■2009年を迎えて (No.099)

昨年1年間を振り返って,いろいろな問題があった年であった。これだけ大きな変動のあった年も珍しい。その中の主な話題について触れてみる。

政局混迷

9月1日福田首相が緊急記者会見を開き,突如退陣表明をした。前年の安倍政権に続いて福田政権も投げだしたのである。その後に登場したのが麻生首相で,いずれも世襲である。ある人は,徳川末期の症状と似ているとも言っている。NHKの大河ドラマ「篤姫」に出てくる将軍達である。家定,家茂,慶喜で260年続いた江戸幕府を徳川家が大政奉還して幕を閉じる。本来,一国の首相たるもの,そう簡単に投げ出したりしないものであるが,坊ちゃん政治と云うか,一国の総理大臣としては情けない限りである。

特に,福田首相の退陣表明の記者会見で,ある新聞記者が「国民からは他人事のように見えるが」と投げ出し状態を問い質したのに対し,首相は切れて「私は自分自身を客観的に見ることができるんです。あなたとは違うんです。」と言い返した。普段は沈着冷静そうに見えた首相の一瞬の憤慨した様子がテレビを通じて全国民の前に放送された。私もテレビを見ながら,福田総理の思っていた通りの一面が見えたと感じたことを覚えている。

麻生総理大臣は福田首相と違い明るい調子よいタイプに映っていたが,いざ首相になると,発足時の内閣支持率が50%を切り,その後も漢字の読み間違えなど発言する度に,波紋を呼びどんどん支持率が下がり選挙内閣の役割も果たせそうもない状況で,年末に20%そこそこの数値になっている。当に御曹司の坊ちゃんをさらけ出している。2008年,日本の政局は混迷したままで一年が終わってしまった。

金融危機(株の大暴落)

百年に一度の金融危機と云われ,米国のサブプライムローンに端を発し,9月にリーマン・ブラザーズが破綻すると,その金融危機が瞬く間に世界中に拡がり,株価の大暴落になり,日経平均が26年ぶりに7000円を割る事態になった。円相場も1$が90円を切り,グローバル化している大企業に大きな痛手を与えることになった。

その後,ビッグ3である米国自動車大手3社が破綻寸前に追い込まれている。これは,米国消費が極端に落ち込み,車が売れない状況になっているからで,政府に支援を仰ぎ,一時的には破綻は免れたが,回復の目処は立っていないようである。同じように米国市場を相手にしている日本の自動車メーカもこぞって業績が悪化,トヨタが赤字を出す騒ぎになっている。

大震災

中国四川の大地震(マグニチュード8.0)が発生し,死者不明者が9万人とも云われている。中国のしかも山間部でインフラが整っていなく,未だに仮設テントで暮らす人が大勢居るとのことである。日本の救助隊が初めて中国に派遣されたが,国家間の連携が悪く,タイミングが遅く十分な力を発揮するまで到らなかったようである。詳細な様子はテレビ報道でしか判らないが,画面を通して見る限り,貧しい様子が映し出され,30年以上も前の日本,いや戦後間もない日本に近い状態(それほど記憶があるわけではないが)のように思われる。

その状況をテレビでいろいろ見ていると,続いて1カ月後に今度は日本の東北地方を中心にマグニチュード7.2と云う大地震が発生した。その様子はすぐさまテレビに映し出され,削り落ちた山肌,橋の崩落,土石流で流された旅館などその凄まじさを目の辺りに見せつけられた。死者,行方不明者が少なく済んだのは不幸中の幸いで,規模が違うかもしれないが,人口の密集度も違ったのだろう。

ノーベル賞,日本人4人が一気に受賞

暗いニュースの中で明るい話題は,ノーベル賞に日本人が一気に4人も受賞したことだった。湯川秀樹さんが1949年に物理学賞を受賞して以来,日本人受賞者が15人になった。日本人の得意とする素粒子論の展開で3人の物理学賞受賞で,これは湯川・朝永博士の流れを継いでいる。その中で,南部博士は頭脳流出で米国人国籍になっており,化学賞の下村博士も米国で活躍中である。この点は,日本人がなぜ日本で研究することをしないのか考えさせられる一面である。

また益川博士のノーベル賞を貰っても嬉しくない,と云うのは,島津製作所の田中さんがノーベル賞を貰って,会社の作業服で会見したときを思わせる。彼らにとってはノーベル賞は目指す最高のものでも何でもない。自分の研究の中の一過程に過ぎないようである。ノーベル賞とマスコミが騒ぎすぎる後進国的な感覚を痛烈に批判しているともとれる。ノーベル賞に相応しいと思われる人でも賞に恵まれなかった研究者もいるようである。そんないろいろなことがあるにしても,日本人としては嬉しい,明るいニュースだったには違いない。

オバマ米大統領

ブッシュ大統領の任期満了に伴い,4年に一度の大統領選挙が行われ,民主党のバラク・オバマが大統領に選出された。アメリカが最もたいへんな時期に,どんな政策を打ち出すか期待されている。丁度1929年の大恐慌のときのフーバー大統領が有効な政策を何もできないで政界を去ったあと,ルーズベルト大統領がニューディール政策で公共投資を積極的に打ち出し,景気回復を図ったことをなぞって,「グリーンディール」政策を打ち出している。

これは,クリーンエネルギーを中心として世界経済を再建しようとする試みなのである。景気減速や原油価格の落ち込みなど市場変化がこれらの動きを困難にさせるかも知れないが,今こそ環境を中心とした活動を展開するときであると訴えている。米国が元気にならないと,日本も元気にならない。ここ数年は景気回復は無理と云う評論家もいるが,是非,米国経済を早く立て直して欲しいと願うばかりである。

派遣切り

自動車業界の減速に最も大きな影響を受けたのが,社会問題になりつつある派遣切り(季節工の強制退社)である。社員寮を追い出され住むところもないと云う。派遣村ができ,行き場のない人が集まっていると云う。厚生労働省が見るに見かねて,体育館を正月の間だけ提供すると云う事態が起きている。会社は正規従業員を大切にするため,販売が落ち込むと当然の成り行きとして臨時工である季節工のカットが始まる。もともと季節工はこうした事態が発生することを予め認めて採用されている。しかし,これまではこうした事態でも,次の仕事がすぐ見つかったので,それほど問題にならなかったのである。

ところが,今回の不況はこれまでに経験したことのないものである。したがって,次の仕事が見つからないのである。ある人は云う,彼らは会社にとって,人間としての扱いでなくモノとして扱われているので,景気変動でカットすることを何とも思っていないと。多分その通りである。固定費として抱えることが負担増になるため変動費扱い(景気によって購入量を変動させる)になっている。これが会社の仕組みなのである。グローバル企業として世界の競争に通用するには,そうならざるを得ないのが実態である。企業の社会的責任を問う声もあるが,その社会的責任が変わって来つつあることも認識しておくべきである。

これは企業側に立った見解と云われるかもしれないが,必ずしもそうではない。日本企業がグローバルに競争していくには必要不可欠の仕組みであり,そうした中に居ることを冷静に見た上で,自分をしっかり見つめ,進むべき進路を見出さなければならなくなってきているのである。格差問題を叫ぶことも悪いことではないが,自ら格差を作るようなことをしていないか,考えるべきである。

ますます厳しくなく激動の2009年,明るく前向きに頑張る力を持とう

2009年も,さらに新たなチャレンジを!!

 

[Reported by H.Nishimura 2009.01.05]


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