■製品開発プロジェクトのスタート (No.109)

プロジェクトのスタートがどうも判りづらい,いつの間にかスタートしている。そんな経験をこれまで幾度と無くしている。そこで,製品開発のプロジェクトがどうしてスタートが判りづらいのかを考えてみる。

開発プロジェクトは,どんな内容の開発をするか(スコープ),どんなリソースを掛けて(コスト),いつまでに完成させるか(スケジュール),出来上がりの品質はどんなものにするか(品質)など,目標を明確にした上でスタートする。その内容をまとめた書類はいろいろな呼び名があり会社によって違うが,開発企画書などと云ったもので幹部の承認を得てスタートさせるのが一般的である。その企画書に揃える内容は,若干の違いはあっても,概ね決まっている。以下のようなものがある。

  1. 企画する背景,マーケットの大きさ,市場要望,将来性
  2. 市場シェア,販売目標
  3. 製品詳細,目標(中長期計画などと関連させてどんな商品を企画しようとしているのか具体的な商品がイメージできる内容)
  4. 開発推進体制
  5. 利益計画(販売価格,原価構成)
  6. 競合他社比較
  7. 生産体制,製造部門
  8. 投資規模,投資内容
  9. 開発計画の具体的なスケジュール,マイルストーンなど
  10. その他(知財,外部委託,など)

一つの商品を企画しようとするとざっと挙げてもこんな内容の調査が必要である。つまり,この企画書をみればプロジェクト全てが全貌できるものある。

ところが,実際にはプロジェクトがこうしたきっちりした公式の書類が準備され,承認を得てスタートしているかと云えば,必ずしもそうでない場合が多い。つまり,公式な承認手続きがなされる前からプロジェクトがスタートしてしまっていることが多い。運用上として若干のズレは致し方ないとしても,かなりの期間,アングラでプロジェクトが進んでいて,ある程度進んで既成の事実が出来上がってから,儀式のように企画会議などが行なわれるケースも多い。所謂,プロジェクトが必要とされる内容が網羅されて企画書が出来上がり,それからやっと形式上キックオフする公式の会議で,幹部の承認を得るのである。このことは事実上のプロジェクトのスタートが曖昧なまま切られていることを物語っている。

それでは,なぜこのような形式上のものになってしまうのか,その背景を考えてみる。
そもそもプロジェクトとは,それを意図した個人が何とかプロジェクトとして進めたいと,企画するための事前検討をすることから始まる。この時点では,プロジェクトになるか,ならないかも判別が付かないものである。個人での活動が,いろいろな調査をしたり,企画に上げるための検討をしたりと,だんだん膨れ上がり,集団での活動になってくるのは自然の流れである。その時点で,プロジェクトとしてやる,と決められるものなら,そのときに企画会議をして幹部の承認を得るのが最も適切で,認められた具体的なリソースが活動に入ることになる。ところが,実際にはプロジェクトにするかどうか,客観的な判断を必要とすると,やはりそれなりの調査をし,確実にプロジェクトとして成功する見通しが立つ段階にまでしておく必要がある。このことに結構時間が掛かるのである。前述したような調査を終えないと企画書が完成しないとなると,なかなか発案者だけで進めるには荷が重過ぎる内容が含まれている。

また,企画会議で否認されないよう,或いは再調査とならないよう確実にプロジェクトとして進めようとすると,ある程度具体的にやってみないと判らないこともある。つまり,企画段階の検討と言いながらも,実際には開発段階(承認後の開発活動)の一部をやっていることも多い。また,幹部を集めて会議をするとなると,その日取りの設定に時間が掛かると云う会社も出てくる。(大きな会社には多い)その結果,開発がある程度進んだ状態で,公式の承認を得る事態になってしまっているのである。しからば,幹部が全くそれまで知らないかと云えばそうではない。プロジェクトリーダは,黙ってどんどんリソースを使ってやることはしない。公式でなくとも,事前にこんなプロジェクトをやろうとしている情報は上に上げ,公式の場でなく,暗黙の承認は取り付けていることが多い。このことは,事実上のプロジェクトのスタートはこの暗黙の承認を受けた段階であるとも云える。しかし,プロジェクトリーダには判っていても,関係者は判らないことが多い。また,暗黙の了解なので客観的なデータをきっちり示しているケースは少ない。むしろ主観的な内容でスタートしていることの方が多い。そうして既成の事実をつけてしまっていることが多い。

この,なんとなく始めることに大きな問題はないのだろうか?暗黙の了解があって進んでいることは,事実上大きな問題が発生しそうであれば,責任者や幹部が初めて耳にすることではないので,それなりの対処ができ,問題が大きくなる前に防ぐことができていると言える。しかし,別な観点で見ると,開発の効率や生産性向上などを謳っていると,正式な会議までにアングラで進んでいる分は追認でしかない。ここで大きなロスが出ていても,それを測るものさしが無い場合が多く,また責任の所在もそれほど明確でなく,うやむやにされることが往々にしてある。

或いは,このアングラ部分は開発部門だけが独自に進めるので,監視の目が届かないのも実態としてある。立派な開発のプロセスの仕組みがある会社であっても,こうした企画以前の部分は定義されていないことが多く,曖昧模糊として実態把握が難しいと云った面もある。本来は,こうした早い段階,少なくとも複数の開発メンバーで,企画検討と雖も進み出した時点では,プロジェクトのキックオフがなされ,必要とされる関係部門が協力する体制ができていることが望ましい。

あなたの部門の開発プロジェクトは早い段階でキックオフがなされていますか?

新製品開発のスタートが明確ですか?

 

[Reported by H.Nishimura 2009.03.16]


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