■組織変更 4 (No.115)

  イノベーションと云う冠のついた組織

最近は組織名に横文字を使ったり,省略したアルファベットを使ったりと名前を聞いただけではよく判らない組織名も多い。
また,流行に流された改革やイノベーションなどを使った組織もある。とにかく,従来の硬直した組織を何とか活性化した組織にしたいと言う思いの表れである。そこで感じるのは,組織名はどのような名前であっても構わないが,そうした組織の狙い,トップの組織に対する思いが,どれだけメンバーに浸透して,実行に移せるかである。こうした組織の責任者は,社長などトップの思いを理解して,その狙い,目標の必達を目指そうとするのであるが,そこに所属するメンバー,つまり十分なリソースが揃っているかと云うとなかなかそうなっていないことが多い。

従来の業務,本来の業務には経験をしてきたメンバーがおり,その機能としてそれなりの成果が見込まれ,その期待にも十分応えられる見通しが立っている。しかし,改革とかイノベーションと冠のついた組織は従来のやり方を変えようとする狙いである。つまり,従来の組織に所属している人間にとっては,自分の処遇がどうなるか判らなくなってしまわないかと云う不安が付きまとう。また,改革する側に所属することになった人間にとっては,これまでの道筋はなく,新たなことへの挑戦である。一般的には,リソースが限られているので,優秀な人間がそうした改革側に廻されるかと云うと必ずしもそうではない。

ともすれば,本業など主たる業務ではみ出した人や,異論を唱える人がこうした改革組織には入っていることがよくある。改革,イノベーションなどの冠が付いた組織のメンバーに,とても相応しいとは思えないようなメンバーが所属していることがある。確かに,イノベーションが日常茶飯事に行なわれているとは限らないので,メンバー全員がイノベーションに当たっているかと云うとそうではない。日常業務の延長線上の仕事をしている人も中には居る。これはトップのやる気度の反映で,本格的に変えたいのならば,エース級をつぎ込んで改革に当たる必要があるはずである。思いは本格的に変えたいが,リソースの配分となると途端にトーンダウンすると云ったことが行なわれているのが一般的である。

また,その組織も,社長直轄の組織体であったり,工場直轄の組織体であったりする。リソースの人数はともかく,トップ自らの監視下で,本格的に実行を目指すのであれば,むしろ少数精鋭の方が良いこともある。こうした少数精鋭のメンバーは,部分最適にならぬよう,全体把握を十分していることを心掛けてことに当たらなければならない。また,トップから見ると,イノベーションの冠の付いた組織に,どんな優秀なメンバーが居るかは判らず合計の人員がどれだけか,だけが問題になるようである。つまり,イノベーションしようとする組織にリソースをどれだけ当てているかだけが人数として示され,それで満足(?)してしまっているのではないかとさえ思われることがある。これではイノベーションの起こるはずがない。

  イノベーションの効果的なやり方とは?

イノベーションの役割を担った組織に入ったこともあり,小さいながらもそうした責任者的なことを経験したことから振り返ってみると,イノベーションをやりきるには非常にエネルギーがいる。何とかしたい,と云う思いの集まりがどれだけあるかが,成果に大きく影響するように思っている。そうした経験からは,その組織のメンバーの資質に大きく左右される。つまり,イノベーションの思いが少ない人間がメンバーにどれだけ多数居ても成果に結びつくことは少ない。

それよりも少数精鋭,侃侃諤諤(かんかんがくがく)議論ができるメンバーがいる方が,成果が大きい。もちろん,議論するだけでイノベーションができる訳ではないが,トップの後押しがしっかりしていて,変えたいプロセスや変えたいシステムを握っている責任者にイノベーションの思いが通じていれば,少数の人間だけでも確実に前に進む。イノベーションとはこうした環境になることが必要条件なのだが,現実にはそう容易にはならない。どれかが欠けていて,なかなか上手く進まないのが常なのである。だからこそ,イノベーションを,と云うことが繰り返し,繰り返し行われるのだ。

イノベーションが叫ばれるのは,環境が大きく変わったのでイノベーションの必要が生じたと云うより,以前から判っていながら,いつまで経ってもなかなか思い通りにならないことが続くと,イノベーションの必要性が生じる。と云うより,イノベーションの話題が上がってくると云った方が正しいのではないだろうか。

多分,組織変更でイノベーションの冠の付いた組織では,組織変更があったばかりの4月,5月頃は,最も熱心に説いて廻るのが,イノベーションの組織の最高責任者だろう。熱弁を振るい,部下を鼓舞し,イノベーションの必要性を訴えているだろう。しかし,笛吹けど思い通りに踊らないメンバーが多いのではないだろうか。中にはその思いに感銘し,何とかやってやろうと云うメンバーも居るだろう。そうしたメンバーを上手く使い,池の真ん中に石を投げて,周辺に波が順番に伝わって行くように,イノベーションの思いの波紋を広げていくことができれば,少しずつ変革が起こって行くのではないだろうか。そうなることを期待したい。

イノベーション,改革の冠の付いた組織がありませんか?

その所属メンバーで果たしてイノベーションができると思いますか?


[Reported by H.Nishimura 2009.04.27]


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