ずしもそうではない。立派なビジョンや戦略を具体的な行動に移すシナリオがしっかりしていただろうか。つまり,戦術,具体的施策に落として初めて,ビジョンや戦略が活きてくるのである。このシナリオが十分検討できていない,或いは,シナリオを検討するのは実行する人たちだと他人に押しつけていないか。
少なくとも,ビジョンや戦略を企てた人は,それを実行に移すシナリオまでは十分考えた上でのビジョンや戦略にして欲しいものである。つまり,行動につながるシナリオに沿って,具体的な詳細内容を検討することを実行部隊にさせて欲しい。特に,中長期にわたる内容は,見かけはすばらしい内容であっても,なかなか実行を伴わないのは,こうしたシナリオをきっちり作って,中間目標を設定しながら進めることができていないケースが多い。このようなやり方をしていては,いつまで経っても“絵に描いた餅”になってしまう。
そうならないためにも,まず,ビジョンや戦略には,必ずシナリオ(実行計画)とその中間目標(マイルストーン)を決めることを必ずやって欲しい。次に,そのシナリオを確実にフォローできる仕組み,やり方を決めて進めて欲しい。特に,ビジョンや戦略と云ったスケールの内容は,下から盛り上げるのではなく,トップダウンでやるべきである。もちろん,ミドルがそれを支えて進言することは必要であるが・・。つまり,フォローすることもトップの最重要事項として為されないと,組織活動として実効が上がらないのは事実である。それもシナリオの良さが決め手になることが多い。
●必達目標が明確でない(コミットメントしていない)
計画段階では必ず目標があり,それに対してプランを立てる,と云うのが当然である。ところが,活動成果につながっていない事例を分析すると,この目標が曖昧であるケースが多い。「きっちり目標を決めている」と多くの人は反論されるだろうが,本当に必達目標になっており,会社(上司)とコミットメントしたことになっているか?
チャレンジ目標(それを目指してやっています!!)的なものはあるかもしれないが,これでは確実に実行できる保証はない。要するに,できればその目標までやってみたい,と云った程度の目標なのである。同じ目標でも,これでは必達目標,即ち,コミットメント出来る目標ではない。往々にして,目標がこうしたチャレンジ目標になってしまっている。最初から,絶対にやり遂げなければならない目標になっていないから,実行できないまま放置されてしまうのである。
チャレンジ目標が悪いというのではない。積極果敢にチャレンジする目標は重要であり,そうした挑戦は大いに歓迎されることである。そうしたことと,事業計画などで立てた目標と同じではない。事業計画の目標は,必達目標であり,会社とコミットメントしているのである。その目標をチャレンジ目標として扱うことは間違いである。活動が停滞する,実行できない,或いは活動にスピード感がない,と云った要因に,目標そのものの扱い方がある。
●実行できる計画目標が立てられていない
次は,計画の立て方,目標の設定そのものの問題である。事業計画の場合は,目標が必達目標であるから,必ず段階的に積み上げられた計画に基づいたものになっている。上からブレークダウンするか,下から順次積み上げて作成した目標か,いずれにしても実行計画が明確で目標値に根拠がある。
ところが,必ずしもこうしたツリー状に計画目標がなっていない場合がある。やらねばならないと思いが先行した目標や,上から割り付けられた目標などで,プロジェクトに完全に紐付きができていない場合がある。表面上は辻褄があった目標になっているが,ツリー状で紐付きが不十分なものは,必ず綻びが生じて,目標に到達できないことが起こる可能性が高い。責任者は,自らのプロジェクトを,こうしたツリー状で,抜けがないか,モレがないかを十分チェックすることは,活動を開始する原点である。
また一方,紐付きはきっちりできているが,ツリー状のある段階でストレッチ以上の意欲目標を掲げた場合がある。こうした場合,それを上司が見抜いておれば,リスクとして他のプロジェクトなどでカバーすることもできるが,見過ごされるケースも多い。このケースでは,ツリー状での抜け,モレのチェックでは判らない。一見,何一つ抜けのない完全な計画のように見えるが,実際に行動してみると,目標の必達不可能と云った事態に陥るケースである。こうした事態を避けることはなかなか難しいことであるが,計画内容を十分見抜く力が求められる。部下の立てた計画でも,自分がある程度入り込んで,十分中身を吟味すれば回避できることである。立てた者の責任だ,と責めるだけが上司の役割ではない。
(続く)
行動するには「最初に計画ありき」
あなたの行動に「実行できる計画」(コミットメント)がありますか?
仕事の優先順位はついていますか?
[Reported by H.Nishimura 2010.01.18]
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