■結果目標と管理目標との違い (No.082)
最近,目標に対して結果がどうだったと云う議論がされているが,どうも違和感が残ってしかたがない。よくよくそのことを考えてみると実際の行動と会議などで議論している「目標」と云う言葉とが,使っている言葉は同じであるが違っているのである。それは「目標」と云う同じ言葉なのに微妙に違っているのである。そのことについて考えてみる。
目標設定のありかた
開発プロジェクトの中で,QCDに関する目標が決められる。プロジェクトを進めながらその目標値を達成せんがために,いろいろな努力がなされる。その結果,実績が出て,目標値が達成されたかどうかが,吟味される。そこで,プロジェクトにおいては,予測と実績の差が少ないことが最も良いプロジェクトと云われる。予測に対して実績が大きく上回って目標達成すると,結果として良かったのであるが,プロジェクトとしては,決して良いプロジェクトではなく,それは予測のやり方が拙かったのではないかと見なされる。もちろん,予測をオーバーしたものは,目標管理が十分できていなかった良くないプロジェクトと云うことになる。
結果目標と管理目標の違い
ところで,プロジェクトにおいて目標値をオーバーしてしまった例を分析してみると,管理が不十分だったことが結構起こっている。それらをもう少し詳しく見ると,目標値が結果に対する指標で管理目標値とは違う場合がある。即ち,実際プロジェクトを進めている中では,目標値が達成できているかどうか判らず,終わってみて集計した結果を見ると,大幅にオーバーしてしまっていた,と云ったケースである。つまり,終わってみないと判らない結果目標値だけがあって,活動中でコントロールされるべき管理指標(目標値)が定まっていないことがおこっている。
これは,例えば技術の開発効率の目標などと云った場合で,分子,分母に何を持ってくるかにも依るが,比率としてみるので,常に分母,分子の集計が同時に行われなければ途中経過が判らない。プロジェクト全体が終わって,各々を集計した結果,結果として開発効率が上がったか下がったかが判ることになる。したがって,こうした目標値は管理指標としては使うことができない。つまり,プロジェクトの進捗などで目標管理をする場合,必ず管理目標に置き換えた形で管理できる,つまり,目標をオーバーしそうであれば,それをコントロールできるものになっていなければならない。プロジェクト管理では,こうした管理目標値をコントロールしなければいけない。多くの目標は管理可能なものであるが,中にはこのような結果指標が目標値になっているケースがある。それをそのまま管理目標値と同等に扱ってしまうと,結果OK,NGの判定だけになってしまう。プロジェクトリーダなどプロジェクト進捗を管理する立場にあっては,このようなことを十分理解した上で管理することが大切である。
目標の定義
また,これは当然のことであるが,よく起こることなので説明しておく。目標についても,最初の段階できっちり定義をしておくことが大切である。と云うのは,予測と実績で比較するとき,予測時点での定義と実績の定義が違っていては,管理にならない。つまり,定義するときに,何の目的でその目標値を定めるのか,はっきりさせておかないといけない。管理さえできればよいと,管理しやすい数値だけを管理するのでは,管理のための管理になって本質的な目的から外れた管理が横行することになってしまう。
この目標の定義についても,考えさせられることがある。誰が定義を決めるかである。経営トップが定義を決めるとその目標値が経営に結びついたものになるが,現場の実務者がその目的に合致した詳細データまで採取できているものかどうかまでがよく判らない。経営者として,経営判断に使う目標値にしたつもりでいても,その意図が十分伝わっていないと言葉だけはそのままであるが,経営者の意図するデータは採取が難しく,つい採取しやすいデータにすり替わっていることがある。この場合,下から上がってきたデータを経営幹部は信じるしかない。
一方,現場実務者で定義を任される場合もよくあることである。その場合外形上の言葉が独り歩きして,本来の目的と逸脱している場合がある。特に,現場実務者は経営上の観点から見ようとはせず,管理しやすいものや,自分たちの範疇のものに限定してしまうケースが多い。しかし,例えば「プロジェクト生産性」などと云った言葉では,経営者から見れば,プロジェクト全体の生産性が把握できる目標値だと,判断される。ところが,中身は外部委託分は数値計測が難しいから外してしまっている,など,経営上の観点から見られていない。
このようなことは現場でよく起こっていることである。経営幹部は実際のデータまでよく見て,或いは現場責任者は経営者の意図を十分汲んで判断するように,と常々言い伝えられているができていないのが実態である。そこは,中間管理層がどれだけ責任と権限を持たされている会社かによって,大きく違っている気がする。
目標は明確になっていますか? 予測と実績のフォローはありますか?
それは結果目標になっていませんか? それに対する管理目標が定まっていますか?
[Reported by H.Nishimura 2008.09.01]
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