■危機感と不安感 (No.077)
景気が思わしくなく物価がどんどん上がり消費者は悲鳴を上げている。このままではどうなるかと将来に対して不安を抱く人は多い。年配者にとってはリストラ,若い人にとっては就職先がない。正規雇用者に対して非正規雇用者が半分,つまり三分の一が非正規雇用者で占める事態になっている。これは,我々の時代から考えると異常以外の何物でもない。
こうした安定の少ない時代にあって,当にその渦の中にいる本人はどのように考えているのだろうか?それは大変なことと,危機意識を持った人が居るかと云うと,意外にそのように感じている人は少ない。同じように不平,不満を言って,不安を煽っている人は居る。しかし,それらは私が見る限り危機感の意識ではない。不安感でしかない。
それでは,危機感と不安感と何が違うのか?
不安感は子供でも持つことがある。しかし,子供に危機感があるとは云わない。それは,何をどうして良いか判らない状況に置かれているからである。大人でも,真っ暗闇でよく判らない状態に置かれると不安が募ってくる。このことからも判るように,脅え,怖がる状態にあることが不安感であって,何をすべきか判らず行動に結びつかない状態にいるときである。我が身を守ることに終始する状態である。
例えば赤字で会社が倒産するかも知れない,と煽るのは不安感を増すだけである。経営者が危機感を持たせようとして言っているつもりでも,受け手は不安感として受け止めている。これでは,経営者の目的とは全く逆の効果である。危機感を持たせようとするならば,自社の厳しい経営環境を克服して今の状態から抜け出すために何をすればよいのかを正しく認識してもらい,これを実行することを強く訴える必要がある。それを受けて,この危機を脱するために,何をすべきかを決め,行動に移すことが,正しい危機感を持っていると云えるのである。つまり,不安感と危機感の最大の違いは,何をすればよいかを解っているかいないかの違いであり,それを抜け出す行動につながるか否かであると,考えている。
そう考えたとき,若い人たちが自分たちの将来に対して,不安感を持っている人は多いが,危機感を持っている人は少ない,と云うのはその通りだと理解して貰えるのではないだろうか。
不安感を危機感に変えるには
最近は経営が悪くない状態でも,若者の多くが,「自分の仕事はこれからどうなるのだろうか」とか「我が社の行く末はどうなっていくのだろうか」といった不安を感じることが少なくない。こうした不安感を抱く時,その不安の根源とか,自分や会社の将来の姿などが漠然としていることが多いようである。なぜ今こうなっているのか理解できない,将来どうなるか判らないし予想もできない,といった状態である。
年配者はこの先どうなるかと心配し,若者は転職を真剣に考えようとする。自分が勤めている会社の経営状態と他社との比較,それと自分の持っている能力を見比べてみる。こうした人の殆どは,自分の仕事や会社に感じている何となく良くない状態から抜け出すために,自分としては何をすればよいのか,それが判らないというのが不安感を持つ最大の理由なのである。
こうした若者が多い環境下では,自社の経営環境を正しく知ってもらい,何をすれば厳しい状態を克服できるかを示し,これを実行することを強く訴え,社員の持つ不安感を危機感に変えることこそ,経営者,組織責任者の担うべき最大の責務なのである。しかし,なかなかこうしたことができていない場合が多い。みんなと一緒になって,環境が悪いとか,世の中の流れだから仕方がないと諦める責任者,酷い場合は,部下が思い通りにやってくれないから上手く行かないのだと他責にする責任者もいる。しっかりした責任者がいる会社では,上手く危機感が組織内に醸成され,立ち直りも早いはずである。そうでない組織では不安感が募るばかりで,経営状態は少しも良くならないだろう。一方,社員も不安を募らせ,お互いが不安を煽るような話題に終始しているのではなく,自らが置かれた立場で,この危機を脱するには何をすべきか自らが考え,自分だけで行動できないことは,上司に提案し,会社全体が良くなる行動を促すことが必要である。類は友を呼ぶ,と云われるように同じ意識仲間が集まりやすい。不平,不満を並べているだけでは,みんなの意識も不安感だけが大きくなる。そうではなく,例えば,今まで常識と思われたやり方が拙かったのでこんな結果になったことを素直に認め,今までの常識を覆すことにチャレンジするよう意識が芽生え,危機感がみんなで共有できれば必ず良い方向へ向かうに違いない。
経営状態が良くないほど不安感ではなく,危機感をしっかり持つことが重要なのである。
あなたには正しい危機感がありますか?
不安感を危機感と思っていませんか?
[Reported by H.Nishimura 2008.07.28]
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