■格差社会 (No.078)

格差が拡がっている。小泉時代の構造改革の失敗だと騒ぎ立てている人もいる。確かに以前よりも格差が拡がる傾向になっていることは事実である。しかし,一般的には格差社会が酷いと叫んでいる人ほど,自分自身で何をすべきかが判らない状態に陥っている。

格差と云うのは今に始まったものではない。格差社会が嫌なら,中国のように社会主義が良いのかと云うと,そうではないと答える人が多いのではないだろうか。つまり,そうであれば資本主義社会では,格差はつきものなのである。一生懸命働いた人とそうでない人との間に差が付くことは,資本主義社会では当然の結果であり,それをもって格差が問題であると言い出すと根本から考え方を見直さなければならない。

はじめに,格差が拡がる傾向にある,と述べたのは,平等なチャンスがありながら,どちらに行くかで格差がつき,自分の努力とは違ったもので差が付くようになってきていると感じるからである。一番身近な例は,正規雇用の社員と非正規雇用の社員との格差である。同じ仕事をしながら,或いは正規雇用の社員よりもずっと責任のある仕事を一生懸命していても,非正規雇用と云うだけで給料に厳然たる大差が付いてしまっていることである。

こうした事例を以て,不平不満を言い出す人は多い。しかし,それは現代社会の社会システムから考えると極めて合理的な動きの中で,企業が取り得る手段としてそのようになっていることを先ず知っておく必要がある。

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上の図は,正規従業員と非正規雇用社員との関係を示した図である。正規従業員の仕事の中で,付加価値が少ない仕事はどんどん切り離され,派遣社員など非正規雇用の社員で賄うようになってきている。即ち,正規雇用の社員を少なくして,外部の派遣社員が,正社員と同じ職場で安い給料で仕事をすることに変わってきている。これは会社にとっては,間接固定費を下げ,景気の変動には強くなり,労働分配率(人件費・労務費÷付加価値)が少なくなり,効率よく付加価値を生み出していると云える。結果的には,付加価値が効率的に生み出される分,利益も上がり競争力も増すことになる。

なぜ,企業がこのようなことをしなければならないのか。それは現在では,企業は(特に,大企業では)グローバルな競争社会に晒されている。一昔の高度成長時代は日本そのものが低所得の,しかも円が今よりも2,3倍安い時代で,国際競争力に果敢に立ち向かって行けた。ところが,現在はそうではなくなっている。つまり,ASEAN,中国,インドなどアジアの各国がどんどん力を付け,安い労働力を武器に高度成長をしており,かっての日本の地位はすっかり変わってしまったのである。つまり,日本企業として安い労働力を持った国との競争は,そのままでは勝ち目が無く,より付加価値の高い仕事をしなければならなくなっている。

つまり企業の中の正規雇用社員が付加価値の低い仕事をやっているようでは,競争力がなく,正規雇用社員はより付加価値の高い仕事をしなければ企業として存続できなくなってしまっている。だから,派遣社員が社内に入り込み,或いは,オフショアで海外の安い労働力を使うようになってきているのである。これらの流れは,10年以上,会社によっては20年以上前から,海外に会社を作り,現地で生産をしている会社が多いことからも判るのではないだろうか。製品の生産はそのように随分昔から既に始められていたが,オフィスの仕事までがそうなってきているのである。

再度,上の図を見ていただきたいが,つまり派遣社員は,正規雇用の社員の仕事の中で,付加価値が少ないと思われる仕事で安い労働力としての役割を担っているが,下からオフショアと云った海外の安い労働力に脅かされている。先日もNHKの「インドの衝撃」と云う映像が流れていたが,インドの大学院卒の年収が75万円で,約日本の1/4程度と放送されていた。つまり,派遣社員よりも1/2程度以下の給料で,最高学歴をもった人を雇えるのである。特に,ソフトウェアと云ったインドの得意とする分野は,いつしか殆ど占拠されてしまわないかと本気で心配する。

特に派遣社員の人は,格差社会と嘆いていても,世の中がそうした流れになっていることを良く知っておかなければ,いつまでも負け犬のままでいなければならないのである。前回述べた,将来に向けた不安感で一杯になっているだけでなく,正しい危機感を持つことである。即ち,正規社員と同等以上のスキルを身につけることである。そうすれば,派遣社員であっても,やがてはその会社での正規社員の道が拓けたり,或いは,違う会社で正規社員になることも可能である。そうしたはっきりとした目標を決め,その目標に向かって日々努力しなければ,格差は年齢を取るにつれて拡がっていくのである。若い間はそれになかなか気づかないだけである。

今のままでは,年齢とともに格差はますます拡大しますよ!!

今から,高いスキルを身につける目標を決め,実行しましょう!!

 

[Reported by H.Nishimura 2008.08.04]


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