■コミットメント (No.098)
「コミットメント」と云う言葉を使うことになったのでその話題について触れる。
まず,その状況を説明しておこう。
あるプロジェクトの計画検討段階での話である。一般的にプロジェクトをスタートするに当たっては,まずプロジェクト全体のスコープ(プロジェクトの範囲)を明確にする。その上で,その目標を定める。例えば,製品開発プロジェクトであれば,性能的な面,品質的な面などの目標値を決める(Q)。次に,それをいつまでに完成するか,全体のスケジュールを決める(D)。と同時に,それを実現するために,必要なリソース,必要な経費などを目論む(C)。こうしてプロジェクトのスコープに対するQCDが決まり,それらを幹部の承認を得てスタートする。(或いは内容により,顧客,ステークフォルダーなどの承認を得る)これはプロジェクトリーダがトップ,或いは幹部に対して,「この計画でプロジェクトを完遂します」と云う宣言であり,「コミットメントする」と云われるものである。
話題は,この計画段階での,リソース検討での話である。
通常は,必要な工数検討を綿密なWBSなどから計算して,それらからはじき出された必要工数に対応した要員を確保することになる。一般的には必要工数<確保要員とし,若干のリスクはバッファーとして認められている。このリスクをどれだけ取るかは,プロジェクトの不確定要因の多さや,リーダの見積り精度などから,それぞれのプロジェクトで適切と思われる分が認められている。
今回話題とするのは,このバッファー分の扱いについてである。前プロジェクトに対して方針として生産性向上を目指すことが打ち出され,具体的な活動が検討され,特にプロジェクトリーダはいろいろ確実に改善ができるものから,やや無理難題と思われることで改善できる可能性は薄い,つまりリスクがかなりある部分も含め,改善提案内容として入れて提案してきている。
こうした場合,改善内容を吟味して,確実に改善できる割合と,改善が難しいと思われる内容の割合を吟味し,前者は計画に盛り込むが,後者は挑戦目標などとし,計画外の目標にするのが一般的である。問題視したのは,改善計画をいろいろ検討し,これだけの改善をしますと内容詳細を説明しておきながら,肝心の要員計画には全く反映されず,改善前のままの人員が計画に入っている状態で報告されたのでそれでは折角検討した改善内容が,単なる考えの一つで,目標でも何でもないお題目だけになってしまっていることを指摘,内容吟味してできると思われることはコミットメントすべきではないかと考えたのである。
プロジェクトリーダの力量で,計画内とするか計画外とするかが大きく左右される。それがプロジェクト終了時の成果にも大きく影響することがある。しかし,プロジェクトそのものが非常に厳しい環境下や上からの要求が非常に厳しい場合は,なかなか計画外が認められず,考え出した改善案全てが計画内に盛り込まれ,プロジェクトが進むにつれ計画との乖離がひどく,結果的にプロジェクト全体が上手く行かないケースもよくあることである。
同じようなことが,経営全体にでも云える。私の少ない経験からは,十分利益が出ている経営状態の場合は,こうした適切な判断が認められ,計画にも少し余裕をもった確実なものができ,計画が確実に実行できる。ところが利益が出ていない赤字経営の場合は,赤字解消のため,どうしても無理な分まで計画に盛り込んでしまう傾向にある。これは,致し方のないことで,余程優秀な経営者で腹を括ったオーナーがトップであれば許されるが,少なくともサラリーマン経営者では許されないことである。そうすると,無理な計画なので,実行しなくても結果は明らかである。計画乖離がひどく,赤字経営からの脱却は計画段階の夢に終わってしまうことがしばしばある。
このように,計画そのものが,計画段階で必達計画になっているか否かが結果を大きく左右する。つまり,計画をコミットメントしているか否かである。この「コミットメント」と云う言葉は,それほど一般的に使われていた訳ではない。私の知る限りでは,日産自動車の再建にゴーン社長が就任され,その再建計画に対して,コミットメントと云う言葉を使われ,一般化したように感じている。つまり,このとき,ゴーン社長は再建計画を必達目標とし,それができないならば責任を取ると宣言されてスタートされ,見事それを成し遂げられたのだった。これが「コミットメント」で,日本語の適切な訳はなく,約束や義務,責務などと云われたり,確固たる決意の表明に用いられたりしている。
少なくとも折角時間を掛けていろいろ検討した内容を計画に折り込まずすべてを計画外にしてしまうことは,プロジェクトリーダとしては避けるべきである。少なくとも自信があると思う割合は,計画に入れコミットメントしてプロジェクト推進に当たって欲しいものである。このコミットメントが確実にできることが,その人を成長に導く有効な方法の一つである。
仕事をコミットメントして進めることは重要なことである
[Reported by H.Nishimura 2008.12.22]
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