■人材育成のあり方 3(No.133)
さらに引き続き,人材育成について考えてみる。
興味を引き出す(やる気を伸ばす)
人を思い通りに成長させることは容易なことではない。その人の成長は,その人自身の持つ能力もあるし,努力にも依存する。しかし,会社としては,どんな人も成長して欲しい。少なくとも,大きく会社に貢献して欲しいと云う思いは誰しも同じである。だから,会社のPRなどには必ず教育訓練など人を育成することが必要で,会社としてこうしたことをやっていますよ,と訴えているケースも多い。
会社としてやるべき方法はいろいろあるが,一番効果的な方法は,その人の持つ特色を伸ばすことだろう。その特色が,優れていればいるほど,日本一,世界一であれば,会社への貢献度も大きくなるだろう。つまり,本人自身の一番自信を持っている部分を限りなく伸ばしてやることである。平均的な人が数人いるよりも,こうした特長を持ち合わせた人が居る方が会社にとっては良いことである。その才能が活かされて思わぬ効果を出すことさえある。そこまで行かなくても,会社にとってプラスになることは確実である。
社員教育などと云うとどちらかと云えば,平均的なレベルを上げることが主体となる。それは,それなりに必要なことで,例えばマネジャークラスでバラツキが大きすぎては困る場合がある。平均的なマネジャークラスの知識と能力を備えて貰わなければ困る。だから,管理職になる前後には必ず一定の教育が行われることが多い。会社の中心人物として,率先垂範して事業を大きくするなり,会社に大いに貢献する仕事をして貰わなければならない。と同時に,その人達が上司となって,次の世代を育てて貰わなければならないからである。
昨今の低成長時代は,個性溢れる一芸に秀でた人が求められている。興味を持ち,やる気のある部分をどんどん伸ばして貰うことが非常に大切である。しかし,実際にはこうした個性の伸ばすことを一律の社員教育でやることは実際には難しい。むしろ,社員教育として内部でやるのではなく,社外のチャンスある場面に仕事として出て行って貰ったり,或いは会社として教育の一環として援助をするなど,個性に合ったことができることが必要であろう。
人は興味を持ったことにはとことんやりたいと思う気持ちがある。その人間の心理を上手く活用して,個性豊かな多様性ある集団が会社の中で形成されることで,お互いが切磋琢磨してスキルを磨くことができるだろう。そうした集団が保有するスキルが大いに活用できるチャンスを伺い,何か一つに上手くベクトルが合うことで大きな仕事に結びつくことも出てくるのではないか。
技術者から経営者への変身
非常に優秀な技術を持った人でも,リーダやマネジャーの仕事をやらせるとなかなか期待通りの仕事ができないことがある。つまり,技術スキルと管理スキルとは質が違うので,優秀な技術スキルが管理スキルに繋がるとは限らないからである。野球などでよく言われる,優秀な選手必ずしも優秀な監督にはならない,と同じことである。
技術者も技術スキルで仕事をする段階から,人を使って大きな仕事をする段階がいずれやってくる。このようなとき,技術スキルが優れていることは有利な条件ではあるが,管理スキルも身に付いていないと思い通りの仕事ができなくなる。要は,自分一人で仕事をする場合は,持っている技術スキルの違いだけで大きな差がつくことがある。ところが,大勢で仕事をする場合,自分の持っている技術スキルを発揮する部分は極一部で,それよりもメンバー全体の能力を上手く発揮させることの方が重要なのである。
リーダのなり始めはなかなかこの違いがよく判らないことがある。これまで実力を遺憾なく発揮できていたので,部下を使った仕事でも同じことができるはずと思うと,なかなかそうではないのである。もちろん,自分の優位な技術スキルを駆使して,部下にその一部をやらせ,上手く行く場合もあるが,そうしたケースは多くない。それよりもむしろ自分の持つスキルとは関連が少なく,将来を見据えた洞察力から見出される有望な仕事(事業であったり,商品だったりするが)を決断して,自分ではなく部下の能力を信じ,その各々の力を上手くベクトルを合わせて一つの目標に向かわせる方が効果的な場合が多い。
中間管理職になって悩む人が多いのはこの質の違いへの対応がなかなかできないためである。単に機械やコンピュータなどを駆使するのではなく,意志を持った人を動かさなければならないのである。目標をメンバー全員に共有させ,その目標必達に向けて,ときには厳しく要求し,ときには褒め,或いは叱りながら,目標への工程を如何にスピードを上げて進むかである。その工程には,競合との競争もあり,環境の変化もありといろいろな場面に適応しながらやり遂げることが求められる。人としての心の広さや先見性,決断力など様々な要素がある。
また,これまではどちらかと云えば,技術や性能,品質と云った製品を優れたものにすることが仕事であった。しかし,リーダやマネジャーになると,もう一つ経営的な視点が加わることになる。ところが,これは今までの経験とは異質なものである。お金の勘定が必要になってくる。いくら優秀な製品でも,顧客がそれを認めてくれなければならない。また,限られたリソースで限られた資金繰りの中で実現しないと意味がない。こうした収支計算を頭に入れた仕事が求められてくる。それは,これまでの経験してきた技術者としての感覚とは少し趣が違う。この切換を上手くできる人もいるが,専門に長ける人ほど,専門バカと云われるように収支に無頓着な人が多い。リーダやマネジャーがなかなか育ってくれない,と嘆く背景にこうした一面があることがある。
人材育成は人の特長を活かすことです
技術者は経営者的感覚を身につけよう
[Reported by H.Nishimura 2009.08.31]
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