■多様性 2(No.095)

多様性を語るとき,やはりアメリカ人をおいて語ることはできないだろう。と云っても,世界各国の人を知っている訳ではないが,アメリカ人ほど多様性を認めている国はないのではないか。それは端的に云えば,今年の大統領選挙のオバマ黒人大統領(厳密には,母親は白人で,混血だそうであるが)の誕生,そのものが象徴的である。少なくとも,1980年代までではアメリカでも,黒人の大統領などとは考えられなかったはずである。それなのに21世紀に入って簡単に認めてしまう国柄を改めて驚異に感じる。
例えは違うかも知れないが,日本の総理大臣に,中国人や韓国人がなったようなものである。そうしてみると日本人の多様性に関する対応はまだまだ幼稚と言わざるを得ない。

アメリカにそれほど詳しい訳ではないが,そもそもアメリカの成り立ちは200年強の歴史しか持たない移民の集まりの国である。特に日本のような島国の2000年近い歴史を持った,且つ他民族,即ち日本人以外を外国人として扱う同質性が基本である国とは根本的に違う。つまり,私の少ない経験からも,仕事でアメリカへ出張していても,アジア系アメリカ人と全く区分はされない,と云うより区分する意識そのものがないと云ったほうが良いのかも知れない。ビジネスパートナーであって,それが何人であっても気にすることなど一切無いと云った雰囲気なのである。これは1980年代のことである。そんなベースがあってこそ黒人の大統領の誕生と相成ったのではないか。その点,日本の社会の多様性をなかなか認めない社会,と云っても随分女性の社会進出など10数年前とはかなり変化をしてきているが,まだまだアメリカの多様性とは格段に差がある。

一方,多様性ではなく同質性の良さを日本人の特徴だと強調する声も少なくないことは事実である。会社生活でも,阿吽の呼吸が通じるのは同質性であるゆえである。チームが一丸となってやる気を出すことが得意なのも同質性の方が有利である。だから,多様性が無いから,何でもかんでもダメだと主張することには当てはまらない。ただ,生物学的にも,同質よりも,多様性を持った方が生き延びる確率が高く,交わることが生存率を上げるようである。また,生物学的だけでなく,今日のように変化が激しい時代にあって,求められるのは多様性である。変化に対する対応が同質よりも優れているからである。

活動範囲が限られた世界の時代では,接する人が限られ,異文化に触れる可能性も殆ど無い状態だった。その世界では,同質性の方がメリットは大きい。我々の世代が若い頃は輸出は盛んになっていたが海外へ出掛けることがそれほど多い時代ではなかった(1970年代)。世界と競争は初めていたが,それでも多様性を求める声は殆どなかった。極端には,男が社会に出て仕事をし,女は家庭を守るのがごく一般的だった。核家族がどんどん進行していたが,それでも家庭を持つ意味も,○○家へ嫁ぐ意味合いが残っていた。日本が高度成長を遂げた時代では同質性での対応が優れており,欧米に追いつけ追い越せを合言葉に突き進んでいれば良かったのである。

しかし,現代は株が全世界同時安になるように,地球上の全世界が一緒に回っている。同質性と云う意味では,地球人レベルでの同質性である。即ち,一昔前からは,全く違った多様性がないと生きていけなくなりつつあるのである。アメリカのサブプライムローンの問題に端を発した金融問題が,あっと言う間に世界を駆け巡り,100年に1度と云われる金融危機が世界を覆っている。一国だけで,同質性で切り抜けることなどは不可能である。多様性を必要とする考え方,見方をしながら,世界の情勢を分析,且つ自分達とすれば何をすべきかを冷静に判断できる力を持たなければならない。そんな社会に我々は生きているのである。日本が世界で生き延びて行くためには,大きく世界に目を開き,多様性を受容する風土・文化を作って行かなければならないのである。

昨今,多様性が求められているのは,ダイバーシティ(Diversity:多様性)マネジメントと云い,一人ひとりの多様性を認め,個々人を活かす形で仕事や人事制度を構築していこうというものである。
インターネットで調べると,「日本では一言で"ダイバーシティ"と表現するが,これは英語の"Diversity & Inclusion"を省略したもので,本来は"多様性の受容"を意味する。」とある。ダイバーシティという言葉を使う時,そこで意図しているのは,「外見上の違いや内面的な違いにかかわりなく,すべての人が各自の持てる力をフルに発揮して組織に貢献できるような環境をつくる」ことである。言い換えれば,「世の中にはさまざまな人がいる。人種,性別,年齢,身体障害の有無などの外的な違いだけでなく,価値観,宗教,生き方,考え方,性格,態度,などの内面も皆違う。『こうあるべし』と画一的な型にはまることを強要するのでなく,各自の個性を活かし能力を発揮できるような組織をつくる。それは,個人にとってプラスであるだけでなく,組織自体にとっても大きなプラスである。」という考え方である。つまりここでは企業の経営戦略として位置付けられている。

多様性をあなたはどのように感じていますか?

[Reported by H.Nishimura 2008.12.01]


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