■多様性 (No.094)

麻生総理大臣の発言が問題になっている。全国知事会の会合で,医者の不足の問題をどう考えるかとの質問に対し,「医者の確保との話だが,自分が病院を経営しているから言うわけではないが,社会的常識がかなり欠落している人が多い」と,政策そのものの問題を質すことなく,失言をされている。或いは,前大臣の中山議員が,日教組を取り上げて,大分県の教育委員会の問題の原因は日教組にある,と発言が波紋を呼び(他にも失言があったが),大臣を辞任することが起こった。

こうしたことの真意を追究したり,政治のあり方を論じたり,断じて許せないなどと主張するつもりはない。ただ,こうした話題から感じることがあるので,それについて感じたままを述べてみたい。

  閉じられた世界の歪み

先に述べた失言は,本人の本意とは若干違った形でマスコミを通じて伝えられていることは,後の弁明などを聞くと頷ける部分もある。一般的な話と,各々の立場での発言とは重みが違っており,それを混同して失言に結びついているように感じる。つまり,彼らの発言そのものは本人の意志で少しは偏ってはいるが,真実には近い部分ではないか,と感じる。

それは,医師や教師と云う職業柄ではなく,ずっと患者ばかりを相手にしてきている医師,或いは子供達を常に相手にしている先生,これらが長年続くと,閉じられた世界で一つの常識が出来上がる。それがいつしか,どの世界,どの社会でも通じる常識のように錯覚を起こしてしまっている気がしてならないのである。医師とか先生に限ったことではない。普通一般の会社でもそうしたことは起こっている。技術者でも,専門バカのように,技術の専門については誰よりも優秀だが,マネジメントや一般常識になると全くダメな人がいる。それと何ら変わらないように感じる。つまり,日頃接している世界が,一種の閉鎖社会とでも云ったような,世間一般ではなく,患者ばかりの相手だったり,子供だけの相手だと,常に見下ろした感覚で接することが当たり前になってしまって,それが習慣,或いはその世界では常識として扱われて,何一つ不思議なものではないのである。

以前に述べたかも知れないが,教師の夫婦の家庭は地域社会に上手く溶け込めていないことを感じたことがある。たまたまそうした場面に私だけが遭遇したのかもしれないが,地域活動には非協力的で,普通一般の家庭よりも,とげとげしいと云うのではなく,自分の家庭だけに閉鎖されているように感じた。確かに,共稼ぎで週末は家族で団欒を優先にされ,地域社会の活動よりもそちらに,と云う気持ちは最近の若い共稼ぎ夫婦に多くなってきている。その気持ちは判らないではないが,特に閉鎖した環境下でずっと仕事をしている人は,何か一般常識が欠落しているように映る。

  多様性の不足

この問題は,結局は多様性が欠けているのではないかと考えている。つまり,世間一般の常識と云うのは,いろいろな場面に遭遇し,いろいろな人と接して,時には失敗もして身に付いていくものである。それは,学生時代までには,到底身に付くはずがなく,社会人となってからしか吸収できない。それなのに,社会に出てからずっと閉ざされた世界で生活していると,そうした知識は判らないまま過ぎてゆくことになる。いろいろな場面,人,事件など,自分の経験の中の多様性が欠落していると云える。

技術者の専門バカも同じある。技術は専門性が高く,しかもその専門性に長けていることが大きな武器であり,技術者の殆どがこうした自分の得意とする専門を活かそうと深く入り込む。そして脇目も振らず一心不乱に打ち込む。達人の領域に達するような人は人一倍の努力をする。それは素晴らしいことである。だが,技術といっても,たった一つの技術で新しい発明や発見ができることは少なく,いろいろなものの組み合わせから新しい技術が生み出されることの方が圧倒的に多い。

つまり技術者と云えども,一つの技術ではなく,いろいろな技術の集まり,即ち多様性の中に新たなものが作られる。従って,会社でも成長の過程として,いつまでも同じ仕事をするよりも,新しい仕事にチャレンジして,新たな知識を身につけ,或いは新しい経験から学び,そこから新しい考えが芽生えることをさせているところもある。

人は同じ所でずっといると,やはり澱んだ空気にマヒされてしまい,それが当たり前になってしまうことがある。それに気がついて,自分で努力して変化を求め,チャレンジしている人はいくらでもいる。だから,すべての医師が,すべての先生がと言った表現は間違いだが,概ね多様性が欠落している人が,特に閉鎖した社会で仕事をしている人に多いことは違いない。

(続く)

あなたの居る職場は,多様性が欠けていませんか?

 

[Reported by H.Nishimura 2008.11.24]


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