■プロジェクトの遅れを取り戻す(No.124)
プロジェクトが遅れることはよくあることで,計画との乖離が大きくなると必ず挽回計画を立てることになる。
先ず,挽回計画を検討するには,なぜ遅れたのか,その原因が明確になっていなければならない。遅れた原因は明らかで,そんなことは問題ではなく,どうして挽回するのかが問題なのだ。と云うプロジェクトリーダもおられるが,必ずしもそうではない。確かにプロジェクトリーダは常に全体を見ているので,感覚的にどこが遅れたのか判っていて当然である。しかし,必ずしもプロジェクトリーダの全てがそうかと云うとそうではないことも多い。特に,プロジェクトリーダになって日が浅いリーダなどは全体把握が十分でない場合もある。また,ベテランでも規模が大きくなると,部分的には詳しいがある部分は疎いと云うこともある。遅れた原因は一般的には見えている現象を挙げることが多い。勿論,間違いではないが,もっと重要な要因が漏れることがあり,そうした点に今回は注目する。
1.定量値の数値が出ていると疑うことをしない。
一般的に挽回計画は,これまでの実績や経過を踏まえて検討を始める。そこで先ず,最も基準となるのが実績データである。これが間違っているととんでもないことになってしまう。しかし,ある程度それらしき数値が出ていると,疑うことができなくなってしまう。特に,実際直接見ているリーダや監視している人は感覚的にも判断が付けられるが,そうでない第三者では,正しい数値と読み取ってしまう。これは当然なことである。出てきた数値を疑い出したら限が無い。
ところが,実際には数値には落とし穴があることが多い。実際に掛かった時間とか,或いは要した日数など測定でき,実際の現象と一致するものは,大きく間違うことは少ない。ところが,比率で計算されたものや,多くのデータを集計して平均化されたものなどは,実際の現象からなかなか判断が付き難いものがある。それらを数値として報告される,或いは自動計算で各自が入力すると数式ができていて求めたい数値がでるようなシステムになっていると,あまり疑うことなく正しいと思ってしまう。これは良くあることである。
具体的には,生産性を示す数値だけを見ると予測通りであるにも拘わらず,実績は計画からどんどん遅れてきていると云ったケースがある。これは,生産性として採られる数値と実際に掛かっている工数とが食い違っているために起こる現象である。先ず第一は,同じデータベースで管理しないと抜けや漏れが生じる。第二には,生産性向上など,トップの掛け声が大きいため,結果を意識した数値の入力などによって生じるものである。どうしても,良く見せたいと云う心理的なものである。いずれの場合でも,数値がきっちりしているとなかなか疑うことができない。
2.1日稼働時間8時間は正しいか?
より具体的な例で云えば,一般的には標準時間とか前プロジェクト実績など何らかの基準を基に工数をはじき出している。リソースを増員するなど挽回計画を立てる場合,こうして計算された工数を利用することになる。よくあることであるが,工数から割り出すとき,1日の稼働時間が基準になり,会社によってこの基準は違うが,大まかには1日8時間で計算する場合が多い。しかし,実質的に本来の業務に8時間勤務で8時間割り当てられるわけはない。実質的な作業をしている時間は,8時間より確実に少ない。しかし,標準時間とか計算するとき,有無を言わさず1日8時間を基準にさせられるときがある。プロジェクトリーダなど,実態がよく判っているので,実働時間を見計らって計算しないと,その差がどんどん大きくなりプロジェクトを遅らせる要因になり兼ねない。
これまでは,1日8時間としても残業をするなど,実働時間として1日8時間が大きな狂いになることはなかった。ところが昨今の経済状況から残業が許されなくなってきている。つまり1日の実働時間が8時間には足らなくなってきている。こうした実態の状況をよく把握して当たらないと,思わぬ狂いが生じてくる。いろいろな問題が重なり合って遅れが生じてくると,こうした点が見えず,もがくばかりで,一向に挽回ができない事態に陥ることがある。そうかといって,例えば,実働時間は6時間なのでそれで計画すると云うと,上司などから何を考えているんだと大目玉を食らうことになる(大目に見る上司もいない訳ではないが,昨今の経済状況が,そうした余裕を生まない背景になっている)。そこのところは,経験を活かし,実態に沿った運営をしながら,体裁的には1日8時間働いている成果と同等の効果を出さないとならないと云うことになる。
3.質の問題と量の問題が区分できているか?
プロジェクトの遅れはいろいろな要因が混ざっている。しかし,現象として出てくる数値は定量的な,何日遅れとか,何人必要とか云った数値で一般的に表わされることが多い。この遅れに対して,定量的な感覚だけで判断するととんでもないことになることがある。要するに遅れの原因が何かを突き止めた上での挽回計画になっているか,と云うことである。
プロジェクトの遅れは,例えばリソースのスキルが足りない場合もあり,或いはモチベーションが下がった状態でパワーが100%発揮できていない場合もある。或いは,技術的な難題で,そう簡単には解決できない場合もある。しかし,いずれの場合も,現象は定量値として出てくる。これを質の問題に置き換えなければ,定量値的な計算では挽回計画にならない。
質の問題は,リソースのスキルと課題のバランスで決まる。スキルが勝っている場合は,目処が立つが,スキルが劣っている場合は,時間で解決できる場合はそれほど多くない。むしろ,違ったリソース,経験者やスキルを持った有識者などの知恵を借りる必要がある。こうしたことは,プロジェクトリーダが素早く判断しなければならない。未解決な要素が残らないように,とことん詰めておかないと解決できず,挽回はおろか,逆にズルズル延びるリスクさえある。量で解決できる問題は何とかなるが,質の問題はよく見極めて判断することが挽回計画には最も必要である。この点はリーダが心得るべき点である。
4.モチベーションを上げる方策
勿論,プロジェクトリーダたるものは,自分自身がやるよりも部下が実際に仕事に当たる。したがって,リーダは部下が一番効率よくできる状態を作ってやることが一番である。上司から8時間と云われているから,そっくりそのまま実質8時間やれ,と強いるのでは,無賃残業を課すようなことになったり,部下の意欲を削ぐことで反って効率が低下を招いてしまうことになり兼ねない。
むしろ部下には8時間と強いずに,実働6時間でも8時間分の仕事をしてくれるようモチベーションを上げて,効率を上げることをした方が実質的で有効である。そこの部分のさじ加減は中間管理職的な立場での振舞い如何である。これまでの経験から言えば,人のモチベーションを高めることで,容易に10%〜20%程度の効率アップは可能である。しかも,それらの人が強制された感触を持つのではなく,むしろ達成感を味わえるようにすることであり,実際にそうしたことは十分可能である。
リーダとしては一番有効な方策であるが,これができるリーダは,そもそも挽回策など検討することにならず,最初から確実に計画を進めているだろう。
プロジェクトでは挽回計画を立てることがあるが,一度内容をじっくり吟味して掛かろう
[Reported by H.Nishimura 2009.06.29]
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