■オバマ大統領の誕生 (No.103)
アメリカに初の黒人大統領が就任した。宣誓には全米各地から200万人とも云われる人が集まり,空前のことだったようである。とにかく,数十年,いや十数年前では考えられないことが起こったのである。その熱狂振りに,一言コメントをしてみる。
オバマ米大統領
ブッシュ大統領の任期満了に伴い,4年に一度の大統領選挙が行われ,民主党のバラク・オバマが大統領に選出された。アメリカが最もたいへんな時期に,どんな政策を打ち出すか期待されている。丁度1929年の大恐慌のときのフーバー大統領が有効な政策を何もできないで政界を去ったあと,ルーズベルト大統領がニューディール政策で公共投資を積極的に打ち出し,景気回復を図ったことをなぞって,「グリーンニューディール」政策を打ち出している。
これは,クリーンエネルギーを中心として世界経済を再建しようとする試みなのである。景気減速や原油価格の落ち込みなど市場変化がこれらの動きを困難にさせるかも知れないが,今こそ環境を中心とした活動を展開するときであると訴えている。米国が元気にならないと,日本も元気にならない。ここ数年は景気回復は無理と云う評論家もいるが,是非,米国経済を早く立て直して欲しいと願うばかりである。
宣誓式典
1月20日オバマ大統領の就任式があり,大統領として米国民の前で宣誓をした。尊敬するリンカーン大統領をなぞらえて,オバマ大統領は就任式に向けて,リンカーンも就任前に列車で通った米独立宣言の地フィラデルフィアから,特別列車に乗ってワシントン入りするなどしており,宣誓をした聖書はリンカーン大統領も使ったとされるものを,特別許可を貰って使用したようである。黒人の奴隷解放を宣言したリンカーンにならい,米国民の民族を超えた融合を図りたい現れである。リンカーン大統領は「人民の,人民による,人民のための政府を,断じてこの地球上からなくしてはならない」と宣言している。
また,ケネディ大統領にも意識があるようで,ケネディ大統領は次のように宣言している。
「わが同胞のアメリカ人よ、国家があなたに何をしてくれるかではなく、あなたが国家のために何ができるかを問おうではないか。わが同胞の世界の市民よ、アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、われわれとともに人類の自由のために何ができるかを問おうではないか」
このケネディ大統領の言葉に合わせたようにオバマ大統領は,次のように宣言し,米国の再生の作業への自覚と参加を求めた。
「私たちは自らを奮い立たせ,アメリカを再生する仕事に取りかからなければならない。今求められているのは,新たな責任の時代だ。それは,一人ひとりの米国人が,私たち自身と我が国,世界に対する責任があると認識することだ」
つまり,あらゆる米国民が自ら責任をもって,将来の米国,さらには世界を切り拓いていく決意を促したものであり,ここのオバマ大統領の真髄が見られる。
また,誠実な人柄は式典後の行動にも表れている。つまり,金融業で金儲けにしか頭にない連中に対して,特にリーマンを初めとする金融業の幹部が,世界経済をこのように不況におとしめた要因をつくった張本人にも拘わらず,高額な給料を貰っていたことに痛烈な批判をしている。真面目で誠実な多くの米国民の中のごく一部の連中に猛省を促している。そうした連中は,大統領が何と言おうと気にもしない輩ではあるが。
「Yes,We can」
その代表的な言葉が『Yes, we can』である。これはオバマ大統領が大統領予備選挙で,ヒラリさんに敗れたとき,演説で述べたことで,その演説をアレンジしたR&B風の曲。
(作曲したのは、アメリカR&Bグループ Black Eyed Peas(ブラック・アイド・ピーズ)のメンバーであるウィル・アイ・アム)やればできる,我々にできる。この言葉は,国民を奮い立たせる。特に,黒人にとっては今なお続く黒人の差別からの立ち上がりを勇気づける言葉である。この言葉は,我々をも勇気づける。「やれば,できる」,つまり,やらないと始まらない。勇気を持ってやってみよう,とも取れる。
先日あった結婚式で,挨拶を頼まれたので,新郎,新婦にはなむけの言葉として,使ってみた。正しい使い方をきっちり判っているわけではないが,この言葉は,これまでは一人でやっていたことを,若い二人が今日からは二人力合わせて,We can(我々にはできる)と思って,やっていって欲しいと添えた。なかなか良い言葉である。
Yes, we can.
It was a creed written into the founding documents
that declared the destiny of a nation.
(それは、この国の運命を宣言した建国の文書に書き込まれた信念だ。)
Yes, we can.
It was whispered by slaves and abolitionists
as they blazed a trail
toward freedom through the darkest of nights.
(それは、真暗な闇夜を抜けて自由への道を切り開いた奴隷や、奴隷廃止活動家たちがささやいた言葉だ。)
Yes, we can.
It was sung by immigrants
as they struck out from distant shores
and pioneers who pushed westward
against an unforgiving wilderness.
(それは、遠い岸辺を出発した移民たちや、容赦ない未開の地を西へ西へと進んだ開拓者たちが、歌った歌。)
Yes, we can.
It was the call of workers who organized;
women who reached for the ballot;
a President who chose the moon as our new frontier;
and a King who took us to the mountaintop
and pointed the way to the Promised Land.
(それは、組合を作った労働者たちの合い言葉。選挙権を求めた女性たちの合い言葉。われわれの新しいフロンティアに月を選んだ大統領のかけ声。そして山の頂きへとわれわれを導き、約束の土地を指し示してくれたキングの言葉だ。
Yes we can to justice and equality.
Yes we can to opportunity and prosperity.
Yes we can heal this nation.
Yes we can repair this world. Yes we can.
(Yes, we can. 私たちにはできる。正義と平等を、と。)
(Yes, we can. 私たちにはできる。機会と繁栄を。)
(Yes, we can. 私たちにはできる。この国を癒し。)
(Yes, we can. 私たちにはできる。この世界を修復することを。)
(Yes, we can. 私たちにはできる。)
We know the battle ahead will be long,
but always remember that no
matter what obstacles stand in our way,
nothing can withstand the power
of millions of voices calling for change.
(戦いはまだ先が長い,だが忘れるな,何が立ちふさがろうと,変化を求める無数の声には抗えないのだ)アメリカで何かが起きている。私たちはそれを忘れない。政治が言うほど、私たちは分断していないと。私たちはひとつの国民、ひとつの国なのだと。アメリカの歴史の新しい偉大な一章を、私たちは一緒にはじめる。その最初の言葉は、三つの言葉だ。この三つの言葉が、海岸から海岸まで、ひとつの海からもうひとつの光り輝く海まで、国中に響き渡るのだ。
Yes, we can
(gooニュース 加藤祐子 訳 )カリスマ性
誠実で,真面目そうな容姿から放たれる,あの独特の声が国民を惹きつけ,若いエネルギッシュな,人を魅了する演説。当にカリスマ的存在感がある。黒人を乗り越え,人間として訴えかけ,アメリカの全ての人に呼びかける独特の雰囲気を醸し出している。
大統領就任以来,イラク派遣撤退,環境規制など,これまでのブッシュ政権を否定するスピーディな行動に出ている。共和党から民主党に政権交代したのだから当然といえば当然だが,アメリカ国民の期待を一気に背負って行動し始めている姿がマスコミを通じて我々に知らされている。非常に,歯切れの良い(日本の政治とは全く好対照な),若さを感じさせる行動である。実際の成果は,まだまだ先であるが,アメリカ国民に明るい希望,期待を抱かせてくれることは大きな力である。
特に注目しているのが,環境・エネルギー対策である。これまでのアメリカはどちらかと言えば,環境・エネルギーを無視した政策が通っていた。世界中で環境問題が叫ばれてもアメリカはあまり積極的に関与しようとはしてこなかった。ネオコンといわれるアメリカ型の民主主義,自由と市場を世界に普遍化しようとし,その目的の達成のためなら手段を選ばないというリアリズムを併せ持ったやり方がまかり通っていた。ブッシュ政権はこうしたネオコンに支えられていた。しかし,オバマ大統領は完全にこれを否定している。アメリカの一部の人の利益でなく,全アメリカ国民の利益のために立ち上がろうとしている。
"Yes, we can."
ますます厳しくなく激動の2009年,明るく前向きに頑張る力を持とう
2009年も,さらに新たなチャレンジを!!
[Reported by H.Nishimura 2009.02.02]
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