■時間軸の大切さ 2 (No.106)

仕事は上司とのキャッチボールを通じて磨かれ完成度が上がっていく。能力のある人は1回のキャッチボールで合格レベルの完成度を出す。ところが,通常一般の場合は,何度か上司とのキャッチボールを繰り返す。このやりとりにおいても,如何に適切なタイミングでキャッチボールができているか,が掛けた時間に対する完成度の高さの比で表わされる。つまり,十分自分の仕事をやった上で,適切なタイミングを見計らって上司のチェックを受けるようにすると,上司もその内容をしっかり受け止めて,それに対して適切なコメントやアドバイスをすることになる。
ところが,自分の仕事が不十分なままで提出すると,上司のチェックもそれに合わしたものになったり,また,自分の仕事を十分にする余り時間を掛けすぎると,今度は時間の制限で上司のチェックが遅れたり,或いは時間的に無理な場合が発生してしまう。

仕事が上手くない人はこの上司のチェックが十分生かされない段取りになっている場合が多い。つまり,キャッチボールするボールを自分が握ったまま離さず,自分の中であれこれ考えたり,出来ないことを悔やんだり,無闇な時間を浪費していることが多い。しかし,それを本人は一生懸命やっているあまりに,無闇な浪費とは全く思っていないし,自分の中で一生懸命仕事をしているのだから,とくらいに考えている。上司が大丈夫だろうかと心配していることを気にもせず自分の枠内から出ようとしていない。そもそも仕事は組織としてするもので,個人プレイではない。もちろん,優秀な人が牽引する部分は勿論あるが,部下ができないで困っている部分は上司がある程度はカバーするのが組織としての仕事である。

また,上司にとって部下の不足分を補いながら,仕事を通じて教えることをしている。いや,そうする権利を持っていると言った方が良いかも知れない。したがって,部下の仕事の出来が悪い場合,許容できる範囲でレベルを落として時間(期限)を守って終了させることがある。これは,特に時間(期間)制限など,決まったタイミングには完了していなければならない仕事がある。我々の周りの仕事の多くが期限付きである。その期限を,1時間でも過ぎれば全く無効になってしまう仕事がある。こうした場合は,その仕事内容のレベルダウンは上司が判断する。

ところが,ボールをいつまでも持っていたりすると上司として仕事内容のレベルダウンを判断することさえできなくなってしまう。つまり,上司としての権利を発揮する場面がなくなってしまう。報告書などを作成する場合は,必ず上司の承認を得ることになっている。上司は承認する権利がある。ところが時間(期間)切れになると,めくら承認でチェックなしに通過することになり,権利の発揮を部下が奪ってしまうことになる。組織としての仕事ができないことになる。これは上司にとっては,あってはならないことなのである。しかし,やっている本人は,全くそんなことは眼中にもないのである。

若い人にはこの組織としての仕事の意味が十分判っていない。だから,一度目の失敗で怒られると,怒られたら拙いとは感じるが,仕事の仕組みを壊してしまったとは反省していないことが多い。だから,怒られまいと努力はするものの,やはり力不足になると,また同じことを起こしてしまう。自分は何て能力が無いのだろうと,自分を卑下することはあっても,組織の仕組みに対する問題とは考えないのでその対策は怠ってしまうのである。上司も自分の権限が発揮できないから困る,とは言わないまでも,組織としての仕組みをきっちり教えることが必要である。

時間軸の管理を求めると,最終目的の日から逆算して,いついつまでに何をしなければならないと,一見文句のつけようのない計画を立ててくる。そこまでは良いのだが,実際やらせてみるとだだ遅れになっているケースもよくあることである。これは頭の計算上は,いついつまでに何をしなければならないと,「やらねばならない日程を立てる」ことで,これが計画を立てたことと勘違いしている。
求めているのは「やらねばならない計画」と同時に「やりきる計画」なのである。やれもしないのに「やらねばならない計画」を出してきても意味がないのである。時間軸を持って仕事を進めるということは,日程計画にはそれに伴うWBS(Work Breakdown Structure)がなくてはならないのである。

立派な日程計画でも,そこに当てる仕事内容と必要な時間が一致して,出来る計画であることが大前提である。仕事が上手く出来る人は,自分の頭の中でWBSができていて,マイルストーンが定まって自己チェックしながら仕事を進めることができる。そうでない人は,その逆でWBSを無視した「やらねばならない計画」,つまり実行力が伴わない計画をあたかも当然であるかのごとく立てて,結果的に上手く進まないことになっている。誰がみても判る話しである。そもそもの計画がなっていない。だけど,こうしたケースは稀なことではない。そこら中で起こっている。

*WBS:プロジェクト管理で用いる,仕事内容を細分化して,仕事の順序を決めること

時間軸の大切さを述べてきたが,時間軸だけを大切にするのも拙いのである。その例は,何でもかんでもすぐ上司に報告し,判断を仰ごうとするタイプの人がいる。確かに,小まめに上司に報告するので,上司としては状況把握はできて良いのだが,部下がいつまでたっても上司を頼って判断力が欠落する可能性がある。時間軸は重要なのだが,それ以上に,自分の中で仕事を完成させ,自分でこれで完成したと判断できるまでの力を付けることは非常に重要なことなのである。その点を履き違えるととんでもない結果になる。

これらの点は,なかなか頭だけで理解しようとしても無理な部分がある。経験を積みながら,判断力をつけ,時間軸を意識するバランスの取れた仕事ができるようになって欲しいのである。初めは,時間軸重視で仕事に当たり,その中で順次判断力を養って行くのが良いのではないだろうか。

時間軸を大切にして仕事をしてみよう

 

[Reported by H.Nishimura 2009.02.23]


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