■WBSについて 2(No.145)

WBSについて,前回その目的と管理の仕方について述べたので,今回はWBSの立て方についての考察を述べる。

  WBSの立て方

WBSは,目標を必達するための重要なツールであって,これを上手く管理することでゴールを目指そうとしている。従って,目標に対してきっちりとしたWBSを立てなければならない。これは,どのプロジェクトにあっても同じことである。

ところで最近,従来の感覚とは違ったWBSが立てられているので,つい疑問を持ってしまった。と云うのは,500人月を超える(つまり,40人で1年以上掛かる)プロジェクトの詳細なWBSを立てて検討されているのを見て驚いた。驚く方が不思議なのかも知れないが,計画を綿密に立てるとこのようになる,との見本のようなものである。

昨今ソフトウェアの開発には規模が大きくなるにつれて,こうした大勢が掛からないとプロジェクトが必達しないプロジェクトが増えてきている。したがって,担当されているリーダや上司もWBSがきっちりできないと,詳細なリソース計画などが立たないのだろう。プロジェクトの大半が人件費となり,それも億円を超える規模になると,見積もり段階でもきっちりした計画を必要とされるのだろう。

しかし,見方を変えれば,1年先のWBSができると云うことは,不確定要素や未確定要素が少ないために,こうした先までの計画が立てられるのではないか,とも感じている。なぜなら,昔,私がやっていたプロジェクトでは,規模もその何分の一ではあったが,開発要素があり,未確定な部分が多く,そんな先までの見通し,ましてWBSなどを立てることはできず,且つ無意味に等しかったのである。即ち,おおよそ3カ月先までのPERT(ガントチャート)図を書くのがやっとだった。もちろん,大日程としてのマイルストーンは1年以上,2年先までも決められていた。

だから,一番身近なマイルストーンまでのWBSを担当者一人ひとりまで明確にして,全体像を示し,みんなでどこにクリティカル・パスがあって,それを担っているのは誰々だ,としてやったものである。その当時は,パソコンも現在のような使われ方はされておらず,そのPERT図はA2程度の大きな方眼紙一杯に書き上げて,壁に貼っておいたものである。それで十分,現在の見える化の役割は果たし,メンバーとの情報共有も図ることができたものである。昔とスピードが違うかも知れないが,考え方は変わらないと思う。

  WBS作成のスピード

これだけ大規模なプロジェクトとなるとWBSを立てるのも,パソコンが活用できるとは云え,意志を入れた計画を作成しなければならず,その部分は人間が知恵を絞ることになる。特に,リソースに限りがあり,誰もが同じスキルを持っていないとなると制限が加わり結構複雑になる。また,一つの解ではなく,いろいろな解ができるので,そうした中から最良の施策になっているWBSを選ぶとなったり,それが組織を跨ってプロジェクトが行われていると,組織間の調整も入ってくる。

これが1年間のすべてのWBSとなると計画するだけでも大変でスピードが遅くなってくる。しかも,1年も先のことは,内外の環境変化の早さからして何が起こるか分からない。特にこうした環境変化に素速く対応しなければプロジェクトそのものが硬直化して役に立たないものになってしまうリスクさえ持っている。1年間もWBSを立てるにはそれなりの根拠があるのだろうが,私に云わせればとんでもない労力を費やしているとしか見えない。

つまり,こんなに変化が激しくスピードが求められている時代に,1年先のWBSまで詳細に立てるメリットがどれだけあるのだろうか?1年先までのWBSを当初通りのままで最後まで使えることが多いか,それとも途中で見直しする機会が必ずあるかをみたら,多くのプロジェクトが後者ではないだろうか。私ならば,リソース確保の関係があるので,1年先まではWBSの前の段階の必要人員を概略算出し,その人員確保をすることに止め,詳細なWBSは次のマイルストーン,せいぜい3カ月先までの詳細なWBSを素速く作らせて,それを実行に移すようにする。そのWBSが2カ月程度進んだところで,振り返りも含めて,そこから向こう3カ月のWBSを作らせ,これらを繰り返して目標を達成しようと試みる。

プロジェクトは計画したことがその通りできるかどうか,この予測・実績を管理して積み上げて行くことによって,プロジェクトが精錬されていく。その基本がWBSである。これが以前立てたWBSなので有効に機能していない,などと云ったら,プロジェクトではなく,みんながやりたい放題のことをやり,効率低下はもとより,目標必達も難しくなってしまう。当初に立てたものがあるので,見直しはあるが基本的には役立っているのかも知れない。しかし,変化が激しい,或いは変更もあることを考えれば,一定周期でピッタリマッチしたWBSでやるのが最適ではないか。

今一度,WBSの目的,意義をよく理解し,スピードを持った対応が重要であることを再認識して欲しいものである。

あなたは,どんなWBSを作っていますか?

WBSが有効に活用できていますか?

 

 

[Reported by H.Nishimura 2009.11.23]


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