■百年に一度の金融危機 (No.100)

2008年は百年に一度の金融危機と云われ,世界全体が経済不況に見舞われた一年であった。1929年の世界大恐慌の再来である。株価が下落し,円高が進行,グローバル化している日本企業に大打撃を与えている。あの超優良企業であるトヨタが赤字転落になるとの報道がなされている。自動車業界の不況が,季節工のカットの事態をよび,派遣切りが社会問題化してきている。

金融危機

そもそも米低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きに端を発した問題は,一気に世界中に拡がり,「百年に一度の金融危機」と云われる事態に陥ってしまった。

確かにきっかけはサブプライムローンだったかもしれないが,もともとアメリカの実体経済を無視した金融経済の破綻である。実体経済を重視した資本主義であれば,このようなバブル崩壊はなかったと云えよう。考えてみれば判ることだが,マネーゲームで利益を上げることは,新たな付加価値を創造した訳ではないので,どこかにその付けが回っているに過ぎない。それがどんどん大きくなっていくときは,付けが膨らむだけで,誰も損をしなくて済む。(付けの分が隠されている)

専門家の話に依れば,レバレッジと云って梃子の原理で,実際のお金の10倍,20倍程度を回しているときは,まだ回復は可能だったようだが,今回のケースでは,それが50倍,60倍にもなっていたという。アメリカの金融工学といったノーベル賞を受賞したような経済学者が考え出したシステムを,投資銀行,証券会社が利益追求のために利用し悪用したもので,実体経済で生活している我々にとってはとんでもないことが世界で起こっていたのである。

米国政府が市場の混乱を避けるため,金融機関に資本注入を行い,米国としては史上初のゼロ金利政策を導入した。しかし,実体経済のダメージは計り知れないものがあり,マイナス成長を余儀なくされてしまっている。その結果,米自動車大手ビッグ3が経営破綻寸前に追い込まれてしまってる。このダメージは2009年は引きずったまま推移すると云われている。

株価の大暴落

日経平均が26年振りに7000円を割る事態が起きた。株を扱って居ない人にとっては,全く関係の無い世界であるが,株に投資している人にとっては,1年間で約半額になった勘定である。つまり,株に1000万円投資していた人は,1年間で500万円を失ったことになるようなとんでもない事態が起こったのである。もともと株とはそういうもので,リスクは付きものと云えばその通りだが,こんな変動はかって経験したことがない事態である。

株の投資家もさることながら,大きな打撃は企業にもあり,株価下落は資金に大きく影響することになる。或いは,企業買収がしやすくなることであり,そうした危険も伴うことになる。2002年殆どの企業が赤字を出した時期がある。このときは,内部留保もなく,企業買収の危険性が最も高まった時期だった。それに対応して,その後の景気回復後は内部留保を蓄えてきている。それに対して,利益が出ているにも拘わらず労働分配率は低下しており,それを問題視する声も大きい。

とにかく一番影響が大きかったのは米国第4位の投資銀行・証券会社であるリーマン・ブラザーズの破綻(9/15)である。リーマンズ・ショックとも呼ばれ,これで一気に株価が大暴落した。経済の専門家ではないので詳細なことは判らないが,我々のイメージする証券会社とは違ったようである。投資銀行とは,個人向けでなく,法人向けや機関投資家を相手にサービスをしており,短期利益追求型で,日本の銀行のように自己資本比率の規制がなく,サブプライムローンを扱って大きな損失を出しても,すぐ破綻にはならないそうである。今回は,短期金融市場からお金を借りて運営しているが,その金利がはね上がり,借りることが出来ない状態「信用の収縮」が起き,運営できない状態に陥ったようである。

とにかく,我々の知らないところで,ノーベル賞をとったほどの優秀な経済学者が考え出したシステムで,理論的には問題がなかったのかも知れないが,現実の問題として現場での検証が不十分でこのような事態になってしまったとの印象が強い。

円高の進行

また,アメリカ経済の破綻がドル安を大きく進ませ,結果として円高が急激に起こってきた。かって10数年前に経験した1$=80円台まで一時は進んだ。こうなるとグローバル企業はとんでもない打撃を受ける。その最大手がトヨタ自動車である。1円の差が350億円利益に影響すると云われている。グローバル企業は,ドル/円レートを常に計算しながら計画を立てている。年間計画では1$=105円そこそこの計算でされているので大きな狂いが生じてきている。

今までの円高の最高は1995年4月19日に79.75円と云う記録がある。確か,その当時も円高がどんどん進み80円を切るまでの事態になったことを覚えている。グローバル企業はその当時もたいへんなことだった。それでも堪え忍んで景気回復を目指して頑張ったものだった。その年末には100円台に戻り,それ以降10年間以上100円を切ることはなかったのである。

essay099.jpg (67279 バイト)

百年に一度の金融危機を経験,如何に乗り越えるかが今年の最大の課題

明るく前向きに頑張って乗り越えてきた経験を活かそう

 

[Reported by H.Nishimura 2009.01.12]


Copyright (C)2009  Hitoshi Nishimura