■改善計画進行と実態との乖離 1(No.128)

プロジェクトの中ではいろいろな改善計画が組み込まれる。これは目標を達成しようとすると,当然現状の姿から何らかの改善を加えなければ実現しない。そこで,いろいろな知恵を絞ってできるだけ可能な範囲での改善計画を作り,それをやり遂げることで目標を達成させると宣言する。ベテランになるといろいろな経験を積んできているので,いろいろなリスクも計算に入れながら計画を立てるが,経験の少ないリーダだと,トップや上司から,このような目標を立てろと言われると,その目標をクリアできる方法を思いつくまま集め,計画に組み込んでしまう。そうした計画は,実際にプロジェクトが動き出すと,実態が露になり,途端にプロジェクトの進行に破綻を来たし,追加工数を必要としたり,目標性能をダウンさせたり,機能をドロップさせたりと,当初計画からの乖離が激しくなる。そこで,このようなことが,どのような要因で起こるのかを眺めてみることにする。

  1.負の要素が加味されていない

単純な例は,いろいろな改善要素の良い面ばかりを集めた計画を作ってしまうことである。特に,目標数値が与えられたりすると,その目標値のクリアが目的化して,如何にすれば目標数値に積算した値が達するか,と云う点に集中される。もちろん,計画を立てるのだから,誰ができるか,いつまでにできるか位は考慮される。つまり,改善効果だけを集めて,こんな効果がでる,あんな効果が出る,と効果を拾い集めて計画に組み込んでしまう。改善が良い面ばかりだったら,既に実行できていたはずである。いろいろなマイナス面や実行困難な点があったから,改善が進んでいなかった,と考えるのが普通である。

先ずは,効果を出そうとすれば,それなりのリソースや資金が必要である。そのリソースなど必要なものをどこから捻出し,そのためにどの程度の出費が必要なのかを計算しなければならない。つまり,この効果(OUTPUT)>出費(INPUT)であることは当然である。また,この比(OUTPUT/INPUT)が当然大きいものを優先すべきである。こうした検討も十分されていない場合がある。

次に,副作用的な検討である。確かに,効果金額は大きく,その比率も高いのでやるべき内容であることは確かである。しかし,ここで考えなければ行けないのは,その実行に伴う副作用で,例えば,金額的な効果は大きいけれど,品質が劣化する可能性が高い,やや性能が見劣りする,などマイナス面の検討も十分しておかなければならない。こうしたものは,プロジェクトの中では出てこなくても,市場に出てから販売が見込めないとか,品質劣化で信用を無くしてしまうとか,大きなツケが後から来ないことを十分考慮しておくべきである。特に,若いプロジェクトリーダは,自分のスコープ内か,スコープ外かで判断してしまうことがある。そうではなく,経営と云う観点から見る目を養っておくことが大切なのである。

通常こうした観点は,プロジェクトが進む中で,ごまかそうとしても,或いは気づかずに済まそうとしても,必ず,上司やベテランにすぐ見破られてしまう。プロジェクトにはこうした経験者の知恵が反映される場が必ず出てくる。

ところが,計画時点で何かの拍子でチェックが漏れたり,見つからずに計画が認められると,実際運営していくと,必要経費は計画が無くても掛かるものである。したがって,予算計画との乖離がすぐ出てきたり,思いもよらぬ性能ダウンに,スコープの見直しをしなければならない事態に発展する。実際の活動は,頭で考えて数値でごまかすようなことはできないようになっているのである。

  2.計画時点(数値)の落とし穴

前例の無いプロジェクトは計画段階で,いろいろなケースを想定し,リスクも十分考え計画が練られる。これは,計画時点で判らないことが多いので,早め早めに計画修正を加えながら進めて行かなければならない。ところが,前例のある場合,ある程度経験値からくる目標が設定され,プロジェクトリーダとしても,そうした数値を根拠に計画を立てることで安心感がある。

ところが,プロジェクトは前例があっても同じ仕事が繰り返される訳ではない。つまり,今回のプロジェクトとしては似通った仕事をすることは多いが,全く違った要素も加味されることが多い。ここで経験が浅いプロジェクトリーダは,これ幸いと前例を全く考慮もせず,そのまま信用してしまう場合が多い。つまり,前例との差分の考慮が十分できずに計画を立ててしまっているケースがある。

特に,数値で目標値など示されると,論理的根拠が明確でしっかりしているのでそれらに反論できずに,そのままその目標値などをスライドさせるだけで計画値にしてしまう。これは極めて多いケースである。しかし,ここには大きな落とし穴がある。プロジェクトと云うものは,必ず前例とは違った部分がある。それは内部変化だったり,外部変化だったり,要するに前例とは同じ状態はあり得ないのである。それら変化をどのように読み切るか,またこの読みをどのように計画に盛り込むかができないと,プロジェクトリーダは務まらない。つまり,与えられたことをやっています,と云うのはリーダではない。一作業者の仕事範囲が単に増えただけでしかない。

一番の落とし穴は,標準として決められている数値などを扱う時である。標準だから安心,と云うのは禁物で,この標準はどのようにして決められたのか,そこまで理解できなくとも,実態とはどうなのか,はリーダとして見極めなくてはいけない。典型的な例は,以前も説明したが,1日の稼働時間である。8H/日の稼働だからと云って,そのまま実質的な作業が8Hすべてかと云えば必ずしもそうではないことは,誰しも判っている。それをそのまま,8H/日で計画を入れ,しかも各仕事の作業時間の実績が前例から導き出された数値だった場合など,その差分は蓄積され,どんどん計画と乖離していく現象となって現れる。しかし,プロジェクトリーダとしては,前例の実績を踏まえた計画なので,大丈夫だと思っている。ところが,なぜかどんどん乖離が進んでいく。気がついた頃にはプロジェクトがかなり進んでいる。こんなことが現実に起こるのである。

計画時点の数値はあくまでも計画値であって,内部・外部の環境変化を見据えなければいけない。計画時点の落とし穴は幾つもあり,そのプロジェクトによって様々である。むしろ,落とし穴があることを前提に,修正計画を上手く立てながら進めることの方が実用的であるとも云える。かと云っていい加減な計画は厳禁である。プロジェクトは計画することから始まるからである。きっちりした計画を立て,その計画通りの実行ができることがプロジェクトの成功だからである。

(続く)

あなたのプロジェクトは計画とどれだけ乖離していますか?

その乖離の原因の一番大きな要因は判っていますか?

 

[Reported by H.Nishimura 2009.07.27]


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